突然魔法少女? 76
豊川駅の繁華街から住宅街へと走る車。つかまった信号が変わるのを見ると金髪の運転手は右折して見慣れた寮の前の通りに入り込む。
「ちょっと入り口のところで止めてくれるか?」
要はそう言うと寮の門柱のところで車を止めさせる。そしてそのままドアを開くと降り立って座席を前に倒した。
「おい、神前。そいつ連れてけ」
表情を押し殺したような調子で要が誠に告げる。
「カウラさん、着きましたよ」
そう耳元で告げてみてもカウラはただ寝息を立てるだけだった。誠は彼女の脇に手を入れて車から引きずり出す。
「ったく幸せそうな寝顔しやがって」
呆れたような表情でそう言ってそのまま車に乗り込む要。隣の駐車場にゆっくりとカウラの赤いスポーツカーが進んでいく。誠はそれを見送るとカウラを背負って寮の入り口の階段を上る。
考えてみれば時間が悪かった。カウラの自爆で『あまさき屋』をさっさと引き払った時間は9時前。煌々と玄関を照らす光の奥では談笑する男性隊員の声が響いてくる。
足を忍ばせて玄関に入り、床にカウラを座らせて靴を脱ぐ。カウラを萌の対象としてあがめる『ヒンヌー教徒』に見つかればリンチに会うというリスクを犯しながら自分のスニーカーを脱ぎ、カウラのブーツに手をかけた時だった。
「おっと、神前さんがお帰りだ。やっぱり相手はベルガー大尉ですか、隅に置けないですね」
突然の口に歯ブラシを突っ込んだ技術部の伍長の声に振り向いた誠。いつの間にか食堂から野次馬が集まり始めている。その中に菰田の部下である管理部の主計下士官達も混じっていた。
『ヒンヌー教』の開祖菰田邦弘主計曹長に見つかれば立場が無いのは分かっている誠はカウラのブーツに手をかけたまま凍りついた。
「オメエ等!そんなにこいつが珍しいか!」
そう怒鳴ったのは要だった。入り口のドアに手をかけ仁王立ちする要。助かったと言うようにカウラのブーツを脱がしにかかる誠。
「なんだ、西園寺さんもいたんじゃないですか……」
眼鏡の管理部の伍長の言葉を聴くと土足でその伍長のところまで行き襟首をつかんで引き寄せる要。
「おい、なにか文句があるのか?え?」
すごむ要を見て野次馬達は散っていく。首を振る伍長を解放した要がそのままカウラのブーツの置くところを探している誠の手からそれを奪い取る。
「ああ、こいつの下駄箱はここだ」
そう言って脇にある大きめの下足入れにブーツを押し込んだ。
「神前、そいつを担げ」
そのまま自分のブーツを素早く脱いで片付けようとする要の言葉に従ってカウラを背負う。
「別に落としても良いけどな」
スリッパを履いて振り向いた要を見つめた後、そのまま階段に向かう誠。
食堂で騒いでいる隊員達の声を聞きながら誠は要について階段を上った。そのまま二階のカウラの部屋を目指す誠の前に会いたくない菰田が立っていた。
「これは……」
何か言いたげに誠の背中で寝入っているカウラを指差す菰田。
「なんだ?下らねえ話なら後にしろ」
要の言葉に思わずそのまま自分の部屋に引き下がる菰田を見ながら要は自分の部屋の隣のカウラの部屋の前に立つ。
「これか、鍵は」
そう言うと車の鍵の束につけられた寮の鍵を使ってカウラの部屋の扉を開いた。




