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風を感じるために生まれた  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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ペイフォワード㉙

「ええ。同じように潜入や調査をする部所は、他の省庁にもありますよね。」


南雲が顎を指で軽く叩いている。

「そうですね。潜入というとまず思い浮かぶのは警察庁の公安部ですね。あとは、国防に限られるでしょうけど、防衛省とか。そうそう。マルサの財務省に厚労省のマトリ。その辺は今のところ関係ないかな。」


コクコク、

西崎は頷いた。

「公安調査庁第一部は、警察庁もしくは警視庁の公安の動きを常に注視しており、その動きに先んじようとしている可能性がある。私はそう睨んでいるのですよ。」


「先んじる...ぶっちゃけて言やぁ、出し抜こうってんだな。」

伯方が言うと、西崎が苦笑いする。


「第一と第二の競争意識の他に省庁間の競争意識か...どこかで聞いたような話だな。」

太郎が呟いた。


「そうか!」

そこでいきなり俊葵が声を上げた。

そして、

バタン!

大きな音がして画面が暗転する。

「あ、すみません。」

次の瞬間、俊葵が焦った顔で大写しになった。

「立ち上がったら、三脚を倒してしまって、」


「いや。」「うん。大丈夫。」「ちょっとびっくりしたけど平気よ。」「それよりどうした?」「何か分かったの?」

画面の向こうに期待に満ちた目が俊葵を見ている。


「はい。分かったというか、西崎さん。」

カメラ越しに俊葵が西崎を見つめた。


「高峰 由稀世ですよね。」


西崎はさすがと言いたげに、わずかに目を細め頷く。

()()()()()()()()()()()動きがない。というのはつまり、警察庁公安部は他の件。高峰 由稀世関連では動いているという意味なんじゃないでしょうか。」


「そうさなぁ。あちらさんも、おいそれと高峰 由稀世の名前は出せんだろうからな。そういう風に匂わせたんじゃろうて。」


「うーん。由稀世を尾行してたのがかなりの熟練だってのはすぐ分かったけど、人数も結構いたみたいだっていうのは、後で西崎さんに指摘されて気がついたくらいだからな。その時点で、由稀世や警察庁公安部の動きに第一部は気づいていたんだろうか。」


「さあどうでしょう。しかしいずれにしても大人数を掛けての尾行は公安の特徴です。例えば刑事部が尾行にそれほどの人員を割く事はありません。常に人員が足りないのです。もしあるとすればそれはよっぽどの大事件だと思います。」


「ああ、やっぱり俺が招き入れちまったんだろうか...」

またもや俊葵が分かりやすく落ち込み始めた。


「いいえ俊葵君。世間的に高峰という名前は、父親の由稀世ではなく娘の稀世果きよかの事を指します。稀世果がこの姫島諸島でセンセーショナルな死を遂げた事は、日本中誰でも知っていますからね。もし国内で由稀世が何をしているのかを探ろうとするなら、この島の周辺から始めるのはむしろ基本の()と言えるでしょう。君はそれにたまたま遭遇しただけ。今はそう考えるべきです。」

西崎がキッパリ言い切ると、

南雲が静かに俊葵を呼んだ。 


「はい...」


「西崎さんの言う通りよ。今考えるべきはそれじゃない。」


「え、あ、はい...」


「でも南雲先生。俊葵さんは、考えられる可能性からまず最悪の事態を考えて、それから動けば最高にはならなくても最良にはなるって、いつもそう言ってるから、だから!」

風真が俊葵を庇うように言った。

まるで見てきたかのように、未来に起こる出来事を推測し、対策を立てる俊葵をそばで見てきた実体験から当然の事を言っているつもりなのだが、南雲にはそれがまるで子犬が飼い主を守ろうとキャンキャン吠えているように見えてしまい、ついついクスクスと笑ってしまった。バカにされたと思った風真は明らかに憮然としている。


「ごめんなさいね。笑うつもりはなかったの。ただ風真君が俊葵君を慕っているのが伝わってきて、なんだか微笑ましかったの。もちろん私も風真君の言う通りだと思うわ。昔から俊葵君の洞察力にしばしば感心させられているもの。」


風真は、憮然とした表情のまま南雲を見上げた。

フフ、

南雲は笑い、それからキッと表情を引き締め、この部屋に集う面々と画面の向こうを見回した。これが職業人としての南雲の顔なのかも知れない。風真はゴクリと唾を飲み込む。


「でもだからこそ言わせてもらたいの。

今はただ畠山君を守り切る。それさえできれば、この島に公安が来ようが、高峰 由稀世が来ようが関係ないわよね。違う?」


「あー、」「いやはや、」「まぁそうなんだけど、」

皆が驚きを口にする中、

西崎が自分の首の後ろに手をやってポンと叩いた。

「これは南雲先生に一本取られましたね。

実は後で内々に打診するつもりでしたが...南雲先生にご相談があります。」


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