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天使殺しの契約者  作者: ヒナの子
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エンジェルー3

 開が刑事の次に出会ったのはスミレだった。

 しかし、開が立ち入ることのできない戦いがそこでは行われていた。


 開の目にはジェイソンと天使が同時にスミレに襲い掛かり、その双方を一撃で吹き飛ばすスミレの姿が映っっていた。


 彼が知っているトンファーでの戦いではなく、光そのものを変形させた武器を使っているようで、その戦い方にトンファーのような無骨さは全く感じられなかった。


 吹っ飛ばされた天使はスミレの足場と周囲の瓦礫を操作し、生き埋めにしようとし、ジェイソンは腕が四本に増えており、鉈以外に縄や鋸を手にし、瞬間移動で生き埋めを回避したスミレに襲い掛かった。

 スミレはそれすら読んでいたのか、見向きもせずに四本の腕を光で打ち抜き、天使へと接近する。

 しかし、天使に攻撃する前にジェイソンの右足が横から襲い、瓦礫に向かって吹き飛んでしまう。

 もちろん受け身を取り、牽制のための矢が天使とジェイソンをかすめる。


 高度な戦闘が繰り広げられる場所から少し離れたところに、一人、女の子が座り込んでいるのが見えた。


「支配された生徒か?」


 ここに近づくにつれ傀儡は減っていた。

 一人だけこの場所に座り込んでいるのはおかしい気がする。


「お前が、適合者か」


 その声で寒気が走った。

 彼女のことは知らない、初対面だ。


 しかし、明らかに敵意を持たれている。そして、相手は襲い掛かってくる。


 反射的に両手に鉈を持ち、防御の構えを取った。

 なぜ防御の構えをとったのかは分からない。おそらく、本能的に感じ取ったのだろう。


 防御の構えを取ったのを見て、女は拳を握り、地面を蹴った。


 交差させた鉈の上から殴りつけただけの攻撃だった。


「なっ!?」


 鉈がひび割れ、思わず動揺の声が出た。

 しかしそんなことをしている自由は無駄だったのだ、鉈を突き破った拳は顔を正面から殴打した。

 鈍い痛みが頭を揺さぶる。後頭部より前の感覚がない、意識は飛んでいないが、こんな痛みは初めてだ。


「イラついてんだ。サンドバッグになれよ」


 理不尽な言葉とともに、拳が再び迫る。鼻血をぬぐう時間もない。


 身体は恐怖に対し、脅威に対し、最大限の能力で応えた。

 破壊された鉈よりも頑丈なつくりの鉈が両手に握られる。


 相手はハチャメチャな怪力ではあるが、非人間的行動をとっているわけではない。瞬間移動も未知の武器も使っていない。ただ走って距離を詰め、ただ殴っているだけだ。

 ただ拳銃の弾丸よりも危険なだけだ。


 まずは距離を取って息を整えよう。このままでは呼吸が止まって、まともな思考もできなくなる。


 女は拳の軌道を隠すない気もない。顔面狙いの一つ覚えだ。

 銃弾を跳ね返したようにはいかないが、場所が分かっていれば利用できる。


 単純に突き出された拳を鉈の腹で受け、その勢いのまま後ろに飛ぶ。

 やはり彼女はストレス発散が目的であって、俺を殺すことが目的ではないらしい。

 俺を殴り飛ばした後、ゆっくりとこちらに歩いてくる。


 やはりコイツも人の道を外れた適合者だろう。


 見たところ魂装は出していないのか出せないのか、素手のままだ。

 そして身体能力が俺とは比べ物にならない。ジェイソンの怪力と比べても遜色がないレベルな気がする。

 組み合えばなすすべなく死ぬまでサンドバッグにされるだろう。


 刑事との戦いは俗に言う相性が良かったというやつだろう。そもそも戦うことに対してそこまで意欲的じゃなかったような気もする。

 つまり、あの刑事よりも厄介な相手だってことだ。


 それでもスミレたちのレベルには遠く及ばない。



 ここで哲学的なことを考えてみよう。


 成長とは、進化とは、人間の存在意義とはなんだろうか?

 人間は個としての存在価値は薄く、集団として進化することで繁栄してきた。初めは村1つ、町、国、規模が大きくなるにつれ、カテゴライズされる人間は多くなり、逸脱すれば大衆が処分するという社会基軸ができあがった。

 では、そんな人間の目的意識はあるのだろうか。

 よく集団的無意識として、繁栄、生存そのものが目的とされる。

 もちろんそれが嘘とは誰も思わない。しかし、人間の動力源は好奇心であるとも言えるのではないだろうか?

 そう考えた時、『解明』こそが目的なのではないだろうか。



「俺たちは弱い」


 人間の『解明』という目的に暴力は必要なかった。

 けれど俺たちは人間の枠から零れた適合者。

 集団になろうとする意識はなく、目的は個に左右される。


 成り立ての俺たちではまだ、その域に達していない。


 だから、俺は。


「人間を真似る」


 これは開自身、ほぼ無意識にやってのけた事だ。

 記憶喪失という特殊な状態にある適合者が今までいなかったというのもある。


 本能的に、中身を失った入れ物は力でそれを埋めたのだ。


「ごちゃごちゃうるさいぞ! 殴るっ!!」


 地面を踏み台に飛び出した華の拳が開の顔を殴り付け、開の体が吹き飛び、華の顔から一筋に血が吹き出た。


「ッ!?」


 華は瞬時に目の前の男が右手で持つ鉈で斬られたのだと理解し、捉えられなかったことに驚愕した。


 遊び心しかなかった華の心構えが戦闘モードへと入る。

 彼女とて戦闘では随一の天才だ。


 吹き飛んでいる死にたいの男の着地点の真下に入り、右手を構える。素手のジェイソンを攻略した【牙拳】の構えをとる。


 「牙拳ッ!!」


 牙拳には何の不備もなかった。

 武の最奥の1つの技に恥じない一撃だった。


 だが、その拳が開に届くことはなく、黒く鋭い針の先で受け止められていた。


 「黒針」


 背後から迫る牙拳を振り向きもせずに逆手で持った黒針で迎え撃った。着力点に正確に先端を当て、その動きが空中で止まる。


 「黒針」


 空いた左手で握った黒針が、体を反転させる勢いを得て華の左眼へと襲いかかった。


 水晶体が串刺しにされ、頭蓋骨を抜けてその先の脳を破壊せんと向かってくる黒針を防ぐ術は華にはなかった。

 牙拳を打つために力を拳に集中させていた反動で、瞬時に判断し動けなかったからだ。


 必然の一撃。

 2人の戦いであれば、これが当たらない未来は存在しなかった。


 1つの戦闘が決着しようという時、轟音と地響きが起こった。


 足元が崩れたことで黒針は髪の毛を掠め、華と開は地面に生まれたクレバスに飲み込まれ落ちていく。


 「開ッ!」


 落ちていく開の姿を見つけたスミレは加速し、全力で開を追いかける。


 呼びかけられた本人は能力使用のオーバーヒートで失神していた。


 これによってスミレサイドは圧倒的に不利な状況になる。

 元々危惧されていた、開がスミレの足枷になってしまう状況。


 しかしこの数分後、天使は消滅することになる。

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