↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
91/93

91 英雄の死

不定期投稿です。宜しくお願いします。

更新をお待ち下さっている皆様、いつも有難うございます。

また誤字報告有難うございます。

魔力を込めたダリウスの手は、自身の胸を深く貫いた。

グレイスはそれを瞬きせず見つめていた。


それからダリウスは、身体から手を引き抜くと、一瞬身体を強張らせ、そのまま地面に倒れこんだ。


胸に空いた穴から、魔王の魔力が空中に飛散し、何処かに逃れようとする。

しかし、ロシェルによってかけられた結界に阻まれ、抜け出すことが出来ない。

そうしていると、グレイスの身体から光が溢れだし、その光は魔王の魔力を飲み込み破壊した。


それを見届けると、グレイスは倒れているダリウスに駆け寄った。

そしてダリウスの身体をお越し、胸に治癒魔法をかけ始めた。


「グレイス······何を·····?」


ダリウスは掠れた声でグレイスに問い掛ける。


「ロシェルは今、戦っている者達に目を配りながら、治癒や防御魔法をかけ続け戦っています。ですから今すぐあなたの元に回復に来ることは難しいでしょう。私の闇属性の魔法は欠損部分の再生は出来ません。今私が出来る事は、水属性の魔力で出来る治癒魔法だけ。傷を浄化し、出血を止め、皮膚を塞ぎ、痛みを和らげる程度のものです。分かりますね?」

「·····ああ。助かろうとは思って····いない。」


ダリウスはグレイスに膝枕をされながら、震える手を思わずグレイスの頬に伸ばす。


「あなたは····何故·····泣く?」


グレイスは意識してないのか、いつの間にか涙を流していた。


「何故でしょうね·····。」


ダリウスに関しては、グレイス自身、もう怒りの感情しか残っていないと思っていた。

ダリウスは、そんなグレイスの涙を拭おうとするが、頬に触れる指先は胸の傷の為か、震えていた。

そしてダリウス自身もまた涙を流していた。


「昔·····あなたがアーレンの護衛騎士となった頃·····あなたはとても輝いていたわ。その後古竜を倒して英雄となり、皆があなたを讃えていて。あの頃誰が今のあなたのこのような姿を想像出来たでしょうか·····。」


グレイスはそう言い、グレイスもまたダリウスの頬を包むように手を伸ばす。


こんなはずじゃなかっただろう·····グレイスは今の俺の状況を憂いて、そう言っているのだろうか。


ダリウスはそんな言葉をかけられると思っていなかった為、驚いた表情でグレイスを見つめる。


そんな風に言われるのは、俺の事を思ってくれているようで、悪い気はしない。

寧ろ、それがグレイスの優しさによるものだと思うと胸が熱くなる。


そしてダリウスは苦し気な表情をすると、(せき)を切ったかの様に、心の中に溜まっていた言葉をグレイスに伝え始めた。


「愛している·····グレイス·····本当にすまなかった。俺は間違えた····。」

「ダリウス、私は·····。」

「謝罪を受け取ってもらおうとは思っていない····。ただ·····聞いてもらいたいだけだ·····。」


「······。」


「これは····あなたに聞いてもらうことは、俺の自己満足だ。すまない····ただどうしても最期に·····伝えたい。俺が愛したのは····グレイス、あなただけだ。なのに、あなたを·····あなたを取り巻く皆を····傷つけ、取り返しのつかない事態を招いてしまった事·····本当に申し訳ない。」


そこまで言うと、グレイスの頬に伸ばしていたダリウスの手は、力を失くし地に落ちた。

そしてダリウスの目からは、徐々に光が失われていく。


グレイスはダリウスの言葉に何も返すことなく見つめていたが、やがてダリウスの頭に手を伸ばし、そのまま胸に抱き締めた。

グレイスの温もりが、冷えていくダリウスの身体にゆっくりと染み渡る。


「グレイ····ス?」


驚くダリウス。


「さようなら·····ダリウス·····。」


グレイスの声は震えていた。


「グレイス·····。」


既に霞んでいた視界が、更に自身の涙で見えなくなる。


懐かしい、愛しいグレイスの香りだ·····。


「ありがとう·····あなたに抱き締められて逝くなど·····最高の終わり方だ·····。」



ダリウスは最後の力を振り絞りそう呟いた。



《私、ダリウス·ノーラは、神の御名において、グレイス·タンドゥーラを唯一の妻とし、生涯愛することを誓う。》


グレイスとの結婚式の日、そう神に誓った時をダリウスは思い出していた。

自分の妻となるべく着飾ったグレイスの、女神かと思うほどの美しい花嫁姿。


ああ·····グレイス······。


ダリウスはその顔に穏やかな微笑みを浮かべ、その瞳にはグレイスの姿をとらえたまま、静かに息を引き取った。




『何?もう死んだの?』


ルーザは、ドイナーとスルーガ卿を相手にしながら、横目でダリウスの様子を伺っていた。


計画通り、ダリウスは呆気なく闇に堕ち、魔王の魔力がダリウスの身体に馴染んだら、後はルーザが上手く操ればいいだけのはずだった。

しかし思いの外早くグレイスの捜索隊がこちらに現れた。

だからといって、あの状態のダリウスをグレイス達がどうこうする事は出来ないと思っていた。

それがどうだろう。

グレイスはルーザの魔法から抜け出し、完全に目覚め、ロシェルにかけた短剣の持つ呪いさえも解いていた。

あの短剣にかけられていた呪いは、ルーザ達魔族でも解呪の仕方が分からず、もて余していた物だった。

あの呪いはおそらく神力によるものだ。

神以外どうすることも出来ないはずなのに。

そしてせっかくあの忌々しい聖属性の魔力を消失させるチャンスだったのに、こうもいとも簡単に。

こんな事は、呪いを受けたロシェル自身も、強力な魔力を持つ魔族のナルージアも出来はしない。

という事は、あの女····グレイスが目覚めて直ぐに解呪したのだろう·····。


「簡単に自決に追い込むとは·····人間もなかなか冷血ね。」


ルーザは舌打ちをすると目の前のドイナー達に視線を戻す。


「お前達ご自慢の魔王様は、復活出来なかったみたいだな。」


スルーガ卿がルーザを煽る。


「だからと言って、あなた達をここから生きて帰しはしない。」

「ハハ····。俺達もお前達を逃しはしない。」


そうドイナーが言った瞬間、ドイナーの身体に彫られたグレイスの魔法陣から、グレイスの魔力が流れ込んでくる。


「ふっ·····。」


その魔力をルーザも感知したのか、眉根を寄せていた。

ドイナーは風と闇属性の魔力の持ち主だ。

ドイナーの手に持つ剣に、グレイスからもたらされた魔力と自身のものを合わせ纏わせる。


おそらくあの剣に触れたら、身体が消失する。


ルーザは瞬時に判断し、ドイナーから距離を取った。

しかしスルーガ卿はそれを見逃さず、ルーザに向かって斬り込んだ。

元々表だって戦闘を行わないルーザは、スルーガ卿の速さについて来れず、体制を大きく崩した。

ルーザはそのまま魔獣を召喚しようとするが、それよりも早くドイナーはルーザの身体に剣を突き立てた。

剣に纏わせた闇属性の魔力が、ルーザの身体を侵食し、灰と化していく。


「こんな所で·····人間ごときに·····。」


「かつて人間は、魔王だって倒したんだ。お前ごときの魔族を殺れるのは、当然だろう?」


その言葉を聞き、ルーザは苦悶の表情を見せながら、闇に溶けるように消えていった。



『 一方的だがいいのか?』


3体の上級魔族を相手にしているナルージアは、未だ防戦一方で、攻撃しあぐねているかに見えた。

ナルージアも戦いながら、ダリウスに宿っていた魔王の魔力が消失したことを感じ取っていた。


彼奴(やつ)もとうとう死んだか。


ナルージアもグレイスとダリウスにまつわる話は聞いていた。

グレイスさえ許せば、自分の手でダリウスを殺してやろうとさえ思っていた。

魔族であるナルージアは、人間の心の機微など到底理解出来なかった。

しかしグレイスに血の契約紋を身体に刻まれ、行動を共にするようになり、グレイスが過去や現在に於いて不快だと感じる事を、ナルージア自身もそう感じるようになっていた。


何だろうな、これは。


グレイスが血の契約というナルージアに対する絶対的な支配力を持ちながら、命令という形をほとんど取らず、信頼し、任せることを選択している。

だから未だに、ナルージアがグレイスと血の契約を結んでいることに気付いていない魔族は多い。


更にこの大陸の実質的な支配者であるルダリスタン帝国の皇帝であるリーヴァもまた、ナルージアと同じ目線で、この先の魔族と人間との共存の為、ナルージアに魔族の王になれと提案してくる。


変わった奴等ばかりだ。

しかし悪い気はしない。


こうして当たり前の様に同族である魔族と戦っているが、見知った魔族が傷つくよりも、グレイスが傷つく事の方が気に入らない。


まぁ、あれこれ考えても仕方がない。

今はこいつらを倒して、後でグレイスに膝枕してもらおう。

さっ、そろそろ準備が整ったかな。


ナルージアは空に視線を向けると、手を振り上げ魔力を放出した。

すると空に巨大な魔法陣が現れ、その中心から巨大な何かが、姿を現そうとしている。


「皆、ロシェルノ結界ニ入レ!」


ナルージアが地上で戦っているドイナー達に呼び掛ける。

ロシェルもその声を受け、防御結界を強固にし、徐々に広げていく。


『相変わらず人間の言葉が下手くそだな。』

『そんなに余裕を見せて大丈夫なのか?』


煽る魔族にナルージアは不適に笑う。


『ドリス、あれは不味いぞ。』

『魔法陣から完全に出てくるまでに、ナルージアを倒せばいい。』


ドリスと呼ばれた魔族はそう言うと、一気にナルージアとの距離を詰める。


ナルージアは片手で魔法陣に魔力を流しながら、応戦する。

そしてナルージアに、ドリス達魔族の攻撃が届こうとした時だった。

地上からトゲ状の漆黒の魔力が立ち上り、ナルージアへの攻撃を遮った。

それと同時に光輝く矢が放たれ、魔族を襲う。


『くっ·····。』


光の矢は、魔族の防御魔法を貫通し、身体に傷を負わせていく。


『この力·····。』


魔族達が地上に目を向けると、そこにはこちらに手をかざすグレイスの姿があった。


『あの女·····。まさかあの短剣に宿っていた魔力を取り込んだのか?』


そうであるなら、早々に消さねば。

あれはおそらく神力だが、使いこなされたら厄介だ。


そう考え、魔族がグレイスに攻撃の照準を合わせた時だった。


ナルージアの魔法陣から魔物がはっきりと姿を現した。

それはワームと呼ばれる巨大な筒状の魔物で、鋭い牙が覗く開いた大きな口は、全てを飲み込むかの様に、周りの遺物を吸い上げていく。

魔物は魔獣と異なり、召喚術で異界から呼び寄せられるものだ。

魔法陣を解くと、異界に戻される為、こちらの世界に生息することはない。

そしてこの異界からの召喚術は、失われた魔法の一つだった。


『異界からの召喚術······なんて化け物を召喚したんだ·····くそっ。』


魔族はそう言い放ち、ワームから逃れようとするが、間に合わず、吸い上げられていく。


『ナルージア!お前はそれ程の力がありながら、何故新しい魔王とならない?何故人間の味方をする?』

『ハハハ·····なるよ、新しい魔王。』

『それならっ·····。』

『俺には俺なりのやり方があるからさ。魔族らしく好き勝手にやるよ。因みにお前達はグレイスを傷つけた。仲間に誘う気はないね。』

『くそがっ!』


ワームの吸引力に耐えながら、ナルージアをも道連れにしようと、拘束魔法で攻撃を仕掛ける。

それらの一部はナルージアを捕らえ、共に引きずり込もうとしていた。

刹那、光の矢が拘束魔法の一部を破壊し、同時に漆黒の蔦が拘束魔法の上からナルージアを絡めとっていく。


『ナルージアは渡さない。』


いつの間にか移動してきたグレイスが、ナルージア達の真下で魔法陣を展開し、次々と魔法を繰り出していた。


『お前か·····この人間の女ごときが!』


グレイスは魔族に対峙すべく、アグリスを顕現させた。


『俺の女に手を出すなよ。』


グレイスに照準を合わせた魔族を見て、ナルージアが片手を振り下ろす。

するとワームから分裂した小さな個体が落下して、魔族達をそのまま飲み込み、闇に消えた。


『バカな奴ら····だからグレイスには手出しするなと言っただろう?それに·····。』


そこにいた全ての魔族と魔獣をワームが吸い込んだのを確認し、ナルージアは魔法陣を解く。


『ナルージアは渡さない、か·····。いい響きだ。』


ナルージアは満足げにそう呟くと、様子を見守るグレイスに視線を向け、満面の笑みを見せた。

数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。