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風を感じるために生まれた  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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見えない糸が繋ぐのは①

南雲が現在勤めている東京の医療法人は、共同経営者の医学博士が南雲の医学部時代の指導教官だったという縁で来ないかと誘われたのだそうだ。


県立病院には、十年勤めたそうだ。元々、地方で八年以上勤めるという条件の奨学金を受けて医大に入学した南雲がその条件をクリアするために赴任した職場ではあったのだが、それより二年も長く勤めるくらいには充実していたのだという。


しかし、地方とはいえども県庁所在地。都市の真ん中の言わば地の利に恵まれた患者だけを相手にしていていいのかという思いが年々膨らんでいったのもまた事実で、やがて南雲は、山間の限界集落や離島へ移り住んで医療に当たりたいという希望を抱くようになったのだそうだ。



「すげぇ、真ん中のあれ、なんか手術台っぽい。」

風真ははしゃいだ声を上げた。

健康観察船の船内を一人で見て周り、その仕上げに診察室の脇のドアの明かり取りのようなガラス窓を覗き込んでいる。


「ぽいじゃなくて本物の手術台よ。簡単な外科手術ならできるわ。何ならいまここでやる?」


南雲は手を洗いながらベットの上に視線を走らせ、ニヤリと笑った。


「えーっ、こんなところで手術とかマジ勘弁っす。それに手術は専門の先生にしてもらいたいところっすね。」

対する光生は横になりながらも飄々と言い返している。


「あら、ご挨拶ね。この船は元々病院船として改修されたのよ。それに医師は一応どの診療科目もやっていいことになってるし、」


「こらこら二人とも。えげつない冗談言わない。」


涼風すずかは光生の手当てで使い終わった包帯やテープや鋏などを片付けながら二人を窘めているが、そう言う涼風も笑いを噛み殺しているように見える。


トントントン...

階段を降りてくる音がして、全員がその方を見た。


「取り敢えず、後を追ったり接近してくるような船舶は見当たりませんでした。」

双眼鏡を片手に、太郎は親指を立てた。

「ここから先は、目的地に入港する直前まで、無人島ばかりになるから、しばらく休んでおけって、船長が、」


クスッ、

「船長だって。出航するまでは下重さんって呼んでたのに、」

涼風が言うと、

太郎はムキになった。

「海の上では、有事に備えた指揮系統はとても大事なんですよ。船長をトップに乗組員が一致団結しないと。だから船長は船長なんです!」

出航後の雑談で、下重が海技士の三資格(航海、機関、通信・電子通信)の一級を取得していると知るや、下重を船長と呼び始めたのだ。


「まあ、まあ。光生君の包帯の取り替えも終わったところだし、コーヒーでも淹れようかと思ってたの。太郎さんも飲むでしょ?」

今度は南雲が宥め役に回ったようだ。


「はいいただきます。あと、港で買ったタルトも付けてくれます?」






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