### 第3巻 エピローグ:届かなかった手紙
### 第3巻 エピローグ:届かなかった手紙
サーバー室を包んでいた爆炎とノイズの嵐が、嘘のように静まった。
管理官たちの兵器は沈黙し、僕たちの音楽が街のモニターをジャックしたことで、広域ネットワークは一時的な開放状態にあった。
けれど、僕の視界は限界を迎えていた。
サーバーのメインコアから逆流した過大なデータ負荷が、僕の脳の神経回路を焼き切ったのだ。僕は崩れ落ち、冷たい床に身体を預けた。指先が動かない。視界の端で、シノの姿が薄い霧のように揺れている。
「……やり遂げたわね、レイ」
彼女が微笑む。僕にはその声は聞こえない。けれど、彼女の唇の動きと、肌から伝わる微かな振動で、その言葉の意味を理解した。
彼女は僕の傍らに寄り添い、僕の手を握りしめた。
その温もりは、僕がこれまで触れたどんなデータよりも、確かに「生きていた」。
僕の端末には、街中の人々からのフィードバックが溢れかえっていた。
何千もの、何万ものメッセージ。それはかつて結晶を捨てた人々の、失われた感情が帰ってきたことへの感謝であり、そして僕たちへ向けられた「生きてほしい」という悲痛な叫びでもあった。
しかし、そのメッセージはもう、僕には届かない。
僕は最後にシノの手を握り返し、ゆっくりと瞼を閉じた。
街中のモニターには、今も僕たちが作り上げた最後の旋律が流れている。
直接会うことは叶わず、会話も途絶えたまま。けれど、僕たちの心臓と歌声は、街のインフラを通じて確かに繋がっていた。
これは、誰にも届くことのなかった、僕たちから世界への最後の手紙。
音のない静寂の彼方で、僕たちの物語は、永遠の旋律となって街を包み込んでいた。
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