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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
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80 もう一つの人生 ⑤

不定期投稿です。

お待ち下さっている皆様、有難うございます。

「まぁ、聖者ロシェル様自ら進んでお会い下さるなんて、こんなに光栄なことはないですわ。」


フェアノーレ王妃マリアに連れられ訪れた王妃宮で待っていたのは、ルノール王国第3王女ルネアだった。

この流れからするに、事前にルネア王女と約束をしていたのだろう。


「ルダリスタン帝国建国祭以来ですね、ルネア王女殿下。」


ロシェルはルネアに対し、礼の姿勢をとる。


「何時もロシェル様の周りには、何人たりとも近づけさせまいと、過剰な護衛の方々がいらっしゃるけれど、今日はお一人なのね。」


ルネアは嬉しそうに話す。


「こうしてルダリスタン帝国の護衛なしでお二人を会わせるのは、とても難しいことよ。直ぐに連れ戻されるわ。用件を手短に済ませましょう。」


マリアはそう言うと、ロシェルをマリアの隣の席に誘った。


「早速だけど、ルネア王女、ルダリスタン帝国に提出予定の嘆願書の内容を詳しく伺ってもいいかしら。」

「はい、ロシェル様に関わることですから。どうぞこちらを。」


そう言ってルネアはロシェルの前に、他国からの同意を示す署名の入った嘆願書を差し出した。

ロシェルは手に取り、内容を確かめた。


「·····この嘆願書に署名した国に1ヶ月ずつ滞在し、その期間、指定された者と関係を持てと?そして子を成したなら、側室として扱うようにと?」

「はい。あくまでもその女性が妊娠し、無事出産した場合です。これはロシェル様のお心に配慮してのこと。また産後、側室として扱うのは、その女性だけでなく、生まれてきた子の為でもあります。」

「先程から側室、側室と言っていますが、当主はグレイスで、私はその夫です。側室というのは相応しくないと思いますが?」

「そうですわね。·····ねぇロシェル様。ロシェル様は今や世界におそらくお1人だけという聖属性の魔力の持ち主で、聖者の称号をお持ちです。本来であれば皇帝と同じ身分と言っても過言ではないでしょう。そうであるならば、その身を帝国に置き、皇帝の意に従うのは宜しくありません。帝国からも神殿からも影響を受けない、ロシェル様を頂点とした独立した組織を作るべきだと思います。そこに皆が集う、それこそが本来の姿ですわ。」


雄弁に語るルネアにはその構想が確立されているようで、何の迷いも感じさせなかった。


「そしてヴァーバル公爵を正室とし、その他の者達を側室にすれば良いのです。これが一番他国との摩擦もなく、平和的な解決策ですわ。」

「もう、1つの国家といった所ね。」


マリアも頷きながら聞いている。


「······それを拒めば?」


ルネアは断られることを想定していないようで、軽くため息をついた。


「正直申し上げますと、これ程の国の署名が入った嘆願書を、ルダリスタン帝国が無下にすることはないでしょう。万が一代案もなくただ断るつもりなら、ルダリスタン帝国への不信感が増し、強行手段に出る国も出てくるでしょう。私がこのような嘆願書を用意したのは、事前に他国からの不満が噴出するのを防ぐ為です。ご理解下さい。」

「強行手段とは?私を拐うことですか?」


ロシェルがルネアに問うが、ルネアは含みのある笑みを見せるだけで答えなかった。


「私はグレイスの治めるヴァーバル領がルダリスタン帝国から独立し、あなたが長として治めるべきだと思うわ。そうやって、帝国からの干渉を受けないような状況にしてから、考えればいいと思うの。」


マリアがルネアを後押しするように話す。


「あなたはグレイスと平穏に生きていく為に、自由を得るべきよ。」

「王妃様······。」


マリアがフェアノーレ王国の王妃となってから、思考の全てをアーレンに依存してきたとは思えない発言だった。


ロシェルは考える。


保護されて以降、グレイスに守られ、グレイスが不在の間、ロシェルを守ってくれていたのはリーヴァ様だ。

グレイスと同じようにロシェルの身を案じ、後ろ楯となって支えてくれた。

ルネア王女の提案はそんなリーヴァ様を裏切る行為になる。

そんなことはしたくない。


「私は今まで多くの方々に支えられてきました。その方々を裏切るようなことは出来ません。聖属性の魔力の継承については、考える時間を下さい。嘆願書はそのまま提出して頂いて結構です。」


ここで感情に任せて返事など出来ない。

モランやニケ、ドイナーとも相談しよう。


ロシェルはそう言うと、席を立ち、その場を辞そうとする。


「·····残念ですわ。」


ルネア王女が冷めた目でそう答える。

マリアも残念に思っているのだろう、ため息と共に目を伏せた。


その時だった。


ドガーン!!ドン····ドン!!


地を揺らしながら、爆発音が響き渡る。


近くではなかったが、広い王城にあって聞こえる爆発音により、衝撃はかなり大きなものだったことが伺える。


「何事ですか?!」


マリアが確認のため叫ぶ


「おそらく魔法による攻撃と思われます。こちらは被害にあっておりませんので、このままこちらに待機されるのが宜しいかと存じます。ルネア王女殿下もこちらに。」


マリアの護衛がそう言うと、他の騎士を情報収集に向かわせた。

騒ぎはしないが、侍女達が明らかに動揺する中、ルネア王女はまるでこうなることを知っていたかのように落ち着いていた。


その様子を見ていたロシェルの脳裏に、嫌な予感がよぎる。


「まさか·····。」


そう言って立ち上がったロシェルは、王妃宮の近衛騎士の制止を振り切り、部屋を飛び出して行った。



◇◇◇



「何だ、どういう事だ?」

「何デ結界ヲユルユルニシテルンダ?」


魔族の女を捕らえている地下牢から出て暫く歩いた所で、アーレン達は異変に気付いた。


「王城内の結界は、私の魔力でしか解除出来ない。私以外が解除するには、私の魔力を込めた魔石を使った魔導具を使わねばならない。それを持っているのは、魔導師団長のルドルフと近衛騎士団長と王妃であるマリアだけだ。誰が解除した?」


アーレンについていた護衛騎士達が周囲を警戒し始める。

アーレンが近くの壁に手をつくと、近くの壁と床に魔法陣が現れた。

アーレンはそのまま魔法を発動し、再び結界を張り直した。


「ココダケジャナイダロウ?」

「おそらく·····。入り込んだのはあの魔族だけではないということか·····。」

「ソモソモ、グレイスガ襲ワレタ時ニ、結界ノ1部ヲ誰カガ外シテタンダロ?」

「その件も魔導師のルドルフが確認している所だった。」

「裏切り者ガイルナ。ククク····ザマァナイ。」

「その通りだ。ナルージア、急いでグレイス達の所へ戻ってくれ。襲われるなら彼女達だ。」

「勿論。魔族ダッタラ殺スカラ。」

「出来れば、目的と誰の指図か聞いてくれ。」

「了解。」


そう言って、それぞれ分かれようとしていた時だった。


ドガーン!!ドン····ドン!!


突然の爆音と衝撃が襲う。


「なっ?!何事だ?」


爆音は、その後続くことはなかった。


「魔法による攻撃か?」

「ダネ。魔族ッポイナー。」

「魔力を感知出来なかった。」

「俺モ。ドウヤラ戦争ノ始マリミタイダナ。」

「ナルージア、グレイスとロシェルを頼んだぞ。」

「ハイハイ。城壊スカモ。」


ナルージアはそう言うとドイナーを連れてグレイスの元へ向かった。

アーレンは情報収集を騎士に命じ、自身は他の結界の確認に向かった。



◇◇◇



グレイスが滞在している宮殿には、ルダリスタン帝国より率いてきたヴァーバル領の騎士達が護衛している。

ヴァーバル領の騎士の中には、モランと同じように赤目で生まれた為、実家で差別や虐待を受けていた者も多い。

そんな者達は闇属性の魔力持ちで、ヴァーバル領に身を置いた後、グレイスやドイナー、モランによって魔法を使えるようになり、優秀な騎士となった。

その騎士の1人が、アーレンの使いの侍女が来たとモランに知らせに来た。


「今度は国王陛下か?それで使いは何と?」

「眠ったままのグレイス様を心配し、薬湯を持ってきているとの事。体力の維持と水分補給をさせる為と申しております。」

「先程までいた王妃殿下はそのような話しはされていなかったが?」

「アーレン国王陛下から直接という事でしょうか?」


薬湯など、アーレン国王が王妃であるマリア様に指示されそうだが·····。


「受け取って、帰ってもらえ。」


取りあえず受け取り、ロシェルが戻り次第、魔法で毒ではないか鑑定してもらえばいい。


とにかくグレイス様が目覚めるまで、他人との接触は控えねばならない。


「承知しました。それとモラン様、これは気のせいかもしれませんが·····。」

「どうした?」

「あの使いの者、僅かですが闇属性の魔力を感じました。」

「何だって?」


そうモランが騎士から話を聞いた時だった。


「失礼します。」


部屋の扉口に1人の侍女が立っていた。

気配なく現れたその姿に、モランと騎士は虚をつかれる。


「モラン様、あの者が使いの侍女です。」


ただならぬ雰囲気の中、騎士がモランに呟く。


「外に護衛がいるはずだが、何故勝手に入った?」


モランは警戒しながら、侍女に問いかける。


「国王陛下の命で薬湯をお持ちしました。」

「私は外の護衛はどうしたのかと聞いている。」


知らせに来た騎士に、下の宮殿の入口で確認のため留め置かれているはずだ。

モランの許可なく、他の騎士が勝手に通すはずもない。

更に言うなら、部屋の前には別の護衛が2人立っている。

誰かが訪ねてきたら、騎士が人が来た旨を報告し、許可を得た後、部屋の中に入れるのが決まりだ。

それを全て無視した形で部屋に入ってきている。

明らかに不審者だ。


国王からの使いだと主張する目の前の侍女は、その手にポットを持っている。


毒かもしれないな。

かけられることも想定して構える。


侍女は挨拶の為伏し目がちだったが、モランの追及する言葉を受けて、弁解するためか、ゆっくり顔を上げた。

顔を上げる瞬間、モランには侍女の片目が妙に光を帯びている様に見えた。

それが何かと判断する前に、モランは腰に携えている鞭を手に取り放ち、侍女を拘束した。


「フフフ。なかなか鋭い·····。」


拘束された侍女はそう言うと不敵に笑った。

そして侍女の手からポットが離れ、床に落ち割れた。

ポットから割れ溢れた液体は真っ赤な血で、魔力を乗せているのだろう、血はまるで意思を持っているかのように動き、侍女の足下に魔方陣を形作った。

更に侍女の片目が光り、それを目にしたモランの身体は硬直して動かなくなる。


これは·····魔眼か?

この女、魔族だ!


侍女が固まるモラン目掛けて魔法を発動しようとする。

そこへもう1人の騎士が魔族に斬りかかったことで、女の視線が逸れた。

その瞬間身体が自由を取り戻す。


「目を見るな!魔眼だ!足許の魔法陣に傷をつけろ!」


魔法陣が壊されれば、今から魔族の女がしようとしている魔法は放てなくなるだろう。


その言葉を聞いた女は、攻撃を避け、グレイスの眠る寝所に向かって走り出した。


「させるか!!」


モランは女の足に鞭を絡め、引き倒すと、身体を入れ換えるように寝所に入り、グレイスの身体を守ろうと防御壁を張った。


その瞬間······


ドガーン!!ドン!!·····ドン!!


寝所の壁を壊しながら、グレイス達に向かって、魔族の女は破壊の魔法を放った。

壁は吹き飛び、天井は崩れ落ちた。

床には穴も開き、舞い上がった粉塵で、辺りは全く見えなくなってしまった。



◇◇◇



「ロシェル様お待ち下さい!!」


王妃宮から馬に乗り、滞在している宮殿へ向うロシェルの後ろから、王妃宮の護衛が複数人ついてきている。


あの爆発音、もしかして····。


ロシェルは不安な気持ちを抱えながら、馬を走らせた。

やがて宮殿が見えてきた時、ロシェルの予感は絶望に変わった。


1部損壊した建物から、爆発に巻き込まれた人を助けようと、騎士達が必死に動いていた。

ロシェルが馬を止め降りた時、丁度騎士が1人助け出されていた。

血だらけの騎士を見て、ロシェルは息をのむ。


「グレイス······グレイス!!」


ロシェルは走る。

ロシェルに気付いた騎士達が、悲壮な表情を見せる。


血だらけの騎士に続き、粉塵が舞う中から、ドイナーがモランを抱えて出てきた。


「モランっ!」


ぐったりとドイナーに抱えられた血だらけの姿に、生きているのかと不安になる。

ロシェルは走りながら魔法を発動し、2人に治癒魔法をかけた。

しかし傷が深かった為か、モランでさえも意識が朦朧としていた。


「ドイナー!どうなってる?グレイスは?!」

「ナルージアが探している。」

「グレイスは何処に?」


掴みかかる勢いでドイナーに問い詰めるが、ドイナーの顔色も悪い。


「ロシェル····すまない·····。」

「モラン!!」


声が出せるようになったモランが、掠れた声でロシェルに話しかける。


「魔族が急襲してきた。グレイス様は·····拐われてしまった。」







数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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