十一
「やっと、晴れ間が見えてまいりましたね」
久しぶりに見えた明るい空を眺めて、伊織が嬉しそうに言った。
「あまり見物ができなかった」
陽映が残念そうに答える。
「婚礼のことは、鳥座惣右衛門様と達磨坂様が万事ご相談なさるでしょうから、その間に、白菊様と道行きと洒落込んだらいかがです」
「まだ道がぬかるんでいるから大変だろう。遠出は諦めよう」
「そうですね。では、屋形の中でイチャイチャしたらいいと思います」
どうも伊織の表現は直截すぎる。
白菊姫に聞かれたら怒られそうだ。
注意しなくてはと考えているところに、部屋の外から女の声がした。
「日鞠様付の侍女、蓉と申します。
日鞠様からお話したき儀がございます。
よろしゅうございましょうか」
何の話だろうと訝ったが、これから親戚にもなることだし、無碍にもできない。
「どうぞ」と答えた。
日鞠はゆっくりと部屋に入ってくると、お作法の手本のような優雅な動きで陽映の前に膝を折った。
「お願いでございます。お助けくださいませ」
息を一つ吸って吐く間があって、
「はい?」 伊織が、素っ頓狂な疑問形の合いの手を入れた。
声にこそ出さないものの、陽映も気分は同じだ。
まだ見物さえろくにできないでいる。
勝手が分からない状態で、人を助けられるのかは大いに疑問だ。
「当方でお役に立てることでしょうか」
陽映の視線を受けて、日鞠は頬に朱を散らした。
途端に もじもじし始める。
「あ……あのう……お助けください。
都に連れて行かれてしまいます。貴族のおめかけにされそうです。
お年を聞いたら、父上よりも上なのです。
嫌なのです。どうしても嫌なのです」
陽映と伊織は、思わず目を見合わせた。
昨日の堅香子の話といい、波止女弾正が朝廷や貴族に取り入っているという噂は聞いている。
確かな情報もある。
なるほど、そういう相談かと納得したが、それは波止女家の問題であった。
まだ親戚にもなっていない陽映が助けてはやれない。
「それは、ご両親に仰るべきことではないでしょうか」
あるいは、力になってくれる身内に。
弾正は、何人もの女人を囲って子沢山だと聞いている。
腹違いの兄弟姉妹が大勢いるはずなのだ。
ほんの何日か前に会っただけの陽映に相談するべきことでも、言うべきことでもない。
陽映は、おかしなことに気づいた。
そういえば日鞠は…………。
陽映の思考を断ち切るかのように、侍女が大きな声をあげた。
「どうか、お汲み取りくださいませ。
日鞠様は、日鞠様は………… あなた様に恋焦がれていらっしゃいます」
「ええっ?」
伊織が先に驚いた。




