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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
76/93

76 もう一つの人生 ①

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

また誤字報告有難うございます。

これからも宜しくお願いします。


作中の『 』の言葉は、主に古語で話している設定です。

しっとりとした美しい黒髪を後ろでまとめ、正装に身を包んだ気品ある装いの女性。

前王妃カリファがそこにいた。


「カリファ様······。」


「今日はおめでとう。早くエリオットにもその姿を見せてあげて。」


そう言って満足そうに微笑むカリファ。

見るとグレイスは婚礼衣装に身を包んでいた。


これは·····。

それにどうして亡くなったカリファ様がここに?

ああ、そうか·····これはあの魔族の魔法。

精神攻撃の使い手と聞いていたけれど、これほどまでに現実のように感じるとは····。


よく見るとカリファの背後に控える侍従の中に、先程まで対峙していた魔族の女がいる。

その女と目が合うと、頭の中に声が聞こえてきた。


『あなた後悔していることがあるんでしょう?心を覗いたら靄がかかっていたわ。あなたが本気になれば私の精神魔法なんて直ぐに破れる。だからあなたが選ばなかったもう一つの人生をここで体験してみてはどう?』


もう一つの人生·····。


本来なら拒絶する魔族の提案に、グレイスは心を揺さぶられた。

魔族は笑みを深める。


『嫌になったら、直ぐに魔法を破って、この世界から出ていけばいいのよ。』


魔族は尚も囁く。

そして魔族はグレイスにそう言い残すと、姿を消した。



「グレイス。」


この声は·····。

振り向くとそこには、同じく婚礼衣装に身を包んだエリオットが立っていた。


「エリオット様·····。」

「グレイス、待ちきれずに迎えに来たよ。」


そう言うと、エリオットはいつになく優しい笑みを浮かべながらグレイスを見つめる。


「美しい·····グレイス、本当に美しいよ。さあ行こう。早く私達が夫婦になったことを宣誓しなければ。」


「まあ、こんなに浮かれたエリオットを見たのは、グレイスがあなたの婚約者に正式に決まった時以来ね。·····グレイス、あなたも知っての通り、このフェアノーレ王国には、本来ルダリスタン帝国からの監視役でもあるタンドゥーラ家とは婚姻を結ばないという、暗黙の決まりがあるの。それを破ってまで、無理矢理あなたとエリオットの婚姻を望んだのは、エリオットにとって強力な後ろ楯が必要だからという訳ではなく、単にエリオットがあなたを心から愛しているから、それを叶えてあげたいという、単なる親心なの。エリオットはあなたを大切にするわ。だからどうか幸せになってね。」


「王妃様·····。」


何時にない優しい表情で、想いのこもった言葉をかけるカリファに、グレイスは心を打たれる。


私が予定通りエリオット様の妃になっていたら、私の大切な人達は亡くならず、幸せになっていたのだろうか?


知りたい······。


「さぁ行こう、グレイス。」


エリオットはグレイスに手を差し出す。



グレイスはその手を取った。



国内外の多くの要人が集まる中、厳かに結婚式が行われた。

参列者の中にはアーレンや、その横に並び立つ婚約者のソフィアの姿があった。

その後ろにはアーレンの護衛騎士であるダリウスの姿も見える。


マリア様の姿はない。

学園で出会っていないのかしら?

それとも今からアーレンの婚約破棄騒動があるのかしら?


現実とは違う、本来そうなるはずだった光景に、グレイスは逆に違和感を感じていた。



その後、城のバルコニーに出ると、眼下の広場には多くの国民が集まっており、グレイス達の姿を見とめると、大きな祝福の歓声が王都に響き渡った。


「グレイス、愛している。これから私と共に、このフェアノーレ王国を支えて欲しい。」


エリオットの言葉を受け、グレイスは再び集まった国民に目を向ける。

澄み渡った空には、平和の象徴である白い鳩が放たれ、歓声と共に花吹雪が舞っていた。

そして国民は皆笑顔で、2人の婚礼を祝ってくれている。


これが本来私が見るはずだった景色·····。


今のグレイスには眩しすぎる光景だった。



◇◇◇



グレイス達を拘束していた魔法陣が消えると、グレイスの身体から一気に力が抜け、その場に倒れ込んだ。

グレイスは意識を失っていた。


「「グレイス様!」」


魔法陣が消えると同時に侍女と騎士の拘束も解けた。

王宮の侍女は直ぐ様グレイスに駆け寄り、騎士はグレイスを守るため、魔族に立ちはだかる。


「あら、あなた達は意識を失わなかったの?あー、そうか、あの瞬間、あなた達に防御魔法をかけたのね。凄いわ。でも残念ね、一番大事な自分には間に合わなかったみたいね。愚かな女。まず自分から魔法をかけないと。」


魔族の女はケタケタと可笑しそうに笑う。

そうしてグレイス達に再び魔法を発するべく、魔族の女は手をかざした。


その時、突然魔族の女足元が激しく燃え上がった。

驚いた魔族の女が後ろに後退した所で、炎は跡形もなく消えた。


『嫌な気配がしたから、急いで来たら、なんだお前か。魔王と一緒に死んだんじゃなかったのかよ。』


「ナルージア様!」


そこに現れたのは、リーヴァの指示でルノール王国に行っているはずのナルージアだった。


「ナルージア様、お助け下さい。グレイス様が意識を失っておられます。私達を先に庇われたせいで·····。」


侍女と騎士は、ナルージアが現れた事に安堵し、現状を報告する。


「グレイス·····攻撃ヲ受ケルナンテ珍シイネ。ドイナーハ居ナカッタノカ。ソレジャア、アンタハ急イデ、ロシェルヲ呼ンデ来テ。」


ナルージアは騎士に指示を出すと、魔族の女に対峙する。


『何の魔法を使ったんだ?早く解除しないと直ぐに殺すよ。』

『相変わらず、人間の言葉が下手くそですね、ナルージア。心配しないで下さい。大した魔法ではありませんから。これだけの魔力をお持ちの方なら、その気になれば、直ぐに意識を取り戻しますよ。ただ本人に目覚める意志がない場合は、例え術者である私を殺しても起きないですけど。』


『ふぅん······。誰の差し金?』

『一応秘密にと言われていますから。』

『魔族のクセに約束守るんだ。』

『私は元々争いが面倒臭いのですよ。ただ今回は、今目覚めている魔族が少ない分、目立ちますし、人間は直ぐに殺そうとしてきますからね。全員殺してもいいんですけどそれも面倒臭いので、ちょっと役に立ちそうな人間に寄生したんです。そういうあなたも人間と随分仲良くしているようですね。驚きました。あなた人間嫌いだったでしょう?見つけたら手当たり次第殺す位には。どういう心境の変化ですか?』


『·····まぁ、運命の出会いかな?』

『はは、魔族が嘘つきなのを久しぶりに思い出しました。それで、彼女が運命の(ひと)なのですか?』

『そうそう、だから彼女を傷つけるお前を殺す理由は十分にある。取りあえず拘束するから。ああ、俺にはお前の精神魔法の攻撃は効かないって知ってるよね?』


魔族の女が応える間も無く、ナルージアの指先から黒い蔦のような物が現れ、直ぐに魔族の女を捕らえた。


『分かってるよ。お前の目的はグレイスを攻撃するだけじゃないだろう?どうせルノールの王女辺りが後ろにいて、ロシェルに魅了の魔法でもかけるよう言われて来たんだろ?魔族を使うなんて、いい度胸してるね、あの王女。まぁその事を公の場で話させるから、ちゃんと説明宜しくね。』

『······。』


『ああ、魔法を発動しようものなら、直ぐにその蔦がお前を締め上げて·····そうだな、頭と胴体が分裂するくらいに締め付けるから。』


ナルージアはそう言うと楽しそうににやける。


『相変わらず魔法の発動が早いですね。何故あなたは人間側に?見る限り人間にも信頼されているようですね。本当にあなたらしくない。』

『俺らしいって何?俺はその時の気分次第で生きてるだけ。グレイスにこれ以上触るなよ。直ぐ殺すから。』


魔族の女を拘束してまま、ナルージアはグレイスを抱き起こしている侍女の元へ行くと、そのままグレイスの身体を抱き抱えた。


『グレイス、油断したね。グレイスからのご褒美楽しみにして来たんだから、早く目覚めなよ。』


そう言ってナルージアはグレイスの額に口付けを落とす。


『·····女に溺れると魔王様の様になりますよ、ナルージア。』

『ハハハ、あんなバカ聖女と一緒にするなよ。魔王も趣味悪いよな。あんな女、グレイスの足元にも及ばない。グレイスは極上だ。だから分かったな?グレイスが意識を戻さなかったら、お前、普通の死に方が出来ると思うなよ。』

『ぐがぁっ。』


そう言ってナルージアは魔族の女を締め上げ、魔族の女の苦しむ声が通路に響き渡った。




数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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