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【完結】血まみれシュレッダー1 〜戸塚結実の追憶〜  作者: ゆこさん
4章

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4章-3.崩壊(4) 2021.8.16

「チェーンソーの子、貴女は私を恨んでいますか?」


 私は少女に問いかける。活路を見出すために、会話をもちかける。私の問いかけに、少女は動きを止めて首を傾げた。そして何か考えているようだった。

 そしてしばらくすると真っ直ぐに私を見て少女は口を開いた。


「恨むとかは無いです。だって仕事だったんですよね? んー。でもそうですね。発作で苦しかった時を思うと、コノヤローって思いますね」


 少女は平然と答えた。そこには本当に殺気や憎しみの念もない。本当に答えた通りなのだろうと感じた。


「私はあなたを絶対に許さないよ。ユミちゃんがどれだけ苦しんだか。現に今だって大変な思いをしてる」


 一方で舞姫からは非常に強い殺気が放たれていた。本当に許せないという思いが伝わってくる。このチェーンソーの少女を大切に思うが故なのだろうと察した。


「分かりました……。答えてくれてありがとうございます。一つ私と交渉しませんか?」

「……」


 私は彼女達の回答を聞き、交渉を持ちかける。交渉する余地があると確信した。

 安全に交渉を進めるためには先ず、切り込まれない為の策が必要だろう。私は自身の周り、半径3メートル程度の範囲に毒液を撒き散らし毒の沼を形成した。一定時間この範囲には誰も入れなくなる。

 私自身この毒には完全な耐性は無い。だが、全く耐性がない人間であれば、この範囲に入り気化した毒素を吸えば直ぐに死ぬ。チェーンソーの少女であれば少しは持つかもしれないが、それでも私よりは稼働できる時間は圧倒的に少ないだろう。


「私は特殊な目を持っているので毒の有無を見ることができます。従って、チェーンソーの子の体内に非常に危険な毒があることが分かります。また、私はその毒を解毒できます。もし解毒せずに放置すれば、その子は徐々にその毒に侵食されて死ぬでしょう。もっても5年から10年と思います。原理は分かりませんが、現状その毒は1箇所に集まり閉じ込められた状態です。だから今は体を動かす事が出来ますが、その毒は今も少しずつ漏れだしています。そして少しずつ侵食されています。どうでしょうか。その毒を解毒する代わりに私の命を見逃して頂けませんか」


 案の定だった。舞姫は酷く困惑しているようだった。

 自分も卑怯だなと思う。舞姫がこの少女を大切にしているのであればこそ、少女の命を天秤にかけることで、自分の助かる道を掴もうとしているのだから。


「アヤメさん。この周りの毒は私でもダメそうです。近づけません。ずっと続くわけではなさそうなので効果が切れるまで待つしかないかもです。あと、アヤメさんのワイヤーにも触れない方がいいと思います」


 チェーンソーの少女は本当に勘がいいようだ。この毒の沼に入る事はやめた方がいい。少女が言ったようにワイヤーも触れない方がいい。下手に液体部分を飛び散らせると大惨事になるだろう。この周囲の毒沼が続く限りは私の命には猶予ができた。それまでに交渉を成り立たせたい。


 舞姫は考えているようだった。任務を遂行する事とチェーンソーの少女を助ける事、どちらを優先するのか迷っているのかもしれない。


「その毒を確実に解毒できるのはこの世の中に私だけです。その子を助けたいのであれば尚更私を殺すべきでは無いと思います」


 これはハッタリだ。他の毒を扱う一族等も恐らく時間をかければ解毒剤は作れるだろう。


「アヤメさん……」


 チェーンソーの少女は舞姫の元へ駆け寄っていく。舞姫はそんな少女を優しい目で見ていた。


「とても魅力的な提案だね」

「でも……」

「うん。困っちゃうよ。信用なんて一切できないけど、可能性を見せられるとどうしてもね……」


 本当に舞姫は少女の事が大切なのだろう。こんな信用できない相手の言葉でさえ、可能性を知って躊躇している。そんな彼女たちの関係性を利用して交渉する私は本当に悪党だなと思う。

 だが、それでも私だって諦めるわけにはいかない。こうして希望が見えた以上、卑怯だろうとなんだろうと、交渉を成立させて目的を果たせる可能性にしがみつきたい。


 もう一押しだろうか。もう少し良い条件を出せば交渉は成立するかもしれない。


「その子が完全に解毒できるまで拘束してもらっても構いません。完全に解毒できたことが確認できたらそのまま解放して頂く形でいかがでしょうか」


 報復するより少女の命の方が優先されるだろう。舞姫のこの様子であれば間違いないと思える。

 舞姫が人の心を持った相手で良かった。私としても、彼女たちを傷つけたくないのだ。もし殺しにくるようであれば道連れにするような毒の仕掛けを切り札として私は持っている。それは使いたくない。だから、どうかこの条件を飲んで欲しい。


 あとは即決させるための誘導も必要だろうか。悩まれていいことなどない。


「私としてもこれ以上の条件は出せません。ですから、交渉が成立しないのであればこの敷地全体に仕込まれた猛毒をばら撒き逃げさせて頂きます。交渉は……」


 交渉は決裂でいいかと聞き、舞姫に即決させようとした時だった。私は妙な胸騒ぎがした。何かとんでもない化け物にじっと見られているかのような感覚だった。それ故に思わず言葉が止まってしまった。本能的に体が緊張する。


 リィィィン……。


 唐突にどこからともなく鈴の音が聞こえた。私の体はその音にビクッと反応する。体中に変な汗が流れるのも感じる。

 そして案の定、次の瞬間に私のすぐ目の前に何かが現れた。ザッと地面を擦る音と影。私は突然現れたその影から距離を置くため飛び退こうと咄嗟に地を蹴る。しかし、それは叶わなかった。

 パンッと自身の首周りの肌がなる音がしたかと思えば、何も分からないうちに私は首を絞められ吊り上げられていた。


「うっ……。苦し……」


 苦しみの中で私は目をこじ開け状況を確認する。目の前に黒いチャイナ服を着た長身の男がいた。私はその男の右手で首を捕まれていた。足が地面につかない。自分自身の体重で首はより一層締まっていく。

 

「初めましテ。フクジュさん。交渉がしたいのですカ?」


 男は変な訛りのある喋り方で、首を傾げて私に問いかけてくる。その際に再びリィィィンと鈴が鳴る。この妙に響く鈴の音はこの男の左耳に付けられたアクセサリーに付いた鈴の音のようだ。私は男の右腕を両手でつかみ少しでも首への負担を軽くし呼吸しようと試みる。だが、更に男の手に力が入り私の首はよりきつく締まった。


「かっ……はっ……」


 このままでは首を絞められて死ぬ。意識も飛んでいきそうだ。この状態では捨て身の仕掛けの発動もできない。

 そもそもだが、なぜこの男はこの毒沼に足を踏み入れることができているのだろうか。毒沼がある事で安全に交渉できるはずだった。それに私の首を素手で掴む等自殺行為のはずだ。すぐに毒が回って死ぬはずだ。

 私は気になり男の手や足元を確認した。そして唐突に理解してしまった。

 この男は、こ(・)こ(・)に(・)あ(・)る(・)全(・)て(・)の(・)毒(・)に(・)対(・)し(・)て(・)耐(・)性(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)という事に。


 そんなバカげた話あるはずがない。毒の一族でもない人間がなぜ毒耐性をここまで持っているのか。到底理解できない。

 幼い頃から我々も新たな毒の耐性を付けるために少量の毒を取り込み徐々に耐性を付ける訓練を行っている。もともと遺伝でかなりのポテンシャルがあるところに追加で耐性を付けているからこそ到達した境地だ。それをなぜこの男が習得できているのだ。

 そしてそもそもだが、この男は誰なのか。突然現れて首を絞めてくるなど意味が分からない。


「交渉したイのかときいていまス」


 男に再度問いかけられるが、首を絞められた状態で答えられるわけがない。しばらくもがいていると、男は私が答えることもできないという事に気が付いたようだ。


「軟弱ですネ」


 男はそう言って、軽々と私を毒沼のある地面に投げつけた。地面にうつぶせで打ち付けられた私は、痛みに耐えながらもやっとできた呼吸に安堵する。

 とはいえ毒まみれの空気だ。それでも久々に得た酸素で私は生きながらえたのだった。

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