突然魔法少女? 77
閑散とした部屋だった。電気がつくとさらにその部屋の寂しさが分かってきて誠は入り口で立ち尽くした。机の上には数個の野球のボール。中のいくつかには指を当てる線が引いてあるのは変化球の握りを練習しているのだろう。それ以外のものは見当たらなかった。だが、それだけにきれいに掃除されていて清潔なイメージが誠に好感を与えた。ある意味カウラらしい部屋だった。
「布団出すからそのまま待ってろ」
そう言って要は慣れた調子で押入れから布団を運び出す。これも明らかに安物の布団に質素な枕。誠は改めてカウラが戦うために造られた人間であることを思い出していた。
「ここに寝せろ……」
要の言うことにしたがって誠はカウラを敷布団の上に置いた。
「なあ、オメエもこいつのこと好きなのか?」
掛け布団をカウラにかぶせながら何気なく聞いてくる要。その質問の突然さに誠は驚いたように要を見上げた。
「嫌いなわけないじゃないですか、仲間ですし、いろいろ教えてくれていますし……」
要が聞いているのはそんなことでは無いと分かりながらも、誠にはそう答えるしかなかった。
「まあ、いいや。実は飲み足りなくてな……付き合えよ」
そう言うと要は立ち上がる。誠も穏やかな寝顔のカウラを見て安心すると要の後に続いた。カウラの部屋の隣。さらに奥のアイシャの部屋はしんと静まり返っている。要も鍵を取り出すとそのまま自分の部屋に入った。
こちらも質素な部屋だった。机といくつかの情報端末と野球のスコアーをつけているノート。あえて違いをあげるとすれば、転がる酒瓶はカウラの部屋には無かった。
「実はスコッチの良いのが手に入ったんだぜ」
そう言って笑う要。そのまま彼女は机の脇に手を伸ばし、高級そうな瓶を取り出す。そしてなぜか机の引き出しを開け、そこからこの寮の厨房からちょろまかしただろう湯飲みを二つ取り出した。
「まあ、夜はまだまだあるからな」
そう言ってタレ目で誠を見つめる要。彼女の肩に届かない長さで切りそろえられた黒髪をなびかせながらウィスキーをそれぞれ湯飲みに注ぎ、誠に差し出す。
「良い夜に乾杯!」
そう言って笑顔で酒をあおる要。誠は彼女のそう言う飲み方が好きだった。
「お前も配属になってもう4ヶ月か。どうだ?」
珍しく要が仕事の話を振ってくるのに違和感を感じながら誠は頭をひねる。
「そうですね、とりあえず仕事にも慣れてきましたし……と言うかうちってこんなに遊んでばかりで良いんですかね」
誠の皮肉ににやりと笑いながら二口目のウィスキーを口に運ぶ要。
「まあ、それは叔父貴の心配するところなんじゃねえの?でもまあこれまでよりは仕事はしてるんだぜ。近藤事件やバルキスタン紛争なんかはようやく隊が軌道に乗ったからできる仕事ではあるけどな」
そう言って笑う要が革ジャンを脱ぎ捨てる。その下にはいつものように黒いぴっちりと体に張り付くようなタンクトップを着ていた。張りのある背中のラインに下着の線は見えない。
「やっぱりウィスキーは飲むと体が火照るな」
そう言って要は静かに誠ににじり寄る。そして上目がちに誠を見ながら髪を掻き揚げて見せた。




