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### プロローグ:灰色の空と、記憶の雨
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### プロローグ:灰色の空と、記憶の雨
街の名は「カノン」。
空を見上げれば、そこにはいつだって無数の結晶が漂っている。それは、誰かが抱いた未練、誰かが押し殺した叫び、そして誰かが誰かを想った記憶の成れの果てだ。
結晶は時折、重力に逆らって雨のように地上へ降り注ぐ。
触れた者は、知らない誰かの人生を追体験し、自分の心が他人の感傷で侵食される恐怖に震える。だから人々は、結晶が降る夜には扉を閉ざし、耳を塞いでやり過ごす。
それがこの街の、抗えない日常だった。
僕はレイ。
この街の片隅で、誰にも聴かれない音楽を紡ぐ調律師だ。
僕は結晶に触れても、他人の感情に飲み込まれない。それどころか、結晶が持つ歪な周波数を音符に変換し、美しい旋律へと昇華させることができる。
だが、意味はない。
聴く人のいない音楽に、救いなど存在しないのだから。
僕はただ、自分の胸に溜まった澱を掃き出すように、深夜、空っぽの旋律をネットの海へと放流する。
それが、僕という孤独な調律師の、唯一の呼吸法だった。
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