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くれないの影  作者: しのぶもじずり
第五章 再会
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「その者たちの面倒を、手厚く見てやれ」

公然と顔を上げ、はっきりと命じた。


「ははーっ」

報せにきた家臣が下がった。


「何か問題ありますか」

黙っている土岐野を、挑戦的な目で睨むように見た。


「いいえ、何も。おや、納得のいかない顔をしていますね」

「こともなげに罪人を打ち首に……」

そんな暗く冷たい心を持った白菊ならば、追い出すかもしれないと思ったのだ。

らしくない事をするなと、土岐野が文句を言うとばかり思った。


「ああ、あれの罪は、一度や二度のことではありませんでした。酷い目に遭った領民は大勢います。

悪賢い上に、何度罰を下しても懲りないどころか、近頃は年端も行かない者どもをそそのかして、悪の道に走らせておりました。

見せしめにしたのは、その者たちの目を覚ます為でしょう。

お屋形様は、ご承知の上で領主としての断を下されただけのこと」


あの闇は、そうして出来たものだったのだろうか。

鹿の子は、知らず身震いした。


「お屋形様のご様子はどうですか。お医者に見せなくてもいいのかなあ」

「あまり良くはありません。だが、火傷の手当てをした医師は、困った事に先日亡くなりました。

謙介に、口の堅い代わりの医師を探させています」

白菊に余計なことはするなと言われたが、こればかりは土岐野も聞くわけにはいかない。


「お見舞いをしようかしら」

「ならぬ」土岐野は、とっさに答えていた。

会わせてはいけないような予感がする。


思いもかけず強い口調で断られ、鹿の子は、自分に出来ることは無いだろうかと考えているうちに、先ほどの家臣が再び現れた。


「四人が、お庭先からなりとお礼を申し述べたいと申しております」

「許す」


四人の男女は庭の端に膝を着いて、頭を下げた。


「ありがとうございました。権佐と申します」

「紫苑でござんす」

「逸です」

「ガジ」

鹿の子が知っている顔と名前ばかりが 並んだ。


「話を聞きたい。しばしそこに控えよ。

人払いを申し付ける。誰も近づけるな。

土岐野、陽映様にお越し頂く様、急ぎ伝えよ。

そなたも下がっておれ」


鹿の子は立ち上がり、ことさらにゆっくりと庭に面した廊下に近づく。

そうしないと、走り出しそうだった。


人が居なくなったのを見計らって、口を開いたのは逸だ。

「よっ、久しぶり。あのお転婆がきれいになったな」


「逸さん? 紫苑姉さんとガジはすぐに分かったけど、まさか髭がなくなったら、こんなに間抜け面になるとは思わなかった。ものすごい垂れ目だったのねえ」

「だから髭を生やしていたんじゃないか。この顔で短剣投げは、迫力が無いだろ」


内容も口調も変わらないのに、見た目が変わると性格まで違って見えるのは不思議だ、と鹿の子は思った。

「こっちは権佐おじさんよね。少し痩せた? それとも髭のせい?」

「思うところがあって、頑張って痩せようとしているところだ。そうか、痩せたか」

権佐が嬉しそうに言うと、三人は、じろりとにらんだ。


「大いに思うところがあるだろうよ。まったく、こっちまで死ぬところさ」

相変わらずの紫苑の憎まれ口に、権佐は小さくなった。

負い目があるらしい。


「良かった、生きてて。死んじゃったかと思った。他の人たちは?」

「生きてる」とガジ。


「調子に乗って名前まで変えちまったから、気が付かなかったんだねえ。

菓子屋じゃあるまいし、お萩とせんべいだってさ。都茱姉さんと隼人だよ」

鹿の子は、紫苑の話に驚いた。

馘になった飯炊きと下僕の代わりに来た二人だ。

鹿の子を含めると、一座の七人が領主屋敷に揃ったことになる。


「じゃあ、あたしが居ることを、随分前に知ってたんだ。どうして会いに来てくれなかったの」


「鹿の子は記憶を無くして、この近くで拾われた。そうだな」と逸。

「だから鹿の子はここんちの子で、生まれた場所に戻ったのかもしれないと思ったんだよ。

それなら、あたしらの出番はないから、そっとしとこうってね。

あたしらの知ってる鹿の子は、お姫様にゃ見えなかったけどさ」

一言多い紫苑が、思い出したように寂しい顔を見せた。


「で、様子を見てたら、ややこしいことになってると知ってさ。

綺羅ちゃんに相談したら『任せなさい』とか言うから」


権佐は困ったように首を傾け、以前よりほんの少しだけ小さくなったお腹をさする。



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