五
闘いから離れた庭の奥、金糸銀糸の衣装を身にまとい、月の光を浴びて立つのは、賊が目当てにする 綺羅君。
動く度に光が踊る。
「やあ、たんと現れたな」
のんきにキラキラ光っていた。
後発の面々は、陽映たちを無視して綺羅君を目指し、踊りかかった。
「ぐえっ」
「ぐわあー」
たどり着けずに、先頭が倒れた。
綺羅君を背中に守るように、十人ほどの黒装束が囲っている。
形成は逆転した。
頭目は、打つ手を求めて辺りを探った。
黒装束の守りは堅く、肝心の綺羅君に近づくことはおろか、確実に仲間が倒されていく。
腹を空かせているはずの三人も、衰えを見せない。
部屋の中には、赤黒い横顔を見せて座っている女がいる。
白い塊はうずくまった猫だろうか、役に立ちそうも無い。
そして、柱の陰から恐る恐る覗き見をしている娘がいる。
見つけた!
牛車を襲った時に、まくれ上がった簾から垣間見えた鳥座領主に間違いない。
使える。
人質に取って脅せば、都の流人などより主を選ぶはずだ。
頭目は、黒装束の者たちを鳥座家配下の忍と判断していた。
残念ながら不正解。
九十谷から修験者の姿でやって来た御所忍とは、知る由も無かった。
綺羅君に頼まれ、紫苑が門柱に記した『目』は、彼らへの合図。
しかし、思い込んでしまったものは仕方が無い。
近くにいた一人に目配せを送り、乱闘をぬって部屋に近寄った。
鹿の子は押さえきれない興味に引かれて、少しだけのつもりで覗きに出たのだが、あまりのすごさに、うっかり動けなくなっていた。
騒ぎに動じることなく座っている白菊も、とんでもないと思った。
どっちが勝っているのか負けているのかも、よく分からない。
やっぱり隠れようと決心して、後ずさり始めた時、明らかに鹿の子をめがけて来る賊と目が合ってしまった。
ものすごくヤバイ。
どんどん近づいてくる。
賊は、縁側に足を掛けざまに飛び掛ってきた。
つかまれた袿を置き去りに、中身だけ逃げたが、そんなことで諦めるはずも無く、袿を放り捨てて腕を伸ばしてくる。
と、賊は、もんどりうって吹っ飛んだ。
突然投げ飛ばされて地面に転がった頭目は、あやうく体勢を立て直す。
目にしたのは、忽然と現れた美しい若武者だった。
人間とも思えぬほどに妖しく美しい。
頭目は、綺羅君が流される前の鳥座のことは知らない。
無論、少年にも見えるたおやかな若武者が『鳥座の小天狗』と呼ばれた剛勇、紅王丸とは思いもよらぬことだった。
紅王丸は、切れ長の双眸に光を宿し、真一文字にすらりと太刀を抜き放った。
頭目も剣を構える。
紅王丸は賊をめがけて、月を背に高々と飛び上がった。




