突然魔法少女? 58
「なんだよオメー等。非番じゃねーのか?」
要の始末書に目を通すランの顔を見て誠は頭を掻いた。小学生低学年にしか見えないランが耳にボールペンを引っ掛けて書類に目を通している姿はある意味滑稽にも見えた。
「仕事の邪魔しに来たんじゃねえんだからいいだろ?」
そう言うと自分の席に座って机に足を投げ出す要。ダウンジャケットの襟を気にしながら隣でデータの整理をしていたシャムを眺める。シャムは特に変わった様子も無くデータの入力を続けていた。保安隊の副隊長の地位が明石からランに移ると同時に実働部隊詰め所の内容も大きく変わっていた。
それまで上層部の意向ですべての書類が手書きのみと言う前時代的雰囲気は一掃され、隊員の机のすべてにデータ入力用の端末が装備されるようになった。おかげで部屋の壁を埋めていたファイルの書庫は消え、代わりに観葉植物が置かれるなどいかにもオフィスといった雰囲気になっている。すべてのコンセプトはランが手配したものだが、落ち着いたオフィスと言う雰囲気は彼女の子供のような姿からは想像できないほどシックなものだった。
「で、アイシャの奴が……送ってきたんだよなーこれを……」
ランはそう言うと私服で席についている誠とカウラにデータを転送する。
「いつの間に……」
ファイルを展開するとすぐにかわいらしい絵文字が浮かんでいる。その書き方を覗き見た誠はそれが台本であることがすぐに分かった。細かいキャラクターの設定、そして誠の描いた服飾デザインが並んでいる。
「ああ、これってこのまえアイシャさんが書いたけど没にした奴ですね。確かに魔法少女が出てきますよ。寝かせてから出すって言ってたんですが」
そんな誠の言葉にカウラと要が反応して誠に生暖かい視線を向けてくる。
「なんだ、オメエは知ってるのか?」
ゆっくりと立ち上がって尋問するように誠の机に手をかける要。カウラは再びモニターの中の原稿に目を移した。
「知ってるって言うか……一応感想を教えてねって言われて。僕はちょっとオリジナル要素が強すぎて売れるかどうかって言ったらアイシャさんが自分で没にしたんですよ。そうだ、やっぱり先月見た奴ですよ。確かにあれは魔法少女ですね。ちょっとバトル系ですけど」
そんな誠と要のやり取りにいつの間にかシャムが立ち上がって誠の隣に来てモニターを覗き始める。
「ホントだ。これってどっちかって言うと魔法少女と言うより戦隊モノっぽい雰囲気だったよね」
シャムはすでに自分の案が通らないことを吉田に言い渡されていたらしく、嬉々としてモニターを覗きこんでいる。
「まあアタシはどうでもいいけどさ」
「でも配役まで書いてあるよ。要ちゃんは……神前君の恋人だって」
そんなシャムの言葉に要がモニターを覗き見る。
「引っかかった!」
シャムはそう言うとすばやく自分の席に戻る。要はシャムを一睨みしたあとすぐさま自分の席に戻って端末を起動させ台本を読み始めた。
「オメー等仕事の邪魔しに来たわけじゃねーんだろ?静かにしてくれよ」
たまりかねたようにランが口を挟む。そしてシャムもさすがにふざけすぎたと言うように舌をだすとそのまま自分の仕事に戻った。
「それにしても遅いな。吉田がグダグダ言ってるんだろうけど」
要はそんな言葉を口にするが、その視線は目の前の台本に釘付けである。カウラもじっとモニターを食い入るように見つめている。
「非番なんだからそのままおとなしくしてろよな」
そう言ったランだが、その言葉は晴れ晴れとした表情で実働部隊詰め所のドアを開いたアイシャによって踏みにじられることは目に見えていた。




