三
焼け跡に綺羅君を探しに行った者達は、手ぶらで帰った。
流人の屋敷は、柱も倒れ屋根も落ちて、みるも無残な有様だった。
探すまでも無く、全てがきれいに焼け落ちていた。
辺りには、綺羅君の痕跡すら残ってはいなかったという。
結局、鹿の子は、泣き腫らした赤い目で落ち着かないまま、その報せを聞いた。
「我らが行った時にも、まだ煙がくすぶっておりました。
すっかり焼け崩れた隙間から、赤く燃え続ける熾き火が見えるほどで、あの様子では、骨も残っているかどうか。
焼け跡を取り片付けることもままなりませんので、水など掛けて、冷えるのを待っているところでございます」
煙がくすぶって、隙間から赤い熾き火が見えて……、
きっと焦げ臭かったに違いない。
聞きながら、鹿の子の目に思い浮かぶ光景があった。
焼け崩れた舞台と共に居なくなってしまった仲間たち。
親方の藤伍、おかみさんの都茱、三日月のようにきれいな眉をした紫苑、軽業の相棒の隼人、大きな力持ちガジ、髭面の短剣投げ名人の逸、囃子方の太った権佐、みんな居なくなってしまった。
……でも……なんだろう、声が聞こえる。
鹿の子を呼んでいる。
「焼け出された者の中に、行く当ての無い者が四人居ります。
お屋敷に置いてもらえないかとすがりつかれました。
いかがいたしましょう」
「当てが無いというなら、路頭に迷わせるわけにもいくまい。隅になりと置いてやれ」
物思いにふけっているところを不意に尋ねられて、とっさに答えたが、白菊ならどうしたろうと、よぎった不安を力で切り捨てた。
あたしは鹿の子。
白菊姫じゃない。
いっときおかしくなっていたけど、もう大丈夫。
例の得意技を立て続けに使いすぎたせいだが、たぶんそれだけじゃない。
誰も、鹿の子を鹿の子と認めてくれる人がいなかった。
名前を呼んでくれる人さえいなかった。
だから、鹿の子は鹿の子でいられなくなったのだ。
自分自身の居場所も形も見失っていたのだ。
でも、紅王丸が名前を呼んでくれた。
寿々芽も呼んでくれた。
そうして目を瞑れば、一座のみんなが鹿の子を呼ぶ声が聞こえる。
あたしは一人ぼっちなんかじゃない。
大好きな人たちが、あたしを作ってくれたのだ。
育ててくれたのだ。
そんな大切な自分を、もう失くしたりなんかしない。
あたしは鹿の子。
山道に捨てられて、着物はぼろぼろになっても、ただ一つ残った三尺帯の紅鹿の子。
これから先も、あたしの名前を呼んでくれる人は、きっとたくさん現れる。
「その者たちの面倒を、手厚く見てやれ」
公然と顔を上げ、はっきりと命じた。




