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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
87/93

87 あなたが居ない世界では

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

また更新をお待ち下さっている皆様、何時も有難うございます。

ロシェルの遺体は、宿の近くにある神殿の管理する共同墓地に埋葬した。

遺体をフェアノーレに連れて行きたいが、この世界でのロシェルとグレイスとの関係はあまりにも稀薄な為、その願いを叶える事は出来なかった。

深い悲しみを負い、ロシェルの墓の前で立ち尽くすグレイスを、エリオットやハルもタッカも静かに見守っていた。


「グレイス様。」


ロシェルの墓の前から動こうとしないグレイスを心配して、ハルが寄り添い、優しく声をかける。


「グレイス様、悩まないで下さい。」


「ハル·····?。」


ハルのそう言う眼差しは、どこか全てを知っているかのような、グレイスを労るものだった。


悩む·····。

そう、私はずっと悩んでいる。


今を生きている者達に、何度も言われた言葉だった。

しかし、グレイスにとって、失くしたものの存在があまりに大きかった為、自分だけが得られる幸せを受け入れられなかった。


「グレイス。」


そう呼ぶエリオットに向き直る。

エリオットがグレイスに向ける眼差しは、どこまでも優しい。


「エリオット様、私はこの世界に居て、とても幸せでした。」


グレイスの言葉を受けて、エリオットは笑みを浮かべる。


「そうか·····それを聞けただけで満足だ。」


「でも·····現実の世界では、エリオット様も、ハルもタッカも·····もう居ません。」


グレイスはそう言うと、悲しみを抑えるように目を伏せる。


「そうだね。·····グレイス、君は私やハルやタッカの命と引き換えにロシェルと出会ったと、皆が命を落とさなければ闇属性の魔力を得られず、ロシェルを救えないと、そう考えていないか?」


誰かの死と引き換えに得られる幸せ。

この夢ではじめてグレイスが感じる痛みだった。


「グレイス様、俺達が望むのは、グレイス様が俺達の死を悼んで、余生を静かに暮らす事ではありません。俺達は確かにグレイス様の傍で生きていたのだと、私達との楽しかった思い出を覚えていて欲しいだけです。」


グレイスの考えを払拭するかのようにタッカが話しかける。


「グレイス様、どうか、俺達と過ごした日々が、今のグレイス様の幸せに繋がっていると思わせて下さい。」


タッカの言う言葉にハルも涙を流しながら頷いている。


皆と過ごした日々があるから、今の幸せに繋がっている······。


私の今の幸せは······。


「タッカの癖にいいことを言う。グレイス、今得た幸せを手放すな。何かを想い、遠慮しながら生きる事を私達は望んでいない。」


その言葉はグレイスの心に響いた。

胸の中で張り詰めていたものが、ゆっくりと溶けていく気がした。


グレイスはロシェルの墓に再び視線を戻す。


ロシェル······。


「エリオット様、現実の世界へ戻ることをお許し下さい。」


その言葉にハルとタッカは安堵の表情を浮かべる。


「ああ。·····君を愛する者達と共に、いつか来る君を待っている。グレイス、楽しんでおいで。」

「はい。私を送り出して下さり、有難うございます。」


グレイスはそう言って微笑んだ。

エリオットはいつの間にか溢れていたグレイスの涙を指で優しく拭うと、視線を空に向けた。


「アグリスに迎えに来てもらうといい。」


そう言ったエリオットと同じようにグレイスも視線を向けると、いつの間にか空は一面暗闇に覆われていた。

その中で一点だけ、赤く輝く光が見える。


あれは·····。


グレイスは手を伸ばし呼び掛ける。


「アグリス、来て!」


その声に呼応するかの様に光は輝きを増し、一気にこちらに急降下して来た。

それは竜の様に長く、闇を纏っていた。


【来い、グレイス。】


久しぶりに聞くアグリスの声。

グレイスは光を掴もうと更に手を伸ばした。

降りてきた光はグレイスを飲み込み、そのまま天へと引き上げて行った。





◇◇◇





意識はゆっくりと引き戻される。


爆音の後に伝わる震動と、鼻をつく焦げた臭い。

そして身体は、柔らかく暖かい何かに包まれている。

グレイスは目をゆっくりと開く。

目の前の広い空間には、崩れ落ちた建物の瓦礫とそれに燃え移った炎。


まさに戦場だった。


自分の身体をあらためて確認する。

自分を包んでくれているのは見慣れた聖者の衣装。

それは崩れかけた壁に寄りかかり、グレイスを抱き締めているロシェルだった。


ロシェル·····。


愛しさが込み上げる。

しかし、そのロシェルの顔色は悪く、荒い呼吸はか細かった。

聖属性の防御魔法を用いて、グレイスとロシェルの身体を包み込んでいる為、仄かに光を帯びていた。

より暖かく感じるのは、何時もと比べ体温が高い為。

何かを耐えるように伏せられた目元は、明らかなロシェルの体調の悪さを物語っていた。


「ロシェル。」


そう呼び掛ければ、ハッとしたように目を見開き、グレイスを確認するためか、慌てて身体を起こした。


「グレイスっ·····。」


本当に目覚めたのか確認する様に、グレイスの瞳を覗き込む。


「ふふ。」


グレイスはロシェルを落ち着かせるように頬に手を伸ばし、優しく撫でる。

途端にロシェルの目から涙が溢れだし、グレイスの指先を濡らした。

そしてロシェルはグレイスの手に、自身の手を重ね合わせ口付けた。


「ロシェル、有難う。また心配をかけてしまったわね。」

「うん。心配したよ。ああ·····グレイス、戻ってきてくれた·····。」


ロシェルは震えながら、何度もグレイスの手に口唇を落とす。

ロシェルの止まらない涙に、グレイスもまた口唇を寄せ、抱き締める。

ロシェルもグレイスとの間に少しの隙間を作らせないかの様に、きつく抱き締めた。

ロシェルの温もりが心地いい。


「帰ってきてくれて····嬉しいよ、グレイス。夢の中ではきっとグレイスの愛する人達は皆生きていたんでしょう?なかなか目覚めないから、グレイスにとってはそこが幸せで、ここに帰ってくる気持ちになれないんだと思ってた·····。」

「そうね·····。あの世界では亡くなってしまった人達は皆生きていたわ。そして新しい命にも会った。·····でもね、ロシェル、あなたが居なかったの。」


「え?」


「あなたが居ない世界では、私は生きていられなかった。」


そう言ってグレイスはロシェルに優しく口付けた。

言われたロシェルは、理解が追い付いてないのか、固まっていた。


「それって······。」


「ふふ。そんなに驚かないで。後でゆっくり話しましょう。それよりも皆が戦っているわ。」


グレイスはロシェルから視線を外し、周りの状況を確認する。

空中にはナルージアが2体の魔族と戦いを繰り広げていた。

その内1体は上級魔族、それをサポートするかの様に中級魔族が共に戦っていた。

一方地上では、宙に浮いた1体の上級魔族と、ドイナーとスルーガ卿が戦っていた。

ロシェルを護衛していたモランも、呼び寄せられ集まった魔獣を倒すのに集中していた。


ドイナー達は圧されているわ。


「ロシェル、私も戦うわ。」

「それなら僕も。」


ロシェルもそう言い、立ち上がろうとする。


「いいえ、ロシェル。あなた、熱があるでしょう?それに身体に·····違和感があるわ。」

「それは·····。」

「ロシェル、少し待っていて。後で治療しましょう。あなたはここで人質にならないように、自分の身を守っていて。」

「うん。」


身体の中の呪いから、焼けつくような痛みを感じているロシェルは、グレイスの言う通り、再びその場に腰を下ろし、壁に寄りかかった。


「グレイスが帰ってきてくれた····なら、尚更死ねないな。」


ロシェルはそう呟き、呪いを抑えるのに集中する為、目を閉じた。





目の前の魔族はかつて魔王の側近だった1人。

頭にある一際太い2本の角と同様、隆々とした筋肉は鋼鉄を思わせる。


魔法というより、武闘派の奴なんだよな。

魔獣を召喚したいが、地上のドイナー達に被害が出るかもしれない。


ふと人間の心配をしている自分を鼻で笑う。


こちらが魔法をぶつければ、後ろの奴が防御壁を出してサポートしてくるし、俺の方が動きは速いが、あいつの攻撃をまともに受けたら、一発で死ぬかもな。

先に後ろの奴から殺るか·····。


ナルージアは小さい攻撃魔法を複数出し、2人を引き離す。

思った通り、武闘派の上級魔族はナルージア目掛けて真っ直ぐ突っ込んできた。

ギリギリ攻撃を躱し逃れるも、もう1体の中級魔族が攻撃魔法を狙い撃ちしてくる。


鬱陶しいな。


ナルージアは空中を飛行し、それを追ってきた中級魔族を宙に描いた魔法陣に誘導すると、そこに蛇型の魔獣を召喚し、魔族を呑み込ませた。


『バーカ!』


ナルージアがそう言って笑っていると、それを見ていた上級魔族が蛇型の魔獣の腹を裂き、もう1人の魔族を引きずり出した。


『へぇ、ちゃんと連携するんだ。面倒臭いなぁ。まったく、力を温存しとかなきゃならないのに。』


筋肉バカは体力もバカだからな。

しかし、魔王の側近ばかり生き残ってないか?

何で人間には、魔族が滅びたなんて情報が流れたんだ?


ナルージアがそう考える間も無く、上級魔族が襲いかかって来る。

瞬時に防御の体勢をとったナルージアだったが、思いの外パワーが強く、弾き飛ばされた。


『すげぇ·····危なかった。』


その時、ナルージアの胸が熱くなる。


何だ?


見るとナルージアの胸にグレイスとの血の契約紋が浮き出ていた。


あ?何で?


そう思った瞬間、そこからグレイスの魔力が流れてくるのを感じた。

それはナルージアの身体を一気に駆け巡り、身体は魔力で満たされた。

身体の底から湧き出でる力にナルージアは興奮する。


『気持ちいいー!最高だぜ!グレイス!』


グレイスが居た場所に目を向けると、漆黒のドレスに身を包んだグレイスが、ロシェルから離れ立ち上がり、ナルージアを見上げていた。


『さすが俺の妻になる女だ。』

『そんな約束はしていないわ。』

『グレイス、後で膝枕ね。』


そう言ったナルージアに、グレイスが微笑み返すのを見て、ナルージアは勝利を確信した。





数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。


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