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くれないの影  作者: しのぶもじずり
第二章 お客様は紅王丸
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皆が退室して、二人になった。


「御簾を」

土岐野は声に従って御簾を下ろし、愕然とした。

今の声は、どちらの声だったのだろうか。

判然としない。

不安に駆られて、白菊にしか見えない娘を見た。


こっそりと影を用意したものの、こんな風に堂々と人前に出すとは思っていなかった。

ごまかし程度に使うだけだと思っていた。

いずれ、惣右衛門をはじめ一族の者には、打ち明けることになるだろうと。


似すぎている。

身内や、傍に仕える自分でさえも見分けのつかない影。

これからどうなるのだろうと思うと、底知れぬ不安がよぎった。


奥から、もう一つの声がする。

「影、わらわが呼ぶまで部屋に下がっているがよい。目障りじゃ」


鹿の子は立ち上がった。

これで期限の十日を乗り切った。

得意技を使いすぎて、思いのほか疲れていた。

聞きたいことがあったが、答えてもらえないのは分かりきっていた。



鹿の子の世話を命じられて、五葉はほっとしていた。

白菊の傍は、土岐野と一緒でさえ緊張する。

土岐野が鹿の子の訓練をしていた間は、五葉一人で身も細る思いを強いられた。

実際は、鬱憤を晴らす為に食べ過ぎて、太ってしまっていたが……。


鹿の子ならば、どんなに似ていたところで、たかが影。

軽業師の小娘にすぎない。

密命とはいえ気が楽だ。

与えられた部屋に鹿の子が戻ったからには、今後は気を抜ける機会も増えるだろう。

「疲れたでしょう。ゆっくり休みなさい」

気の緩みから気安く声をかけた五葉は、振り向いた視線に背筋を凍らせた。


ほんの十日の間に、この娘は、しぐささえも白雪そっくりになった。

なんという人間を作り出してしまったのだろう。

五葉は、恐ろしいものを見るように、改めて鹿の子に見入った。


「うん、ものすご~く疲れた」

 ぼんやりとへたり込んでいる鹿の子を見ても、五葉の気が休まることは無かった。


五葉の見通しは全く甘かった。

白菊の用を言いつけられるのは以前と変わらず、鹿の子の世話が増えただけだった。




その日、白菊の用事で五葉の姿が見えなくなった時、『カノコー』と声が聞こえた。

庭を見ると寿々芽が来ていた。

あれから何度か土蔵に行ったが、その度に寿々芽も窓からやってくる。

いつの間にか、紅王丸を真似て名を呼ぶようになっていた。


鹿の子は、ほくそえんで庭に降り立った。

土岐野も五葉も、ぎょっとした顔で見ることがある。

先日の客も、どの程度の知り合いかは分からないが気づかなかった。

きっと相当似ているはずだ。


今度こそ、紅王丸を喜ばせることが出来そうな気がする。

うきうきと土蔵に向かった。


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