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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
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82 もう一つの人生 ⑦

不定期投稿です。

お待ち下っている皆様、何時も有難うございます。

『それにしても何て美しいお方でしょうか。それにその身に竜の血の呪いを受けても、力に変えてしまったなんて。私が知る限りでも、魔族でない限り、そんな人間はいません。同じ闇の魔力を持ちながら、どこか違う·····やはり生かしておくのは脅威ですね。』


グレイスを襲撃し、連れ去った魔族の女は、ある古城の中の一室にグレイスを寝かせていた。

グレイスの寝顔を見つめていた女は、暫く考えた後、不意に片手に魔力を纏わせた。


『あなたの身体は貴重ではありますが、生かしておくことでのリスクの方が多そうです。ここで死んでもらいましょう。』


そう言って、魔力が帯びた手をグレイスに突き刺そうとした。

刹那、その手はグレイス自身によって弾かれ、攻撃を防がれてしまう。

魔族の女は思わぬ攻撃に後ろに仰け反りる。

目の前には、身体を起こしたグレイスがいた。


『目覚めたのか·····。』


少し口惜しそうに言うと、その身を拘束すべく、魔法を発動しようとする。

しかしグレイスの手からも真っ黒い蔦が伸び、魔法の発動を邪魔する。


【この身体を傷つけることは許さない。】


艶のある男性の低い声がグレイスからこぼれる。


『その声·····そう、あなたが古龍ですか?』


確かに身体はグレイスだが、目の色が聞いていたものと異なる。

赤い目ではあるが、その瞳の中心は、漆黒の中に金色が入った、縦長の瞳孔だった。


『身体の持ち主が眠っているのに出てくると、そのうち本体が目覚めなくなりますよ?あなたが身体を乗っ取るのですか?』

【身体と精神に良くない事は分かっている。】


グレイスの中に宿る、古龍であるアグリスの意識が表に出れば出るほど、今のグレイスでは、意識が深淵へと堕ちていき、戻ってこられなくなる。

今アグリスがグレイスの身体を乗っ取ることは可能だった。

しかしアグリスはそうしなかった。


『乗っ取るなら仲間になりませんか?竜としての身体は失ってはいますが、その魔力は強大です。我々としても是非とも味方になってもらいたいのですが。』


そう言って、今しがた殺そうとしていた相手に微笑みかける。


【ここは何処だ?】

『あの国から随分離れた場所です。残されていた遺跡に刻まれた転移魔法陣を使いましたからね。それに気付けば直ぐ様追ってくることも可能でしょうが、そう簡単には見つけられないでしょう。ですから時間を差し上げます。仲間になるか考えて下さい。』


常にグレイスの中に宿っているとは言え、グレイスの魔力を上手く制御出来るようになるには、時間がかかるだろう。

アグリスは時間をかせぐ為、暫く魔族に従うことにした。



◇◇◇


「先程はどういうつもりだ?魔族の提案を簡単に受け入れる発言など。」


牢に捕らえている魔族、ルーザの元から一旦離れたアーレン達は、執務室で話し合いを行うことにした。


(·····魔王様の復活は、まず魔王様の残した魔石を依代の身体に取り込ませることから始めます。その時、魔王様の意思を宿した魔力を身体の中で上手く制御出来れば、意識を乗っ取られることなく、魔王様の力を得ることが出来ます。)


ルーザが提案してきたことに反応したのはダリウスだった。


「私が魔王の魔力に負けず、制御出来れば問題ありません。」

「しかし、お前が身体を乗っ取られたらどうする?我々はお前を殺さなくてはならない。」

「それで構いません。」


ダリウスは既に心を決めているようだった。


「もし失敗して魔王が復活したとなると、我々だけでは討伐は難しくなる。各国の応援を頼まざるを得ない。しかし今の状況でグレイス1人を助けるために、魔王を復活させることに同意はしないだろう。」


アーレンの発言に沈黙が流れる。


「各国はロシェルを取り込みたいがために、寧ろグレイスを邪魔だと思っている。ロシェルがグレイスを失えば、おそらく頑なに他の女性と子供を作ることを拒否することはないと考えているのだろう。おそらくルノールの王女はそれを狙ったかもしれない。」

「それで魔族に協力するなど、馬鹿馬鹿しい。」


思わずドイナーが小さく呟いた。


「ナルージアからの連絡が未だないとすると、連れ去られた場所の特定に手間取っているのだろう。」


グレイスとナルージアは血の契約紋で繋がっている。

以前と同じように直ぐに見つけられないのは、おそらく離れた距離にいるからだ。


「僕が······。」


それまで黙っていたロシェルが口を開く。


「僕が、各国の決められた女性を抱き、子種を与えることを約束すれば、グレイス救出に協力してくれるかもしれない。」

「ロシェル······。」


「魔族は魔王の依代を求めていて、グレイスの居場所を教えるのが条件なら、そうするしかない。魔族を殺した所でグレイスが帰ってくる訳じゃない。」


ロシェルの発言に、そこにいた皆が驚く。


「逆にグレイス救出に協力してくれなければ、僕が他の女性を抱くことはない、そう言うよ。」

「ロシェル·····。」

「これから皇帝陛下····リーヴァ様に連絡します。もしリーヴァ様がお許しにならなくても、国王陛下、私達を指示して頂けないでしょうか?他国との説得にご協力お願いします。」


ロシェルはそう言ってアーレンに対し、深く頭を下げる。


「ロシェル······いや、今回の拉致はマリアが、王妃が関わってしまった。責任は我々フェアノーレにある。ロシェル、君がそれでいいなら協力しよう。そしてダリウス······。」


アーレンはダリウスに視線を向ける。


「お前の覚悟は分かったが、もし失敗すればお前を殺す。分かったな。」

「はい、承知しております。」


ダリウスもそう言い、アーレンに頭を下げる。


「取りあえず、ルダリスタン帝国へ一旦戻ってくれ。リーヴァへの報告を頼む。城内にある転移魔法陣で戻ることを許可する。私の親書をリーヴァに渡してくれ。」


そう言ってアーレンはその場でリーヴァ宛の親書を書き、ロシェルに渡した。


「リーヴァの許可が降り次第、各国へ親書を送り、協力を仰ぐとしよう。それまで我々は引き続きグレイスを拉致した魔族の追跡とルーザの監視を続けよう。」



◇◇◇


ロシェル達は即日転移魔法陣を使いルダリスタン帝国へ戻った。

早速リーヴァに謁見を願い出て許可されると、フェアノーレ王国でグレイスが拉致された経緯について報告した。


「ナルージアから連絡を受けた時は、何かの間違いかと思ったが。そうか、フェアノーレの王妃が加担しのか·····。そしてルノールの王女もおそらく·····最悪だな。」


報告を聞いたリーヴァは悔しさと怒りを噛み締めるように話した。


「グレイスの次兄のセディンは今、下級魔族の討伐に行っている。伝令は出すが、直ぐには戻ってくることは出来ないだろう。グレイス救出については、私が責任を持って動こう。それで先程聞いた魔族の要求だが、魔王復活は容認出来ない。」

「皇帝陛下!」

「私は魔族との契約による繋がりを持とうと考えているが、魔王復活に手を貸すつもりもない。まして今回のグレイスの拉致を考えると、穏便に事が進んでいくとは思わない。」

「ですがこのままではグレイスが!」


否定されるとは思っていなかったのだろう、ロシェルが直ぐ様抗議する。


「魔王を復活させるのでない。逆にこれを利用して魔王の力を完全に消し去るべきだ。それ位の覚悟があるなら、許可しよう。」

「それは······。」


始めからダリウスを犠牲にすることが条件の内容に、一瞬躊躇する。


「おそらくダリウス·ノーラ卿は失敗するだろう。1度古竜の血の呪いを受けて、その血に宿る魔力を制御出来ず苦しんだ。更に言えば、かつて聖女フィーネの過去にのまれ、判断を誤った。魔王の魔力がどの位のものか分からないが、身体を乗っ取られると思っていた方がいい。始めからノーラ卿を殺すつもりでいろ。」


厳しい表情でリーヴァは言い放った。

何処かでダリウスと敵対することなく、上手く力を制御出来ると思っていた甘さに気付かされる。


「ノーラ卿も自ら名乗り出たのだろう?その事に関して、本人が一番分かっているだろう。」


沈黙が流れる。


「私がノーラ卿を斬ります。ロシェル、モラン援護を。」


ドイナーがそう2人に告げる。

2人は無言で頷いた。

我々は覚悟をきめなければ


グレイスが目覚めた時、ダリウス·ノーラ卿がグレイスを救うために犠牲になったと知ったら、どう思うだろうか·····。


ロシェルの脳裏に、ふとそんな思いが(よぎ)った。





数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします

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