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僕は完璧でありたいのである  作者: いとう
第三章 ナスフォ街の天才美少女
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第六十五話 ポルメイウ市デート②




 市内を歩いていて新たに気がついたことがある。

 それは街灯が炎魔術によるものではなく、魔灯によるものだということだ。


 通常、発光機能のある魔術具に魔法石をはめて使ういわゆる『魔灯』は、部屋の中など必要な光量が少ない場所に使われる。

 魔灯の発する光量は炎と比べてしまうと少ないからだ。


「仕組みがちょっと違うみたいだね。そもそも魔法石がはめられてないみたい」


「じゃあどうやってつけてるの?」


「雷魔術を使って灯す仕組みみたい。魔灯は雷属性の魔術具だからなのもあると思うけど、多分雷魔術が1番遠くまで魔力を運べるからなのかな?難しいことまではわからないけど、この左右の建物と街灯に繋がってる紐に雷魔術が流れてるみたい」


 リーシャは自慢の目と魔術具への知識を活かして細かく教えてくれる。俺がチラチラ街灯を見てたのに気がついていたようだ。


「どこかですごい雷魔術師が夜間ずっと魔術を流してるってこと?」


「そんな感じかな?あってるかはわからないけど…」


「ほとんど正解なんだけど最後だけ違うかな。市の中心に大きな魔法石があって、そこから魔力を雷魔術に変える魔術具を通して市内全体に魔力が供給されているんだ。各建物にも街灯と同じ仕組みの魔術具が設置されていてね、魔法石への魔力供給は有志の人達にお願いしているんだ。あ、勿論報酬は出してるよ」


「なるほど、そういう仕組みなんですね」


「へー!それなら誰も夜中ずっと起きてる必要はないから安心だね!」


 俺たちの話を聞いていた通りすがりの男の子が教えてくれた。

 派手ではないものの高価そうな服、艶のある淡い茶金の髪、程よく鍛えられた肉体、明らかに庶民とは違う所作、あとなんかいい匂いがする。


 そして『報酬を出している』と言った。


「初めましてドルモンド様、トゥリー・ボールボルドです。アーニャからお噂は予々聞いておりました」


「へへへ、通りすがりの少年として仲良くなろうと思ったのにもうバレちゃったか。初めましてトゥリー、アーニャから聞いていると思うけど僕はお堅いのが苦手だから呼び捨てしてくれると嬉しいな」


「!?え、!?た、大変失礼しました!わ、わたくし、リーシャ・ユティともうしむすっ!!」


「え!?あ、驚かせてごめんよ!全然タメ口でも何でもいいから!気を遣わないで!」


 リーシャは全く気がつかなかったのだろう。いきなり自分達の次期領主にタメ口を聞いてしまったことにとんでもないショックを受けたようだ。


「ドルモンドはよく俺たちのことがわかったね。アーニャからなんて聞いてたの?」


「ば、ばかトゥリー!良いって言われても敬語を使い続けるのが常識なの!私はいきなり無礼をしちゃったけど!」


「全然!僕はむしろみんなと仲良くなりたいから普通にしゃべってもらいたいんだ。アーニャからトゥリーの話はずっと聞いているし、真っ白で美人な彼女ができたって聞いていたから一瞬でわかったよ」


「たしかにリーシャは目立つね」


 獣人が多いとはいっても純白の狐なんていうのはリーシャ以外いない。狐に限らずとも純白というのはめちゃくちゃ珍しいみたいで、ほとんどの白毛の獣人は茶色や灰色が混じった白をしている。


「聞いてはいたけど実際に見たら驚いたよ。王都でもこんな美男美女は見たことがない。お世辞じゃないよ?」


「それを言うならドルモンドみたいな上品な人を俺は初めて見たよ。これが貴族かってしみじみ感じる」


「あはは、ありがとう!常日頃からみんなの領主に相応しい人になろうと努力しているからね」


「努力でどうにかなるレベルじゃない気もするけど」


 なんかもう生き物として違う。なんならアーニャからドルモンドの話を聞いていなかったとしてもすぐにわかるくらい一般人とは違う。


「1番の褒め言葉だね。なにしろ僕は努力だけでここまできたから」


「え?昔はやんちゃだったってことですか?」


「うーん、というより美しくなかったって感じかな。僕は本当に人よりも劣っていたから、誰からも認められるようになったのはここ数年の話だよ」


「その話もアーニャを通して聞いてたけど、こうして会うと信じられないね。勿論いい意味で」


「私も信じられません!私も努力したらドルモンド様みたいにいい匂いになりますか!?」


「へへへ、匂いくらいはすぐに変えられるよ。2人とも時間はまだある?僕の行きつけのフレグランスショップが近くにあるんだ」


「…………なんて?」


「フレグランスショップ、香り専門の店だよ」


「え!行きたいです!」


 防具店での用事がかなり早く終わったからまだ1時間以上自由時間がある。そのフレグランスショップというのが何か全くわからないけど、全くわからないからこそ興味がある。


「あとついでにそこのお菓子屋さんに行きたいんだけど、領主の顔パスで列をショートカットできたりしないの?」


「!?トゥリーぶをわきまえないと!」


「チョコレートショップだね。みんなに嫌われちゃいそうだからショートカットはできな――」


「ドルモンド様!?もしかしてご友人はうちのチョコレートに興味があるのではありませんか!?是非食べていってください!!」


 軽い冗談のつもりでショートカットをお願いしてみたが、列の整備をしていた店員さんに気づかれてしまった。騒いでも止まってもないのにドルモンドの存在にバレたんだから俺のせいではないけど、なんとなく俺が悪い気もする。


「え!?ドルモンド様!?」「まじだ!気がつかなかった!」「え!今日は日曜日じゃなくない!?なんでいらっしゃるの!?」「やば!」「てかドルモンド様のご友人可愛すぎでしょ!」「あたし今日服適当なんだけど!」


 店員を皮切りにあたりの人間が突然ドルモンドに気がつき始めた。まあドルモンドは隠れるそぶりもしてなかったし、今までバレていなかったのが奇跡みたいなもんだ。


「ま、まいったな。森隠れが切れちゃったか」


「もりがくれ?」


「うん、個人特定をされないようになる魔術なんだ。完全に隠れる魔術よりも長く続くらしいんだけど、かけてもらってから30分くらいが限界みたいだね」


「ド、ドルモンド様!お久しぶりです!私のことをおぼけてらっしゃいますか!?」「ドルモンド様!俺も!!俺も!」「お客さま!ドルモンド様とご友人様のご迷惑となりますので、お静かに!!」


「いいんだロス、迷惑をかけてごめんよ。クシャ、カテロン、今日は忙しいからまたね」


「「は、はい!!!」」


「ドルモンド様!どちらのチョコレートを用意いたしましょうか!?」


「基本セットを2つ頼むよ」


「かしこまりました!すぐにお持ちします!!」


 女性店員は瞬く間に店の中へと消えていった。


「お持ちしました!またのご来店お待ちしております!」


 そして瞬く間に帰ってきた。


「ありがとうまた来るよ。今度はちゃんと列に並んでね」


 女性店員は嬉しそうに並ばなくても大丈夫ですと言うやいなや、また一瞬で店の中へと消えていった。なんだか嵐のような人だった。荒らしなのは俺たちの方だけど。


「結局ショートカットしちゃいましたね」


「列に並んでる方が迷惑になりそうだしね」


「いやごめん。ショートカットってのは冗談のつもりだったんだ」


「え?トゥリーは関係ないよ。僕が森隠れの効果時間を過信してたから悪いんだ。それに、並んでいる人達には悪いけどこうしてチョコレートは手に入ったんだから結果オーライってことで」


 ドルモンドはへへへと笑うとフレグ…フレグル?…なんとかショップへの案内を再開してくれる。

 こういう時は素直にドルモンドについて行けば良いと俺の直感が言っているし、これ以上謝ったりする必要はないのだろう。


「私、チョコレートって初めて。トゥリーは?」


「アーニャの好物だから何回か食べたことあるよ。こうやってチョコレート単体の店は初めてだけど」


「この店が流行る前からチョコレートってお菓子があるにはあったからね。こうして人気になってみると、なんで今までそんなに人気がなかったのか不思議なくらい美味しいよ」


「高級菓子ってイメージが強かったし値段の問題だろうね。あ、てかいくらだった?払うよ」


「プレゼントしてもらっちゃったからタダだよ」


「そういえばそうか」


 そういえばあの嵐のような女性店員は金を受け取る暇すら作らずに消えていった。ドルモンドからお金を貰うわけにはいかないって話なのか、単純に忙しくて失念したのか。

 まあほぼ確実に前者だろう。ありがたやドルモンド様。


 そのドルモンド様は中央通りに並行している通りの、いい匂いが漂う可愛らしい店の前でとまった。

 建物自体は中央通りにあるような白くて綺麗なものではないが、いろんな花だったりカラフルな液体の入った瓶だったりが店頭に並んでいて、これまで見た店の中で1番おしゃれな感じだ。その辺の感覚は俺にはないからよくわかんないけど。


 リーシャは目をキラキラ輝かせ尻尾をブンブン振っている。やっぱり女の子はこういうのが好きなんだろう。


 アーニャも来たら喜んでいただろう。昔は自分磨きという意味でしか女の子らしいものには興味がなかったのに、気がついたら武器や防具よりもそういうものが好きになっていた。

 逆にラファは女の子らしいものには全く興味がなくなった。まあ興味があったのは遠い昔の話だ。ラファがまだ初学校に入ってないくらいの頃はドレスや花にも興味があったみたいだけど、気がついたら剣にしか興味がなくなっていた。



「ここが僕のよく行くフレグランスショップ『百花店』だよ。ここの人は僕に慣れてるから大騒ぎにはならないし大丈夫。デートの邪魔をしちゃったお詫びに2人にいろいろプレゼントさせてよ。こう見えて香りについてだけはセンスがいいってみんなから評判なんだ」



 こう見えても何も、なんでもセンスが良さそうに見えるが言わないでおこう。




――――――――――――――――――――――――――





 『ロア飯店(お姉さんの飲食店の名前)』に帰ると俺とリーシャ以外全員揃っていた。

 まだ集合時間の10分前、何人かは遅刻するだろうくらいに思っていたから意外すぎる状況だ。


「ぇ、あ、えぇ!えぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」


「ようドルモンド。うちに来るのは初めてだな」


「!?カサディン!なんて口の聞き方を!!」


「いいんだよ。俺はこいつの家庭教師なんだから」


 俺とリーシャの横にいるドルモンドを見てヨーグ先生は腰を抜かした。比喩とかじゃなくて本当にコケた。

 先生に話は通してあると言っていたのだが、どうやらその先生とはカサディンのことだったらしい。てっきりヨーグ先生も知っているもんだと思っていた。


 というか、改めて店の中をみると俺達の他に1人知らない子がいる。

 知らない人という意味では他のお客さんが何人かいるけど、そういうことじゃなくて俺達の輪の中に1人同世代くらいの女の子がいる。


「ドルモンド、あの子がもしかしてこの建物を建てた子?」


「うん。テタ、自己紹介できる?」


 テタと呼ばれた子はこくりと頷くと、背丈に合っていないローブを床に引きずりながら俺とリーシャの所まで歩いてきた。

 座っていると気がつかなかったがめちゃくちゃ背が小さい。目測だけど130cmくらいだろう。

 それでいて髪はめちゃくちゃ長い。信じられないほどに長い茶髪は彼女の背丈よりも長く、ローブがなければ地面についてしまう。そのためのローブなのかもしれない。


「テタ・テナス。14歳。女。土魔術が使える。ドルモンド様の使用人」


「えと、リーシャ・ユティ。12歳。女。氷魔術が使える。トゥリーの彼女」


 何を勘違いしたのかリーシャはテタと同じように自己紹介した。当たり前だけどこれはテタの個性なのであって正式な礼儀でもなんでもない。


「よろしくテタ、トゥリー・ボールボルドだよ。話は聞いていたけど本当に君がこの市の建物を1人で?」


「そう。土魔術得意。おまえ。年下。偉そう」


 あやべ。見た目が幼すぎて自然とタメ口になった。

 年齢は聞いていたのにこうなるのは、視覚情報はその他の情報に比べて影響が強すぎるせいだ。


「申し訳ございません。なんかこうかわいらしすぎて」


「テタはすごい幼く見えるからね」


「失礼。私。お姉さん」


「お姉さんってよりは妹って感じがぷんぷんしますけどね」


「おまえ。生意気」


「これは失礼しました。テナスちゃん」


「テナスさん。テナス様。それ以外。ダメ」


「わかりましたよ。テタちゃん」


「ドルモンド様。こいつ。むかつく」


 俺はどうにもこのテタ・テナスという人物が好きになってしまった。なんかよくわかんないけど琴線に触れた。

 好きというのは浮気的な意味じゃない。今までに感じたことのなかった感情だ。かわいい。


「珍しいねテタが人に興味を持つなんて」


「トゥリーが意地悪なのも珍しい…。浮気を疑うわけじゃないけど…」


「生意気。許せない。それだけ」


「大丈夫だよリーシャ。違うベクトルのかわいいだから」


 とは言ってもリーシャは複雑そうな顔をしてる。恋愛感情ではないにしても他の女の子に『かわいい』と言うのは良くないのかもしれない。


「おいガキども、俺は別に授業してやらなくても困らねえんだぞ」


「夜は自由時間なので交流はその時にしましょう」


「あ、ごめんなさい」


 カサディンとヨーグ先生に注意されてしまった。

 全員集まったのに無駄話をしてたのは事実だが、別に集合時間にはまだなっていない。注意されるのは不本意な気もする。


 いけない。こういうすぐに屁理屈を言うようなところまでアーニャに似ているのが俺の悪いところだ。

 今日のメンバーは俺、リーシャ、サリア、エディー、ドレッド、ドミンド、レノ、先輩2人にドルモンドとテタを加えた11人。それにカサディンという問題児のこと考えれば、もう少しヨーグ先生に気を遣ってあげないといけないだろう。

 頼りのレラーザ先生はロア姉さんと話し込んでるし。


「いいかクソガキども。俺の研究室では私語禁止だ。黙って真面目に授業を受ける気があるやつだけついてこい」


 カサディンが階段を登っていく。

 ドミンドとレノが慌てて立ち上がり、その後ろに続く。


 ここからがやっと遠征本番という感じだ。

 カサディン独自の研究がヨーグ先生とどれだけ違うのか、カサディンに教えてもらうことで俺はどこまで成長できるのか。


「トゥリーわくわくしてる?」


「うん。かなりしてるね」


「先生はあんな感じだけど授業は丁寧でわかりやすいから期待しててよ」


「私語。ダメ」


「『研究室では私語禁止』だよ。今から禁止ならドルモンドが喋るはずないでしょ?テタ、ちゃんと人の話をききなさい」


「トゥリー。きらい。むかつく。むかつく」


 俺たちは喋りながら最後尾に着く。

 今日出会ったばかりだというのにめちゃくちゃ過ごしやすく感じるのは、ドルモンドのおかげなのか単純に相性の話なのか。


 どちらにしても、この遠征だけで終わるには惜しく感じるほど居心地がいい。

 これからも是非交流を続けたいと思うけど、アーニャは、どんなに波長の合う人間だろうが会わない日が長く続いてしまえば交流は途絶えると言っていた。


 でも、アーニャは今でもドルモンドと文通をしているし説得力はあまりない。

 アーニャが間違ってるってことはないだろうし、もしかしたらニュアンスが少し違ったかもしれない。


「トゥリーきいてた?」


「ごめん、全く聞いてなかった」


「ドルモンド様。こいつ。ゆるせない」


「テタをいじるのもほどほどにね」


 違うドルモンド。今回はわざとじゃない。

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