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くれないの影  作者: しのぶもじずり
第四章 ないしょ話は牛車の中で
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46/69

十二


陽映は憮然として、再び牛車に乗った。


陽映だって、何かあると感づいてはいたのだ。

白菊を姉と思って親しくしたいとか、姉が宮中に上がってしまって寂しいとか言っていたが、日鞠には、腹違いの兄弟姉妹が掃いて捨てるほど居るはずなのだ。

あからさまに嘘くさい。


「どなたが歌って踊るんですか」

「忘れなさい」


鹿の子の無邪気な質問を、じろりと睨んで 封じた。

見た目がそっくりなのに、中身がまるで違う娘を思って、感慨深かった。


そして、新たな疑問に思い至る。

弓矢の賊に短剣を投げたのは何者だろう。

行く先に待ち伏せていたのだ。

後ろから来た四人には、道が曲がっていた上、牛車が邪魔をして見えなかったはずだ。


牛のお尻で揺れる尻尾を、のんびり眺めている鹿の子の隣で、陽映は真剣に考えていた。



国司への挨拶を無事に済ませて屋敷に帰ろうとしたとき、陽映は、襲撃を伏せておこうと言い出した。

襲ってきた者たちのことも、理由も、定かではない。

何か理由をつけて、屋敷の警護は厳しくしなくてはならないだろうが、判明するまでは、不用意に騒ぎ立てないほうが良かろうとして、黙って通すことにしたのだ。

惣右衛門も同意した。

陽映には、まだ、他にも気になることがあった。




      *       *       *



にぎやかに出発した牛車の一行を見送り、土岐野は、白菊の様子を見に行った。


陽映が来てからというもの、『影』の出番が増えていく一方だ。

よく通る陽映の声が、遠くから聞こえてくることがあるものの、白菊とはどんどん距離が離れていく。

すぐ近くに居るというのに、遥かに遠い存在になりつつある。

白菊を置き去りにして、事態は進んでゆく。

どんな想いでいるのかと思うと、気が気ではなかった。


「無事、国司様へのご挨拶にお出かけになられました」

声をかけるが、返事は無かった。


様子は変わらないように見える。

しかし、『影』を乗せるつもりだった輿が間に合わないと知った時、怒りもしなかったのが気になった。

国司への挨拶が遅れてもかまわない と、内心思っていたのではなかったろうか。


変わらない様子が、かえって心配だった。

壊れるのなら、まだ良い。

壊れもしない強さが、土岐野には不憫だった。


このままいけば、白菊の存在そのものが宙に浮く。

淡雪が部屋の隅にうずくまっていた。



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