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4章-7.相談(1) 2021.8.29

 家電量販店でかつての同級生と出会ってしまった日の翌日の夜。ユミはシュンレイに昨日の出来事を報告すべくbarに向かった。ゆっくりとbarの扉を開けると、今日も変わらずシュンレイはbarのテーブルでパイプタバコを吸いながら独り本を読んでいた。

 ユミがbarに入るとシュンレイは栞を挟み、本を閉じてユミの方へ顔を向けた。ユミはゆっくりとシュンレイの方へ歩いていく。どうやって話を切り出そうか。普段あまり自分から話を持ち出すことは無いため、いざ話をしに行くとなると少し戸惑ってしまう。


「何か悩みですカ?」

「あ、えっと……。はい。そんなに顔に出てましたか?」

「えぇ。アヤメさん並みに出ていまス」

「え。それってモロバレってことじゃないですか……」

「えぇ。その通りでス」


 自分にはポーカーフェイスなどできないのだろう。アヤメ並みという事は全て顔に出ているという事だ。


「アイスティーでいいですカ?」

「はい。ありがとうございます」


 シュンレイは立ち上がり冷蔵庫から冷えたアイスティーをグラスに注いで出してくれた。シュンレイの座っていたテーブルにも飲みかけのアイスティーがある事から、沢山作って冷やしておいたのだろうなと想像できる。


「そこに座ってください。聞きましょウ」


 ユミはシュンレイが座っていたテーブル席の向かい椅子に座る。


「えっと。昨日家電量販店に行ったんですが、中学の同じクラスの子に会ってしまって……」

「何か聞かれたり言われましたカ?」

「はい。どこに住んでるかとか、親戚の家族とはどうかとか、連絡先とか、どう過ごしているかとか、今通っている中学はどこなのかとか、高校受験はどうするのかとか、また皆で集まって一緒に遊んだり勉強しようとか……。その子には全く悪気は無かったみたいで、笑顔でそんな事をずっと聞かれてしまって……」

「それは困らせてしまいましたネ。私の方から事前にユミさんにお伝えしておくべきことでしタ。大丈夫でしたカ?」

「はい。答えられずに困ってたところで、ザンゾーがいとこの兄だと嘘をついて間に入ってくれたので、何とか躱せました」

「そうですカ。ザンゾーから何か聞きましたカ?」

「私がどんな処理をされているかざっくりと教えてもらいました。てっきり死んだことになっているものと思っていたので、色々と驚きました」


 シュンレイは何か考えているようだった。


「ユミさんを学校に通わせてあげることはできませんが、中学卒業などの履歴を残すことはできます。勉強してみますカ?」

「へ?」


 何故そんな話になったのか分からずユミは首を傾げた。

 

「悩んでいるのでしょウ? 最近は本も読んでいるようですシ、将来のことなど考えているのかと思いましタ。中学は義務教育なので出席日数など不要でス。書類上はこのままでも卒業可能でス。とはいえそれではユミさんの自信には繋がらないでしょウ。学びたいという意欲があるのであれば環境くらいどうとでもできまス」


 驚きで固まる。止まってしまった一般人としての自分の時間に対して、せめて中学卒業レベルまでは進めることができるという事だ。

 シュンレイは、自分が将来について焦り悩んでいる事を、しっかり見抜いていたようだ。同級生の事を伝える自分の姿は、酷く落ち込んでいるように見えたのかもしれない。実際とても落ち込んでいる。考えないようにはしていても、やはり気になりもやもやしてしまう。

 かつての同級生と会ってしまったことで、抱えていた悩みが一層深くなってしまった事も、今の一連のやり取りで見抜かれたようだと悟る。


「学びたいです。このまま何もかも中途半端なのは嫌です……」

「分かりましタ。手配しておきまス」

「ありがとうございます」


 本当に敵わないなぁと思う。自分の顔面が正直すぎるのもあるだろうが、本当によく見てくれているなと感じる。それだけ大事にされているのだという事が伝わってくる。


「もし今後同級生に会って色々聞かれてしまった場合には、今のスマートフォンの連絡先や住所を教えてしまっても大した問題にはなりませン。ユミさんは嘘が付けませんかラ、下手に隠すよりはそのまま素直に教えてしまった方がマシでしょウ。また、叔父について聞かれたら私の事を叔父と思って答えてしまってくださイ。既に保護者のようなものなのでそちらも問題ありませン」

「わ、分かりました」

「ただ、理解しているとは思いますガ、あまり一般人と交流することは望ましくありませン。事件に巻き込んでしまう場合もありますシ、機密情報を知られてしまっタ場合には殺さなければならなくなりまス。不自然にならない程度には、お誘いなどは断るようにしてくださイ。現在も頻繁に病院へ行かなければならいと言えバ断りやすいでしょウ」

「了解です」


 なんだか胸につかえていたもやもやが少し消えた気がする。自分だけ取り残されて、同級生に置いて行かれてしまったという現実は、意外にも自分の中でショックだったのかもしれない。気にしないようにしていても、やはり心のどこかにつかえてしまっていたのだろう。

 ユミはアイスティーを一口飲む。相変わらずシュンレイが淹れた紅茶は美味しい。心が落ち着いていく。


「ユミさん。まだ、何かあるのでしょウ?」

「う……。えっと……」


 自分の顔面はどれだけ正直なのだろうか。呆れてしまう。


「その、この裏社会の事、私知らなすぎだなって最近痛感してて……。受け身でいても何も分からないまま時間が過ぎていくだけなんだって分かって……。だから、もっと積極的に関わっていきたいと思いました。ザンゾーに野良開放日のbarでお手伝いでもしたらどうだって言われて、可能ならやってみたいなって……」

「えぇ。構いませン」

「!?」

「せっかくなら野良開放日のbarで、簡単なフードでも出してみましょウ。ドリンクも別に難しくはありません。ユミさんならできまス」


 こんなにあっさり許可が下りるとは思わなかった。


「ありがとうございます! 頑張ります!」


 なんだか一歩前進できたような気がする。新しく何かを始めるとなると少し不安があるが、この不安は悪い物ではない。挑戦させてもらえることに感謝だ。自分がやってみたい事に対して、背中を教えてもらえるというのは本当に嬉しい事だなとユミは感じた。

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