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くれないの影  作者: しのぶもじずり
第三章 煌めきの君 被虐の目覚め
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33/69

十一


「やっと、晴れ間が見えてまいりましたね」

久しぶりに見えた明るい空を眺めて、伊織が嬉しそうに言った。


「あまり見物ができなかった」

陽映が残念そうに答える。

「婚礼のことは、鳥座惣右衛門様と達磨坂様が万事ご相談なさるでしょうから、その間に、白菊様と道行きと洒落込んだらいかがです」

「まだ道がぬかるんでいるから大変だろう。遠出は諦めよう」


「そうですね。では、屋形の中でイチャイチャしたらいいと思います」

どうも伊織の表現は直截すぎる。

白菊姫に聞かれたら怒られそうだ。

注意しなくてはと考えているところに、部屋の外から女の声がした。


「日鞠様付の侍女、(よう)と申します。

日鞠様からお話したき儀がございます。

よろしゅうございましょうか」

何の話だろうと(いぶか)ったが、これから親戚にもなることだし、無碍(むげ)にもできない。

「どうぞ」と答えた。


日鞠はゆっくりと部屋に入ってくると、お作法の手本のような優雅な動きで陽映の前に膝を折った。

「お願いでございます。お助けくださいませ」


息を一つ吸って吐く間があって、

「はい?」 伊織が、素っ頓狂な疑問形の合いの手を入れた。

声にこそ出さないものの、陽映も気分は同じだ。

まだ見物さえろくにできないでいる。

勝手が分からない状態で、人を助けられるのかは大いに疑問だ。


「当方でお役に立てることでしょうか」

陽映の視線を受けて、日鞠は頬に朱を散らした。

途端に もじもじし始める。


「あ……あのう……お助けください。

都に連れて行かれてしまいます。貴族のおめかけにされそうです。

お年を聞いたら、父上よりも上なのです。

嫌なのです。どうしても嫌なのです」


陽映と伊織は、思わず目を見合わせた。

昨日の堅香子の話といい、波止女弾正が朝廷や貴族に取り入っているという噂は聞いている。

確かな情報もある。

なるほど、そういう相談かと納得したが、それは波止女家の問題であった。

まだ親戚にもなっていない陽映が助けてはやれない。


「それは、ご両親に仰るべきことではないでしょうか」

あるいは、力になってくれる身内に。


弾正は、何人もの女人を囲って子沢山だと聞いている。

腹違いの兄弟姉妹が大勢いるはずなのだ。

ほんの何日か前に会っただけの陽映に相談するべきことでも、言うべきことでもない。

陽映は、おかしなことに気づいた。

そういえば日鞠は…………。


陽映の思考を断ち切るかのように、侍女が大きな声をあげた。

「どうか、お汲み取りくださいませ。

日鞠様は、日鞠様は………… あなた様に恋焦がれていらっしゃいます」


「ええっ?」

伊織が先に驚いた。



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