六
頭目は、しめたと内心ほくそえむ。
小僧が格好をつけて飛んだのだろうが、空中に浮く身体は動きが読みやすい。
着地の寸前を切り付ければ、かわせないはずだ。
狙いを定めて動く。
「青いな……な……なにい!」
切り込んだ右腕が、剣を握ったまま 消えた。
同時に襲い掛かった手下の首が、飛んだ。
「……化け……物」
賊に勝ち目は残っていなかった。
紅王丸は、鹿の子を守れば気が済んだとばかりに乱闘には興味を示さなかったが、九十谷の忍は真面目に働き、みるみるうちに賊を打ち払った。
押し入ってきた者たちに立っているものはいないと見極めた陽映は、刀を拭って納めると、部屋に上がって白菊の傍に座った。
「やっと会えましたね」
白菊は動こうとしない体に力を振り絞り、やっとの思いで首を回した。
目の前に 陽映がいる。
全て終わった。
醜い姿も心も晒してしまった。
だが、白菊は思いもかけぬものを見た。
想い人は照れたように頬を染め、いたずらっ子のように笑って言う。
「会いたかった」
白菊の右の瞳から涙が溢れ、焼け爛れた頬を伝って、見上げる淡雪の頭に落ちた。
赤黒く浮き立っていた火傷の傷が、ふわりと解けるように目立たなくなってゆく。
傷が消えたわけではなかった。
明らかに火傷に見える傷は厳然として頬に在った。
しかし、どうしようもなく邪魔をしていた傷が、身に馴染んで白菊の一部と化していた。
かえって、妖しい美しさを引き立てているようにさえ見える。
もう、鹿の子には似ていなかった。
それを、自身はまだ知らない。
「身も心も醜い女じゃ。あなたに会える身ではない」
「あなたを守ると約束した。私が幸せにしよう」
白菊は、苦しそうに頭を振った。
振った視線の先に見たものに気づき、その目が大きく見開かれる。
「……紅王丸」
何故この場に居る。
閉じ込めたはずではなかったか。
「姉上、幸せになってください。許します」
静かな声を最後に、紅王丸は、うっすらとした微笑を名残に、滲むように霞み、月の光に融けて……消えた。




