十二
陽映は憮然として、再び牛車に乗った。
陽映だって、何かあると感づいてはいたのだ。
白菊を姉と思って親しくしたいとか、姉が宮中に上がってしまって寂しいとか言っていたが、日鞠には、腹違いの兄弟姉妹が掃いて捨てるほど居るはずなのだ。
あからさまに嘘くさい。
「どなたが歌って踊るんですか」
「忘れなさい」
鹿の子の無邪気な質問を、じろりと睨んで 封じた。
見た目がそっくりなのに、中身がまるで違う娘を思って、感慨深かった。
そして、新たな疑問に思い至る。
弓矢の賊に短剣を投げたのは何者だろう。
行く先に待ち伏せていたのだ。
後ろから来た四人には、道が曲がっていた上、牛車が邪魔をして見えなかったはずだ。
牛のお尻で揺れる尻尾を、のんびり眺めている鹿の子の隣で、陽映は真剣に考えていた。
国司への挨拶を無事に済ませて屋敷に帰ろうとしたとき、陽映は、襲撃を伏せておこうと言い出した。
襲ってきた者たちのことも、理由も、定かではない。
何か理由をつけて、屋敷の警護は厳しくしなくてはならないだろうが、判明するまでは、不用意に騒ぎ立てないほうが良かろうとして、黙って通すことにしたのだ。
惣右衛門も同意した。
陽映には、まだ、他にも気になることがあった。
* * *
にぎやかに出発した牛車の一行を見送り、土岐野は、白菊の様子を見に行った。
陽映が来てからというもの、『影』の出番が増えていく一方だ。
よく通る陽映の声が、遠くから聞こえてくることがあるものの、白菊とはどんどん距離が離れていく。
すぐ近くに居るというのに、遥かに遠い存在になりつつある。
白菊を置き去りにして、事態は進んでゆく。
どんな想いでいるのかと思うと、気が気ではなかった。
「無事、国司様へのご挨拶にお出かけになられました」
声をかけるが、返事は無かった。
様子は変わらないように見える。
しかし、『影』を乗せるつもりだった輿が間に合わないと知った時、怒りもしなかったのが気になった。
国司への挨拶が遅れてもかまわない と、内心思っていたのではなかったろうか。
変わらない様子が、かえって心配だった。
壊れるのなら、まだ良い。
壊れもしない強さが、土岐野には不憫だった。
このままいけば、白菊の存在そのものが宙に浮く。
淡雪が部屋の隅にうずくまっていた。




