七話
カフェテラスを覆うように背の高い欅がそびえ、葉が日差しを遮っていた。地面には無数の葉が影絵のように映し出され、時折吹く風にその姿を揺らす。サラサラと葉が擦れ合う音が靖聡の耳に妙に新鮮に響いた。目を閉じるとまるで公園か砂浜で日向ぼっこでもしているような、のどかで安らかな心地になるのは優と対峙している緊張感から逃れたいという願望のせいなのだろうか…靖聡はつらつらと思いめぐらせる。
そんな靖聡は現実へ心を引き戻されると、一瞬の夢想とはかけ離れた重苦しい空気に固く口を閉ざすのだった。
閉じていた瞼をゆっくり開けると、そこには強い視線を向ける優が居る。優はこの先ただならぬ展開が待っていることを予感しているのか、長い時間沈黙をまもる男を凝視し、固唾を飲んで見守っているようだ。
張りつめた二人の雰囲気と風になびく欅の葉音は不釣り合いにも思えるが、同時にドラマチックでもある。葉の効果音に背中を押されたように、靖聡はうやうやしく口を開いた。
「…光と、結婚することになった。だから…」
それまで長い時間躊躇っていた靖聡だったが、ゆっくりと確かめるように、しかし一気に告げる。
意外なことに優の表情に大きな変化はなかった。むしろ、目をやや丸くするとその表情は和らいでさえ見える。サラサラと風に揺られる葉の音は、そんな二人をよそに揺れ続けていた。
「…ヒカリ?」
優はそう呟いたまま黙り込む。その顔はまるで「何言ってるの? 冗談も休み休み言ってよっ」などと、軽く肩を小突きながらふざける時のような表情に映った。
急な申し出を理解出来ないのかもしれない…靖聡は、これから以上を言葉を重ねることは辛く、無意味に思える。
『一体、俺は優をどれほど傷つけ痛めつけるんだろう…』
靖聡は真っすぐに見つめる優の目を見つめると、心が挫けそうになるのを堪えるように眉間に皺を寄せた。
果たして全てを告げる必要があるのだろうか…靖聡は傷になるのを避けるかのように次の言葉を探すのだった。




