92 それぞれの生きる道 ①
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戦いは終わった。
グレイスが捕えられていたのは元々魔王の城があった場所で、通常なら瘴気が満ち、長くいれば人間は体調に支障を来す場所だった。
その心配がなく終えることが出来たのは、戦闘が日をまたぐ事なく終結した事は勿論だが、聖者であるロシェルが随行したお陰で、その場の瘴気が浄化された事が大きな要因だった。
ダリウスの遺体は、帰還するその足で、グレイス他ルダリスタン帝国の兵士達と共に、フェアノーレ王国に届けられた。
人知れず行われていた戦闘だったが、英雄の死の知らせにより、それがいかに激しい戦いだったかを物語る結果となった。
ダリウスの遺体は、フェアノーレ王家の墓所に、特別に場所を設けて埋葬されることになった。
それはダリウスの死後、ノーラ家を継ぐ者がおらず、唯一の子供とされるミジェルは、彼女の意志により、引き続きルダリスタン帝国のグレイス達のいるヴァーバル領で保護されることを望んでいたからだ。
ミジェルにはダリウスから手紙が残されていた。
それは今回のグレイス救出と魔族討伐に向かう前に書かれていたものだった。
手紙を読んだミジェルは特に感情を表す事もなく、淡々とダリウスの死も受け入れている様に見えた。
「手紙の内容は、私に対して改めて謝罪するものでした。幼かったあの頃は、何一ついい思い出なんてないんです。そして幼かったからこそ、あの頃の悲しみと苦しみと憎しみは、心の傷となっていて容易に消えません。何より、本当にあの人が父親だとは思えないんです。未だに他人みたいで······。父親の死に対して涙を流さない私は、相当薄情で親不孝な人間と思われるでしょうね。」
「·····ミジェル、あなたがあの頃フェアノーレでどんな扱いを受けて生活していたか聞いているわ。酷いものだった。でも実際には、あなたは話以上の苦しみを味わったと思っているの。そしてそれを今あなたがどう思っていようと、他の人間がどうこう評価する資格はない。あなたはダリウスをこれからも許さなくてもいいし、いつか許す日が来てもいい。あなたがどんな選択をしようと、私はあなたの味方であることだけは忘れないで。」
「·····はい。お義父さんもそう言ってくれました。」
「ドイナーが?そう·····。そういう所はやっぱりドイナーね。あらあら、ここであなたは泣くのね。さぁ、いらっしゃいミジェル。これは義母親である私があなたを抱き締めるところよ。」
そう言ってグレイスはミジェルを抱き締めた。
ミジェルは暫くグレイスの胸で泣いていた。
こうした中、ダリウスの葬儀は国葬として扱われ、棺を運ぶ沿道には、フェアノーレ王都の民が、国の英雄を失った悲しみと感謝と共に溢れ、その姿を見送ったのだった。
◇◇◇
ルノール王国の王女ルネアは、魔族から洗脳されていたとの主張は認められたが、今回の魔族によるグレイス拉致の件を主導した人物に変わりはなく、更にこの世の宝とされる聖者ロシェルを傷つけ、呪い殺そうとした罪は非常に重いとされ、処刑されることになった。
そして今回の件に関わったルノール王国とフェアノーレ王国の国王は、謝罪の為、揃ってルダリスタン帝国を訪れる事になった。
「グレイス、この度の事は本当に申し訳なかった。ルノール王国の王女が間に入っていたとは言え、まさかマリアが魔族に手を貸すとは。マリアの精神を追い詰めたのは私の責任だ。」
謁見場で公の謝罪を行った後、あらためてルダリスタン帝国の皇宮の一室で、フェアノーレ国王であるアーレンは、グレイスに直接謝罪する為、会う機会を設けていた。
あの魔族との戦いから、3ヶ月が過ぎていた。
「謝罪は受け入れます。·····それでマリア様は今どうされているのですか?」
「ルノール王国の王女同様、精神を操られていたという事に。ただルダリスタン帝国の公爵を命の危険にさらした事には変わりない。本来ならルネア王女と同様、処刑を言い渡されても仕方がないと思っているが、君が事前にマリアに対して、情状酌量を願い出てくれたから、廃妃とする事と、フェアノーレ王国の北部の辺境に罪人が身分を捨て一生奉仕活動を行う神殿があってね、そこに送った。もう到着して、生活していることだろう。」
「·····アーレン。」
「マリアから手紙を預かっている。読むか読まないかは君に任せるよ。」
「勿論読むわ。」
そう言って、グレイスはアーレンから差し出された手紙を受け取った。
手紙には、多くの謝罪の言葉と共に、今回の件はグレイスを傷つける意図はなく、しがらみから解放され、幸せを掴んで欲しいと思い魔族に協力したと綴られていた。
あの時、何故魔族に委ねてしまったのかを後悔すると共に、死んで詫びようとも考えていたらしい。
アーレンから、死ぬ事は謝罪にならず逃げることだと諭され、思い止まったと書かれていた。
また許されるなら、読まなくても構わないから、手紙をまた送らせて欲しいとも書かれていた。
「心の病として、王宮内に留める事は出来なかったの?」
「心の病だとされても無理だ。それにそのような処遇は、マリアも望んでいない。」
そう言うアーレンの表情は、もうマリアの事は諦めた様で、意外にも少し晴れやかな顔をしていた。
「アーレン?」
「マリアはグレイスにしがらみのない自由を望んでいたみたいだが、それはマリア自身の望みでもある。」
「マリア様は廃妃を望んでいたという事?」
「ああ。アリエスタ伯母上から避妊薬を盛られている事を知った辺りからか。物思いに更ける事が増えてね。まあ、当然だが、私と結婚して王妃となった事は、マリアが思い描いていたような生活とはかけ離れていたんだよ。特に子供の事は······。」
「自分の子供があなたの後を継いで、この国の王となる事。マリア様は国母となる事?」
「ああ。勿論子供が出来ない未来もある。しかし、実際はそうなるように故意に仕向けられていた事が、彼女の気持ちを深く傷つけていた。」
「······。」
「魔族の魔法によって、私と結婚しない、平凡な未来を見せられたんだろう。魔族の作った夢だと分かっていても、そこに本当に彼女が欲しかった幸せな未来を見たんだ。自分の気持ちをはっきりと自覚したら、それを誤魔化す事は出来なくなったんだろう。」
「·····でも環境がそうあるだけで、アーレン、あなた自身をマリア様は深く愛しているはずよ。あなたもそうでしょう?これから別れて離れて暮らすなんて·····。」
グレイスがそう言うと、アーレンのグレイスを見つめる瞳が揺れている様に見えた。
「·····10年程前からかな。マリアの専属護衛の1人に平民上がりの騎士をつけた。ハドルと言うんだが、彼は彼女と同郷の者でね。本来は実家の商会を継ぐはずだったが、どういう訳か、騎士に志願し、マリアの護衛になるまで上り詰めた。」
「まさか······。」
「寡黙な男でね。マリアに気があるような素振りは全く見せず、余計な会話もせず、常に護衛の仕事に徹している男だったよ。それが今回マリアが廃妃となり、辺境へ送られる事になったと決まったら、なんと彼も騎士を辞してね。マリアに付いて共に辺境へ行きたいと願い出た。」
「それは·····。」
アーレンは、話を聞いて顔を曇らせたグレイスに微笑みかけた。
「今はマリアも、彼が何を考えて共に行くことにしたか分からないだろう。だが、辺境での生活には、マリアの新しい物語が待っている·····そう思わないか?」
それはそのハドルという男性との恋物語が待っているとでも言いたいのだろうか?
マリアがそうして新しい恋を見つけ、共に生きていく伴侶を見つけられたなら····。
「アーレン、あなたは?あなたはそれでいいの?王位を辞した後、余生を送るとして、そこにマリア様は居なくていいの?」
「言っただろう?もうマリアには新しい生活が待っていると。マリアの性格なら、私と居たいなら、侍女にでも扮して傍に居ようとするはずだ。私はマリアの中で、玉座に座る輝かしい王でなくてはならない。他の者が決して手の届かない存在。そんな男の妻だったという事実が彼女の自慢にでもなればいい。」
あまりにも淡々と答えるアーレンを見て、グレイスは居たたまれなくなる。
「だったらあなたは?私の知っているあなたは寂しがり屋でしょう?あなたを支える存在が必要でしょう?」
「······グレイス、よく考えてみてくれ。そもそも君が居なかったら、私はとうに病で死んでいるよ。それも若く。そして何度も君の世話になっている通り、病は何度も再発している。私は何度回復しても再び病におかされる、そんな身体なんだ。きっとマリアよりも早く亡くなるだろう。私がいなくなった後、マリアがどんな扱いを受けるか。そう考えたら、このまま離れて、マリアに新しい人生を送らせた方がいい。王位を譲る準備は出来ている。新しい王が即位すれば恩赦が与えられる。その時、マリアは辺境の神殿から出て、自由に生きればいい。」
「······アーレン。それで本当にいいのね?」
「ああ。」
マリアを手放す事は、今回の事が起きる以前に、既にアーレンの中で考えていた事なのかもしれない。
あまりにスッキリとした表情で話すアーレンを見て、グレイスはふとそう思った。
「退位したらどうするの?」
「そうだな·····離宮に籠るかな。」
そう呟くアーレンはどこか寂しそうで······。
グレイスは思わず立ち上がり、アーレンの前に跪いた。
そして胸元からペンダントを取り出すと、アーレンに手渡した。
「グレイス?」
「今日渡すつもりだったものよ。魔石の中に魔法陣が彫られているわ。これで私の魔力が直接受け取れる様になるから。」
「何時もの魔石の代わりか。」
「それだけじないわ。ルダリスタン帝国のヴァーバル領の私の館····もう城になっているわね。その建物の一室にあなたの部屋を用意しているの。元々あなたが治療の為に滞在する時にと思って用意したものよ。ちょうどそこに転移魔法で移動出来る魔法陣も用意しているわ。このペンダントの魔力が、城に入ることの出来る鍵になっているから。これで何時でも来るといいわ。」
「·····ハハハハハ。一度行ったら、帰りたくなくなるよ。」
「退位したら、帰らなくてもいいのではなくて?必要なら、そこからフェアノーレへ通えばいいわ。まぁ、あなたの魔力に余裕があればだけど。」
アーレンはそのペンダントをどこか愛おしそうに指で撫でる。
「私はあなたの伴侶にはれないけれど、ずっと傍にいる親友だと思っているわ。それにヴァーバルの城はとても賑やかなのよ。だからあなたが寂しい想いをする事はないわ。きっと·····。」
「·····そうか。君はいつまでも若く、美しい姿で·····エルフと同じ長寿になったんだったね。」
アーレンはそう言うと、片手でペンダントを握りしめ、額に当て、顔を伏せた。
グレイスにはアーレンが泣いているように見えた。
グレイスはそのまま黙って、そっとアーレンを抱き締めた。
「·····そう言えば忘れていたけど、私はあなたの元妻だったわ。マリア様が傍にいられないなら、私が代わりにあなたの命が尽きるまで見守るから。だから·····あなたは1人じゃないわ。」
グレイスがそう言うと、それに応えるかの様に、アーレンもグレイスを優しく抱き締め返した。
「·····有難う、グレイス·····結婚しようか。」
「·····アーレン、お断りよ。あなたの私へのプロポーズは、何時も軽すぎるのよ。」
「何時だって本気なんだけどなぁ·····。」
軽く笑い合いながら、2人は暫くそうしていた。
この1年後、アーレンは退位し、新しい国王を支える補佐を行った。
しかし、徐々に体調を崩すことが増え、退位した3年後には、グレイス達のいるルダリスタン帝国のヴァーバル領に身を寄せ、余生を過ごしたと言われている。
数ある作品の中から、見つけて、読んで下さり有難うございます。
この作品も完結まで残り僅かとなりました。
最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
これからも宜しくお願いします。




