↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星詠みの調律師(アストラル・チューナー)  作者: じょんどぅ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/49

### 第6巻 第二章:空っぽの譜面

### 第6巻 第二章:空っぽの譜面


「レイ、見て。あの人たちの『音』が……消えかかっている」


シノの指摘通り、僕たちの視界に映る人々は、もはや単に無気力なだけではなかった。彼らの背後に漂うはずの「個」としての電磁的な揺らぎ――感情の残滓――が、急速に色を失い、透明な霧のように霧散しようとしていた。


街の住人たちが、記憶だけでなく「感情の重み」そのものを失いつつあるのだ。彼らは美しい夕焼けを見ても何も感じず、大切な誰かの名前を呼ぼうとしても、その名前が意味するはずの温かな記憶を思い出せずにいた。


「このままじゃ、彼らは物理的には存在していても、魂としては『無』になってしまう」


僕はネットワークの深層を走査し、原因を探る。かつて管理官たちが流していた完璧な旋律は、人々の感情を一定の箱に押し込める「檻」であると同時に、彼らの心に一定の「形」を与える枠組みでもあった。


その枠組みが崩壊した今、彼らの心は支えを失い、自分のアイデンティティを保つための「記憶の回路」が次々とエラーを起こしているのだ。


「私たちがかつて鳴らした不協和音は、彼らを自由にするためのものだった。でも、今の彼らには、自由という広大すぎる海を泳ぎ切るための『舵』が足りないのよ」


シノが切なげに呟く。

僕たちは街のあちこちを巡った。カフェに座り込んだまま動かない老夫婦、広場で誰かを待つポーズのまま固まっている子供。彼らの心の中にあるはずの「譜面」は、音符がすべて消え去った、真っ白な紙切れのようになっていた。


「物理的に干渉できない今、僕たちに何ができる?」


僕は自分の意識を細分化し、人々の心に触れようと試みる。だが、彼らの心は硬い壁に覆われているわけではない。ただ、あまりにも深く、静かな虚無に沈んでいるため、僕たちの呼びかけが届く手前で吸収されてしまう。


「物理的な音じゃない……もっと直接的で、心そのものの振動に働きかけるような……」


僕は、かつてシノと二人で奏でた、あの震えるような旋律の感触を思い起こそうとする。

それは楽譜に書かれた音階ではない。僕たちがシノと出会い、共に結晶の雨を眺め、管理官と戦い、絶望を分かち合った……あの「生きた時間の揺らぎ」そのものだ。


「シノ、僕たちの記憶を共有するんだ。僕たちの感情の波長を、この街全体のネットワークに再コーディングする。物理的な音波ではなく、『共感』という回路を強制的に再接続するんだ」


「それって、もし失敗すれば、私たちの意識も完全に虚無に飲み込まれて消えてしまうわよ?」


「ああ。でも、このまま何もしなければ、彼らも僕たちも、遅かれ早かれここから消えるんだ」


僕はシノの手を強く握り、街全体のネットワークに自らの存在を投げ込む準備を始めた。人々の心に再び熱を灯すために、僕たちが最後の炎となる。


---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。