突然魔法少女? 56
「それでどうするんだ?」
他人事のようにニヤつく島田の顔を見ながら苦笑するしかない誠。考えてみれば昨日デザインした時点でかなりおかしな配役になることは間違いないと誠は思っていた。
魔法少女モノと言うことだったが、なぜか特撮モノのようなデザインの衣装を着ているキャラが多かったり、本当にこの人が出てきていいのかと思うようなキャラも数名思い出せた。首をひねりながら要のトレーを右手に持ってそのままテーブルの向かいに置いた誠だが、そこに下着姿のアイシャの耳を引っ張りながら食堂に踏み込んできた要の姿が目に入った。
「なによ!みんな見てるじゃないの!それに痛いし!」
「んなことどうでもいいんだ!それより……」
「良くないわよ!」
要の手を叩いて耳を離させるとそのまま廊下に消えていくアイシャ。食堂の中の男性隊員はただなにが起きたかわからないと言うように口をあけたまま舌打ちする要を見つめている。
「西園寺さん、それはちょっと……」
「なんだ?あ?神前はあいつの……あのアホに台本を公衆の面前で読み上げても平気だとでも言うのかよ。しかも子供が見れるようなものには絶対ならねえんじゃねえか?」
そう言いながらそのまま誠が置いた自分の朝食のトレーの前にどっかりと腰をかける要。そして礼も言わずに猛スピードで朝食を食べ始める。
「まあ、あの人も多少は常識がありますから」
「オメエ等の『多少の常識』ってなんだ?登場人物はすべて18歳以上とか言うことか?」
明らかに苛立ちながら少しは骨もある鯖の味噌煮を骨ごとバリバリ噛み砕く要。
「まあ、うちは実際最年少のアンが18歳だから本当にそうなんですけどね」
そう言った島田に要が汚物を見るような視線を浴びせる。
「あ、すいません」
島田もその迫力に押されて黙ってほうれん草の味噌汁をすする。
「じゃあ行けばいいですね。どうせ暇だし」
思わず誠はそう言っていた。要の顔が急に明るくなる。
「そうだな、神前。付き合えよ!それとカウラも連れて行けばなんとかなるだろ」
すっかり機嫌を直してご飯に取り掛かる要。誠はようやく騒動の根が絶たれたと晴れやかに食堂を見回した。その時不意に隊員達の顔が怪訝そうなものになる。誠はその視線の先の食堂の入り口に目を向けた。
「おはようございます!お姉さま!」
楓の声で思わず要が味噌汁を噴出した。入り口にはサングラスにフライトジャケット、ビンテージモノのジーンズを着込んだ楓と、同じような格好の渡辺が立っていた。
「お姉さま!大丈夫ですか?僕、お姉さまに会いたくって……」
そう言ってポケットから出したハンカチで要のシャツを拭く楓。テーブルの上を拭こうとふきんを持ってきた誠に明らかに敵意に満ちた視線を送ってくる。
「なんで、テメエがいるんだ?教えてくれ、なんでだ?」
「それはお姉さまと一緒にお出かけしたいと……」
そう言って頬を染める楓。食堂の隊員達すべての生暖かい視線に要は次第に視線を落していった。