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4章-7.相談(3) 2021.8.29

「他に聞きたいことはありますカ?」

「えっと……。あと、私がやった仕事ってどういうものなのかなっていうのが気になります……。何て言えば良いのか分からないんですが、誰がなんの為に依頼したもので、それを達成すると世の中にどんな影響があるかみたいな所が気になっていて……。気にしない方がいいのかなって思ったんですが、やっぱり気になっちゃって……」

「成程」


 シュンレイは再び考えているようだ。そしてしばらくすると口を開いた。


「確かにこれは気にしない方が良い話ではありまス。何故ならば、変なことに首を突っ込んでいい事が何も無いためでス。個人の善悪の価値観などは、任務達成において邪魔でしかありませン。従って殆どのプレイヤーはそれらを一切気にせず言われた通りに仕事をしていまス」


 やはり予想通り、気にすべきことではないようだ。確かに知らないままでも仕事は出来るし、与えられた仕事をしっかりこなすだけで良いのかもしれない。シュンレイが言うように、余計な考えは命取りになるかもしれないのだ。

 仕事によっては、敵側の事情を知る事で情が移ってしまって、止めを刺せないなんて事もあるかもしれない。そういった失敗を防ぐためにも、()()()()という事は良い事なのだろう。


「とはいえ、知るべきでは無いという話でもありませン。店主である私は、依頼の経緯や依頼主について調査し精査した後、依頼を引き受け、プレイヤーに仕事を振り分けているのデ、ユミさんが気になっている事は全て把握していまス。気になるのであれば私に尋ねるのが正解でス」


 逆に気になって仕事に集中できなくなるくらいなら、シュンレイに尋ねてしまう方が良いという話なのだろう。知らない方が仕事をしやすいというだけで、その情報は知ってはいけない事ではないという話だ。今まで何故その情報が、事前情報に含まれていなかったのかをユミはようやく理解した。


「少し難しい話になりますが、実は店ごとにそれぞれの基準で、取り扱う依頼を選んでいまス。私の場合は警察に睨まれないような仕事しか仲介してませン。また、その仕事をすることでタチの悪い派閥に加担してしまう依頼も取り扱いませン。Dランク以下の仕事も基本扱いませン」


 それは初耳である。シュンレイはそういった基準で、仕事を持ってきていたという事の様だ。この社会で生き残るためには、やはりそうした厳選は必須なのだろう。極力リスクを無くすために、警察には配慮しているのかもしれない。

 また、プレイヤー達が仕事とは関係ないところで、無駄な争いに巻き込まれないようにと調整してくれているのだろうと想像する。


「当然、プレイヤー達にとっても自身が気に食わない組織を助けるような仕事はしたくないでしょウ。もし店主の基準と自分の仕事選びの基準が合致していれば、いちいち依頼主や仕事を行ったことで生じる影響など考える必要もなくなりまス。従って、野良のプレイヤー達がどの店で仕事を受けるかは、このようにして決まってくるところがありまス」


 確かに自分が嫌うような人、敵対する人を助けるような仕事はしたくないはずだ。そこで、自分と同じような考えを持つ店主がいれば、そうした仕事を特に気を付けなくても避ける事が出来るという話のようである。ユミは成程なと納得する。


「なので、プレイヤーの間では人気の店や評判のいい店、駆け出しプレイヤーに優しい店や、何でもやらせてくれる店、などと評価され選ばれたり選ばれなかったりしまス」

「成程……。店によっても取り扱う依頼の種類や傾向が異なるって事ですね。そんなふうに依頼が私たちのところまで来ると……。シュンレイさんが選んでくれてるって思うと安心します。ちなみに、実際に私がやってきた仕事は、どんな方からの依頼なんですか?」

「ユミさんとアヤメさんの場合は、殆どが警察からの依頼でス。グレー落ちした人間が運営する麻薬密売組織や麻薬製造工場内の人間の殲滅、裏社会とかかわりを密に持った反社組織の殲滅が仕事の内容でス。ユミさんの戦闘スタイルは殲滅系が向いていますのデ、適切な仕事を割り振った結果このようになっていまス。チェーンソーの音の問題があるのデ、他の依頼でよくある暗殺や護衛や誘拐、潜入捜査や警備等は向かないでしょウ」

「警察……」


 警察とは、やはり自分が知っているあの警察で良いのだろうか。警察と聞くと自分は捕まって殺されるのではと未だに思ってしまう所がある。

 ユミは一般人を無差別に3人殺している。その事実は変わらない。一般人に手を出すと、警察が動いてしまうと以前シエスタに聞いた。黒やグレーと呼ばれる人間を対象に扱う部署があって目を付けられると厄介だとも言っていたのを思い出す。


「ユミさん。大丈夫です。ユミさんが当時の件で警察に処分されるという事はありませン。既に処理済みですかラ、安心してくださイ」

「……」


 シュンレイが安心して良いと言っているのだから、きっと上手く処理されているのだろう。今後も警察から狙われることも無いのだろうと思う。

 きっと許されたというのとは異なるはずだ。一体どんな処理をすれば、見逃されるのだろうか。全く想像ができない分、不安な気持ちがどうしてもぬぐえない。


「そうですね……。ユミさんの罪は、一般人3人の無差別殺人でス。成人がこれを正気で行えバ、恐らく死刑でス。しかしアナタは未成年、そして心神喪失の状況にありと言えますのでそれよりは軽くなるかもしれませン。ただ、死体を損壊していたりしますのデ、それ程簡単に妥当な刑は決められないでしょウ」


 ユミの不安はしっかりと顔に出てしまっていたようだ。自分の罪がどういう扱いなのか、シュンレイはそれを教えてくれようとしているのだろう。


「アナタは現状刑を受けていませんのデ、一般人として完全な復帰は厳しい状況でス。戸籍は力技で残していますガ、元通りの生活を手に入れる事は出来ないでしょウ。警察と交渉シ、懲役する等刑を受け入れるなどしテ一般人社会へ復帰する人間も中にはいますガ、前科が付き生きづらくなるのでお勧めしませン」

 

 確かに前科持ちの人間に対して、世の中が優しいはずがない。働き口や住む場所も制限されるだろうし、周囲からの視線もあって非常に生活しにくくなるだろう。


「事件当時、ユミさんは一般人でしタ。そのため当時の事件については、一般人に対しての刑が適用されまス。故に、警察も問答無用で見つけ次第アナタを殺すということはありませン。また、一般に復帰するというわけではないため、見逃されていまス」


 つまり、裏社会の人間、もともと黒やグレーの人間が同じことをしていれば、警察に見逃されることは無く、見つけ次第殺処分だという話の様だ。現状ユミが警察から追われない理屈が分かりようやくホッとする。

 たとえ気にしたところでユミにはどうすることもできない話ではあったが、理由が聞けて良かったと思う。


「安心しましたカ?」

「はい。ありがとうございます。それにしても、今までの仕事の依頼主が警察というのは驚きました。警察も殺し屋達を利用するなんて、なんかイメージできなくて……」

 

 今まで行ってきた仕事の依頼主が警察というのは正直驚きだった。警察がプレイヤーに仕事を依頼するというと、色々と問題があるような気がしてしまう。恐らくではあるが、警察とは言っても、黒やグレーを対象にした部署からの依頼だろう。彼等は日々法的に許された方法だけで活動している訳ではないのだろうから、問題にはならないのだろうなとは推測できる。


「警察からの依頼を取り扱う店は現状私の店だけでス。独占状態でス。ほかの店は警察とは距離を置きたい等の理由かラ、警察からの依頼は仲介していないようでス。非常に儲かるのに勿体なイ……。私としては独占できてありがたいですガ」


 店によっては警察に喧嘩を売るような依頼を仲介しているのかもしれない。そうなると、警察と距離を置きたいという気持ちは何となく察することが出来る。


「警察以外だと、殲滅系の依頼主は比較的大きな組織であることが殆どでしょウ。殲滅依頼をするにはかなりの金額を積む必要がありますかラ、まず個人では厳しイ。派閥争いのためライバルの拠点を殲滅して欲しい等が依頼内容になりまス。派閥争いに巻き込まれるような依頼を無闇に受けルと、仕事を受けタ各個人のプレイヤーが報復対象にされル可能性があるため、私は殆ど仲介してませン」


 シュンレイは報復等のリスクが少ない仕事をしっかり選んでくれているという事だ。流石だなと感じる。


「ユミさんはしっかり取り零しなク殲滅できルため、殲滅の依頼を割り振りやすいでス。殲滅系は1人でも対象を取り零せば報復や情報が漏れル等のリスクが生じるのデ、プレイヤーを選ぶ仕事内容でス。人数の確認もしっかりされていルようなのデ、私も安心してユミさんに任せルことが出来まス」


 人数の確認は、アヤメに大事だから絶対やるようにと何度も言われた事だ。ターゲット全員の顔や特徴を覚えて、確実に殲滅する事が大切なんだと力説された記憶がある。理由は今初めて分かったが、取りこぼしが許されないという事だったようだ。


「その様子だと、アヤメさんは理由までは教えていないようですネ」

「はい。そうですね。初耳でした。絶対に人数を確認するんだよって指導された理由がやっと分かって、しっくりきました!」


 シュンレイはため息をついてしまった。


「ユミさんが素直に聞く子であっテ良かったでス」

「えへへ。アヤメさんに言われたら何でも聞いちゃいます。一生懸命力説する姿が可愛くて……」


 盲信しているのかもしれない。またザンゾーにそこを付け込まれて幻術をかけられてしまうかもしれないが、誰に何を言われようとアヤメを信じる気持ちは一生無くならないだろうなと思うのだった。

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