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星詠みの調律師(アストラル・チューナー)  作者: じょんどぅ


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### 第3巻 第五章:暗号化された約束

### 第3巻 第五章:暗号化された約束


地下深層の暗闇は、地上以上に重く湿っていた。管理官たちの監視ドローンが発する赤外線センサーが、通路を蜘蛛の巣のように張り巡らされている。僕は壁に身を寄せ、振動を殺して歩を進めた。


そんな時、僕の端末がわずかに震えた。

ネットワークは遮断されているはずなのに、端末の画面にノイズ混じりの波形が表示される。これは、ネットを介した通信ではない。壁の配線を通じて送られてくる、極めて低周波の振動信号だ。


『……レイ? 聞こえているの……?』


シノの声だ。

彼女は言葉を直接送信するのではなく、街のインフラである配線の「揺らぎ」そのものを楽器に見立てて、僕に信号を送っていたのだ。彼女は音楽を失ったのではなく、都市そのものを巨大な楽器に変えていた。


僕は立ち止まり、その振動を指先で解析する。

彼女が送ってきたのは、単なるメッセージではなかった。僕たち二人だけが解読できる、かつての「旋律の断片」を再構築した暗号譜面だった。


そこには、再会を期す場所が記されていた。

『通信の心臓部』のさらに奥、街の基幹システムが鎮座する『零番区画』。彼女はそこを、僕たちが再び旋律を重ねるための「祭壇」に選んだのだ。


「シノ……なんて無茶をするんだ」


彼女の信号は、彼女自身の命を削るように強く、荒い。僕が地下へ向かっていることを、彼女は振動だけで感じ取っていたのだ。


僕は即座に返信を打つ。

僕が書いた譜面を、同じく振動の信号に変換し、壁の配線へと流し込む。僕たちの暗号は、冷たい鉄の壁を伝い、街の暗闇を縫って、彼女の元へと届いていく。


それは言葉にならない約束だった。

暗号化された旋律が、二人の現在地を繋ぐ。僕は加速した。もはや恐れはなかった。心臓部の奥底で彼女が待っている。どんなに過酷な結末が待っていようとも、今、この瞬間、僕たちは音楽という鎖で再び固く結ばれたのだ。


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