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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
79/93

79 もう一つの人生 ④

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

「グレイスはまだ目覚めないのね·····。」


依然として目を覚まさないグレイスに寄り添うロシェルに、フェアノーレ王国の王妃であるマリアが声を掛ける。


「王妃様。」


ロシェルは立ち上がり礼の姿勢をとるが、マリアはそれを制した。


「アーレンがこちらに来ていたはずだけど?」

「護衛の方々やナルージアと魔族の女が捕らえられている牢に向かいました。」

「そう·····。」


ロシェルの護衛についているモランが、グレイスが眠るベッドの傍に椅子を用意し、マリアはそれに座った。


「魔族から夢を見させられる魔法をかけられたと聞いたわ。グレイスはどんな夢を見ているのかしら·····。」


「·····王妃様はグレイスがどんな夢を見ていると思いますか?術を仕掛けた魔族の女は、グレイスが目覚める気になったら、直ぐに魔法は解けると。」

「アーレンが言ってたわ。今まで生きてきた人生の中で、強い後悔の念を抱いている者こそ目覚めないのだと。夢では人生の岐路に立ち戻って、別の選択をさせるそうよ。そして自分が歩むはずだった人生をやり直させるんですって。·····グレイスに後悔させるような人生を送らせてしまった責任は、私にもあるわ。本当に申し訳ないことをしたと、ずっと思ってる。」

「·····今の生活がグレイスにとって幸せではないという事ですか?」

「·····昔の事は私も知らないけれど、グレイスはね、少なくともダリウスと結婚していた時はとても幸せそうだったの。ダリウスとの子供を強く望んでいたわ。もしかしたら、子供の居る世界を見させられているのかもね。」

「僕とでは駄目なのかな·····。」


「·····グレイスがあなたを見つめる眼差しは、とても穏やかで、愛情に溢れていると思うわ。でも色々ありすぎて、あなたとの幸せに溺れる事を恐れているの。自分だけが幸せになって良いのかと。暗い過去を持つ自分が、また何か悪い事にあなたを巻き込むんじゃないかと恐れている、そんな感じよ。」

「·····僕はどうすれば良いんでしょう·····。何度抱き締めて、何度グレイスに愛してるって言えば僕の気持ちが伝わるのか·····。僕はどうしたらグレイスと平穏な生活をおくることが出来るのか·····。」


「·····グレイスは多くの事を抱えすぎているわ。そして今までグレイスは私を含め、多くの人と国の力になってきた。もう十分だと思うの。だから、全てを投げ出して、あなたと2人、誰にも邪魔されない場所で静かに生活してもいいと思うの。」

「投げ出して、静かな場所?」


思わぬマリアからの提案だった。


「そう、つい最近までグレイスは行方不明だったじゃない?それでもグレイスの治めるヴァーバル領は問題なく回っていたんでしょう?グレイスの事だから、優秀な人材とグレイスが居なくなっても立ち行かなくならない様なシステムを作っていると思うの。このフェアノーレがそうだった様に。」

「そうですね·····。」

「それなら、これからはグレイス自身の為に時間を使ってもいいと思うの。もしよかったら、私の故郷のラッセル領なら、山々に囲まれて森も多いし、グレイスとあなたを匿える場所を提供出来ると思うわ。」

「王妃様·····。」


マリアの表情は何処か影を落としている。


「私ね、後悔してるの。学園でアーレンに出会い、恋をして、分不相応にアーレンの妃になることを望んで。アーレンはそれに応えてくれて。それに浮かれて妻は私1人じゃないと嫌だと我が儘を言って。あの時は、本当にアーレンを愛しているから、正妃は自分1人じゃないと、思い込んでいたけれど、本当に愛しているなら、私の身分と素養からして、まともに正妃の任をこなせる訳がないのだから、側妃なり、愛妾なり、とにかくアーレンが困らないような地位に収まっていれば良かったのにそれが出来なかった。傍にいられるだけで満足出来なかったのね。傲慢だわ。結局、実務を担える側妃を持つことを条件に許してもらえた婚姻だけど、あの時はどの貴族も側妃になることを拒んでいたわ。そんな中、唯一、私達を真剣に叱ってくれて、支えてくれたのがグレイス。前国王陛下も許してくれたのは、グレイスの実力と、アーレンとの間に子を成せれば、その子を次期国王にしようと考えていたからだわ。実際は、私達の間で3年間の契約婚だったから、アーレンがグレイスを求める事はなかったけれど。」


「······。」


「あの時ね、グレイスでなくても、別の側妃なり、公妾なり迎えることを許し、アーレンとの子を作ることを許せば良かったと。そしてその子を立派に後継者として育てられたなら、きっと今頃アーレンと2人、穏やかな日を過ごせていたと思うの。」


「王妃様との子は?」


その質問にマリアは悲しげに微笑む。


「·····グレイスは知っているけれど、私はずっと避妊薬を飲まされていたらしいのよ。グレイスがその事に気づいて解毒してくれたけれど、どうやら私に子を産ませない様にするのは、アーレンを除く、王家の総意だったみたいね。魔力の乏しい私との子を王にすれば、王家の魔力が衰退していくからだと。·····国の事を考えれば、そうよね。国を脅かす魔獣や、今は特に魔族から国を守る為には、優秀な魔力持った後継者が必要だわ。当然の事よね。」


ロシェルは何も言えなかった。


「今各国は聖属性の魔力持ちのあなたの子供を得ようとしている事は知っているわよね?」

「はい·····。」


「あなたとグレイスが、子供を道具の様に扱いたくない気持ちは十分わかるわ。でも、貴重な聖属性の魔力が今後も世界に必要な事も分かるわよね?」


「······。」


「以前の私ならこんな事考える人間じゃなかったのだけど、今なら別の考えも理解出来るようになったわ。皆があなたの子を望んでいるなら、1度だけ機会を与えてもいいのではないかと。」

「それなら、グレイスが目覚めた後に、グレイスと子を作ります。」

「グレイスはいつ目覚めるの?いつかは分からないでしょう?それに例えグレイスとあなたの子が産まれたとしても、おそらくずっと各国から求められていく。それなら、1度だけという条件で各国の要求をのんでみてはどうかしら?」

「·····各国から求められた女性を抱けと?」

「嫌な事だと思うわ。でも、他国も私利私欲ではなくて、魔族に対抗出来る防御魔法と、土地の浄化が出来る聖属性の魔力が必要だという正当な理由を持っているわ。そして更に今後あなただけではなく、失われた古代エルフの魔法の復活も可能なのよ。他国からの欲求を1部だけでも満たす事が、あなたとグレイスの平穏な未来を守る手立ての1つだという事を知ってもらいたいの。」

「·····グレイスは理解してくれるでしょうか?」

「私が話すわ。あなたが乗り気でない事を承知して無理に勧めたと。あなたとグレイスの仲が壊れることのないようにするから、心配しないで。それにグレイスは統治者でもあるのよ。領地の、国の未来を考えるなら、当然の事だと必ず分かってもらえるわ。」


必死に訴えるマリアにロシェルの心も揺れる。


「·····グレイスがひっそりと身を隠して生活するなら、このフェアノーレではなく、ヴァーバル領の何処かの森だと思います。でも責任感が強いから、きっと必要だと思ったら、その都度表舞台に出て行くんだろうな。それでもいい、グレイスと静かに生活したい。」


「ロシェル様·····。」


「僕はどうすれば·····。」


「このフェアノーレに、今ルノール王国の王女が特使という事で訪問している事はご存知よね?」

「ルネア王女ですね。」

「ええ。王女は既に数ヵ国からの署名のある、ルダリスタン帝国に対して、あなたに子作りを協力するよう要請する嘆願書を携えているの。今回、表向きにはアーレンのお見舞いという事にしてはいるけれど、実際にはこのフェアノーレに、他国と同じように署名させるために訪問していると言えるわ。どちらにしても、その嘆願書がルダリスタン帝国に渡されれば、ルダリスタン側も無視することは出来ない。どの道、対応を求められるわ。」

「皇帝陛下は····リーヴァ様は僕達に無理を押し付けることはないと思います。」


その言葉を聞き、マリアはため息をつく。


「·····そうかしら?確かにグレイスと皇帝陛下との絆は強いものだと思うし、グレイスが傷つく事は避けるでしょう。でもね、あなたは知っている?リーヴァ様はグレイスを深く愛していることを。元々タンドゥーラ家から皇后を出さなかったのは、貴族間の力の均衡を保つ為だそうよ。今は既に皇后様との間にはお二人の皇子がいらっしゃるわ。後継者については落ち着いていると言えるでしょう。ならばリーヴァ様がグレイスを側妃として迎えても問題はないでしょう。」

「リーヴァ様の側妃?」


ロシェルにとって思いもよらない話に驚きを隠せない。


「もしかしたら、これを機にあなたとグレイスを離そうとされるかもしれないわ。」

「いや·····リーヴァ様はそんな事をする方じゃ·····。」

「嘆願書の要望を受け入れて、あなたが他国の女性と関係を持っている間に、グレイスの心に寄り添おうとされるはずよ。その時にきっと欲が出るわ。それはリーヴァ様だけに限らない······。」


何処かいつもと様子が違うマリアにロシェルは違和感を覚える。


「王妃様?」


思い詰めた様に俯くマリアにロシェルは声を掛ける。


「リーヴァ様だけじゃないわ。アーレンも·····アーレンも同じように、グレイスを······。グレイスが倒れたと聞いて、あんなに取り乱すアーレンを初めて見たわ。それにあんなに怒りを表すのも、グレイスに関しての事だけよ····。」


ロシェルに話すというよりも、独り言の様にマリアは呟いた。

暫く沈黙が続いたが、マリアは意を決した様にロシェルに告げる。


「ロシェル様、ルネア王女にお会いなさい。嘆願書がルダリスタン帝国へ渡させる前に王女と交渉するの。取り下げてもらうも良し、嘆願書の内容を変えてもらうも良し。あなたにとって良くない状況になろうとも、最悪になることだけは避けられるはずよ。王女に会って、味方につけるといいわ。私が間に入ってもいい。全てが決められる前にあなた自身で手を打つべきよ。」


明らかに何か追い込まれたようなマリアの言葉を受け、ロシェルは考える。

護衛として後ろで黙って聞いていたモランが、ロシェルに近づき耳打ちする。


「ロシェル、少し様子がおかしい。ここは動かない方が·····。」

「うん·····そうだよね。でもその嘆願書に何が書かれていて、何を要求されるのか事前に知っておきたい。」

「アーレン国王陛下や皇帝陛下の意見を聞いた方がいい。単独で動こうとするな。」


マリアには聞こえないように話していたが、マリアは何かを察したのだろう。

モランの声に重ねるように話しかけてきた。


「ロシェル様、これは人任せにしては駄目よ。あなたの確固たる態度が必要よ。その為には情報収集が必要だわ。ルネア王女に従えと言っているのではないわ。相手が何を考えているか、あなた自身で確認すべきよ。その上で、受け入れるか判断したらいいわ。あなたとグレイスの平穏の為に。」


マリア様·····。


ロシェルはマリアの真剣な眼差しを見て、考える。

そして······


「······分かりました。取りあえず、ルネア王女に会います。」

「ロシェル!」


モランがロシェルの言葉に驚いて、思わず声をあげる。


「大丈夫だよ、モラン。話を聞くだけだ。今、僕の知らない所で何が起きようとしているか確認するだけだよ。聞いた上で、自分の考えを決めて、リーヴァ様と話そうと思う。」

「ロシェル、しかし····。」

「それがいいと思うわ。それなら早速、今からルネア王女に会いましょう。アーレン達が戻って来たら止められるだけ。ロシェル様自身がルネア王女側と話す機会は無くなるでしょう。 」


そう言ってマリアは立ち上がり、ロシェルについてくるように促す。


「モランはグレイスについていて。グレイスを害そうとする者が居るかもしれない。グレイスを守って欲しい。」

「私はロシェルの護衛でもある。」

「僕は自分の身は守れるよ。心配しないで。」

「大丈夫よ。ルネア王女と会う時は、私も同席しますし、こちらの護衛騎士を数人ロシェル様に付けますから。」

「しかし·····。」


尚もモランは止めようとする。


「ルネア王女との会合は私の王妃宮でします。アーレン達が戻り次第あなたも来なさい。他の侍従に話しておきますから。」


マリアはモランを安心させるように言う。


「僕も本当は片時もグレイスと離れたくないんだ。だから、直ぐ戻るよ。約束する。王妃様の言われるように、後から王妃宮に迎えに来て。」


そう言ってロシェルはモランの制止を受け入れることなく、マリアと共にルネア王女に会うべく、王妃宮へ向かったのだった。

数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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