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Geom Jeong Saek  −クロ−  作者: 小路雪生
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六話

 高校の同級生だった優との付き合いは長い。

 

 当時、私学の高等科に通っていた男は同じ学校の女子部に通う優と知り合った。美優希みゆきが本来の名前だが、友人の間ではゆうと呼ばれていた彼女と交流会で顔を合わせて以降、素直そうな優に好感を抱いた男は彼女の存在を気にかけるようになっていく。

 が、優には既にボーイフレンドがおり、男には特別興味がなかった様で


「うーん…よく覚えてないんだよね…ごめんっ」


 後々、互いの第一印象を告白し合った際あっけらかんとした様子で両手を顔の前で合わせると、茶目っ気たっぷりに謝ってみせた。


 やがて高校三年生になった男は、上級生と付き合っていた優が彼氏と上手くいっていないようだとの噂を耳にする。


「それ、マジかよ!」


 女子部に彼女がいるクラスメイトから話を聞き出すと、ここがチャンスとばかりに優と接近する機会を伺うことにした。

 学校帰りの駅で偶然を装った男は


「やぁ! …今、帰り?」


 ぎこちない口調で優に声をかけた。


「…えっと…………」


 待っていたことを悟られまいと


「こ、このまま塾行くんだけど、城庭さんは?」


 戸惑う優を無視したように慌てて会話を繋げる。


「…ゴメン…男子部の…………貝野かいのくん、だっけ?」


 あやふやな口調で首を傾げながら問う優を見た靖聡のぶさとは完全に舞い上がっていた。優の記憶の中にある貝野靖聡は不鮮明であり、靖聡が城庭優を意識するほどには印象に残っていない様だった。が、当の靖聡には気にする余裕すらない。

 それ以降、文化祭の模擬店を手伝うことになった靖聡は、手際よく仕切り明るく立ち働く優の姿を見ると一層恋心を募らせ、優こそが理想の少女だと確信すら抱くのだった。

 それに引きかえ優は靖聡にこれといった関心を示そうとせず、何度もがっかりと肩を落とす靖聡だった。


「ホント、熱心だよね、貝野君て」


 どこにそんな度胸が潜んでいたのか靖聡自身不思議なほど、優の好意をひきたくてあの手この手で働きかけていた。

 諦めることなく思い続けた結果、二人は付属の大学への進学を果たすと根負けしたように靖聡を受け入れた優との交際が始まったのだった。

 これといった女性経験もなかった高校生の靖聡がこれほどまでに懸命に追いかけ、想ったのは後にも先にも優ただ一人だ。

 やがて、優と付き合うようになってから靖聡が元カレとの別れについて尋ねると優は曖昧な困ったような笑みを浮かべながら


「彼が大学生になって環境が変化したことが原因だったのかもしれない…新しい出会いもあるし…」


 ややうつむき加減に別れのいきさつを語った。

 寂しげな優を前に一年がかりで交際にこぎつけた靖聡は、自分は元カレのようにはならない、優に寂しい思いなどさせない…そう決意した。





 あれから何年が過ぎたのだろうか…靖聡はカフェテラスで目の前に座る優に視線を注ぐと眩しそうに目を細める。

 初めて好きになった女性を守っていきたい…高校生の頃、憧れだった優を射止め、有頂天になっていた日々を懐かしく思い返していた。靖聡は、幼さ故の純粋な愛情にくすぐったさを感じると肩をすくめる。

 今の靖聡は「優を悲しませたくない」そう、誓いを立てた日のことを苦々しく思い出していた。自らに誓った強い想いを自身の身勝手さで捨て去ろうとしていることに激しい苛立と言いようのない無力感を覚えるのだ。一体、優にこれからのことをどう伝えればいいのか…靖聡にはどうしても言葉が見つけられない。

 時間は刻々と過ぎていくが、靖聡と優の居る空間だけは時が止まったように感じられた。

 やや硬い表情で靖聡を真っすぐに見つめ、無言を貫く優から視線を逸らした靖聡は言い訳を考えるように目を閉じる。


 が、なんて遠いんだろう…目の前に座る優と幼かった愛、一緒に歩んできた長い時間…そのどれもが今の男にとっては過去に思えた。

 優との間にひどく距離を感じた靖聡は、目の前に置かれたアイスコーヒーの氷が融けていることに気づいた。

 焦げ茶色のコーヒーが入れられたグラスは汗をかき、このまま手に取ったら手の平がびしょぬれになりそうだ。どれほど長い時間沈黙していたのだろうか…靖聡は心の中で苦笑した。逃れようのない重苦しい空気の中で腕を組みかえた靖聡は、光の望みを叶える為の代償とはいえ優を傷つけるという過去の信念を曲げねばならない葛藤に苦悩していた。この憂鬱さの中にあるとバラ色の未来が待っているとは到底思えない。

 しかも…この場面を切り抜けたその後に待っているのは余命わずかな光との結婚生活…瞼に力を込め更に硬く目を閉じると周囲の物音さえも聞こえなくなっていた。

 いっそのこと優を騙したままにしておきたい…一旦は遠くに感じたはずの優の存在が急に愛おしく感じられ、なんとか両方と上手くやっていく術はないものだろうか…という誘惑に駆られる。

 靖聡は、この決断が正しいのだろうか…ゆらゆらと揺れるローソクの火のように、光の為に決めた心が揺らぐのをどうすることもできず、もてあますのだった。


 あらすじがない為に今後の展開が書き手本人ですら分からないという、気まぐれな内容です。

 深いエピソードが盛り込まれる予定もありませんし、方向性も定まっていません。

 ホラーなのかファンタジーなのかすら見当がつかない為、ストーリーが急展開を迎える可能性もありますし、急展開しないかもしれません。

「良い作品だけを発表しよう」などという気負い持たないように書き進めていますので、適当な内容になるでしょう。

 大きな期待を寄せずに軽い気持ちで読んでいただけると幸いです。


【登場人物の名称を変更しました。09.07.21】

【主人公の恋人の名前を“美優希”に変更しました。09.11.5】

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