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4章-6.経過(3) 2021.8.28

「さすがに呪詛が掛けられた臓器は、俺でも簡単にはパクれねぇからなぁ……。しっかり個数管理されてて、持ち出しが制限されてらぁ」

「直接毒物がある部分へ取り込まれる仕組みさえ分かれば良いのですが……。呪詛の仕組みは本当に理解ができません。故に呪詛等と呼ばれているのでしょうが……」


 フクジュもザンゾーも考え込んでしまった。頭のいい人達がこれだけ悩んでいるのだから、呪詛とは本当に厄介な物なのだろうと思う。

 呪詛が施された臓器を調べても、化け物にされた人間を調べても原理が全く分からないというのは、得体の知れない怖さがある。


「ユミさん、呪詛の掛けられた臓器と普通の臓器で何か感覚的に違いはありますか?」


 フクジュに問われて、ユミは改めて違いを考えてみる。

 呪詛が掛けられた臓器。今まで見たもので言えば、両親の臓器、公園で肉塊の上に乗せられていた心臓、ザンゾーに捕まった時に赤い皿の上に出された心臓。それらが該当する。


「食べた時の感覚ですが、呪詛が掛けられた物の方がずっと美味しいです。力もより湧いてきます。時間が経ってもその魅力は変わりません。また、食欲を掻き立てられる度合いが全く違います。見たらとても食べたいと感じます。普通の臓器の方は、勿論美味しいんですが、時間が少し経つだけで美味しそうに見えなくなるので……。普通の臓器の場合、やっぱり生きているか、死にたてである事が重要みたいです。死にたてならとても美味しそうに感じます。見た目に違いは無いので不思議です。全く違う物に感じます」

「ありがとうございます」


 フクジュはノートにメモを取っていた。自分が答えた主観的な話も何か参考になるのだろうか。

 少しでも情報をかき集めて、手がかりを探そうとしてくれているのだろう。確かに自分が今述べた主観は異常だ。特殊なものと言える。化け物になってしまった人たちは意志疎通ができないのだから、自分が話さなければ知りようが無いような情報とも言えるので、参考になるのかもしれない。

 

「あるとすれば食欲のトリガーかぁ?」

「そうですね。呪詛を施した臓器から出てくる物質だけで効果を成り立たせる事ができるとは考えにくいため、本人の知覚による影響が条件となっている可能性があると考えております」


 また難しい話になってきた。自分のことなのに話についていけない。自分には知らない事が多すぎるなと感じる。


「ユミさん、食欲を掻き立てられる度合いが違うという事ですが、どれくらい異なりますか?」

「えっと……。例えると、普通の臓器の場合は小腹がすいた時に出されるデザート位です。我慢しろと言われれば普通に我慢できる感じです。呪詛が掛けられた臓器の方は、見ただけでヨダレが止まらなくなっちゃいます。視界に臓器が入る限りヨダレが溢れて止まらないです。満腹時であれは我慢するのはそんなに辛くないですが、お腹がすいていると我慢するのはかなり辛いです」

「やはり、呪詛が掛けられた臓器に対する食欲は異常な状態と考えられます。空腹時に分泌される脳内物質に、あたりを付けて調べるのは有効かもしれません」


 何かヒントになれば良いなと思う。自分のために毎日沢山調査し研究してくれているのだ。こんなにやつれてしまって申し訳なさも感じる。


「ユミ、こいつがやつれているのは別に研究が忙しいせいじゃねぇから気にすんじゃぁねぇぞ」

「え、でも……」

「ユミさん、ザンゾーさんが仰った通りです。ただ私が現実を甘く見すぎていたために、勝手にメンタルをやられているだけとなります。私の未熟さ故ですので、どうかお気になさらずに……」

「はい……」


 そういえば先週、ザンゾーが実験するためにフクジュを連れていくと言っていた。ザンゾーが研究している場所へ長期的に連れて行かれたものと思われるが。

 連れていかれた先で何か辛い事があったのだろうなと思う。フクジュは正義感が強そうな印象だ。信念を打ち砕かれるような経験でもしてしまったのかもしれない。


「でも、無理しないで欲しいなって……。あ、でも期限とかあるから、私が言えることじゃないんですが……。えっと……。体を大事にして欲しいなって思って……」


 なんて言えばいいのだろう。上手く言えない。安易に無理しないでとは言える状況では無いのは分かっているが、やはり心配な気持ちがある。


「ユミさんはお優しいですね。大丈夫です。ユミさんのお気持ちは伝わっております。体調面にも気をつけて研究を進めるように致します」


 フクジュはそう言って笑顔を向けてくれた。それでもきっとこの人は無理をするのだろうなと思ってしまう。そんな気がした。


***


 本日の目的は終了したため、ユミはフクジュの研究施設を後にする。ザンゾーとシュンレイはまだ用事があるらしく、ユミ1人だけ抜ける形となった。この後の予定は特にない。思ったより時間がかからなかったので、微妙な時間が出来てしまった。少し遠出して買い物にでも行こうかなとユミは思い立つ。


 家電量販店で調理器具等を見るのもいいかもしれない。給料はひたすら貯金していて必要な生活費以外で使っていないため、この機会に自分の生活を少しグレードアップするのもいいなと思う。

 オーブンや圧力鍋、コーヒーメーカーにブレンダー等欲しいものが次々に思い浮かぶ。アヤメにお菓子を作ったら喜ぶだろうか。お菓子をつくる機材もいいものがあれば見てみたいなと思う。そんな妄想を膨らませながらユミは地下鉄で数駅行った先にある家電量販店を目指した。

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