56 ルノール王国へ
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「ルノール王国が滅亡の危機に?」
魔族討伐の召集がかかり訪れた帝都で、ルノール王国の使者から知らされた情報は衝撃的なものだった。
ルノール王国はフェアノーレ王国と、ダリウスが古竜を倒したエルディア王国に挟まれた国だ。
「約1ヶ月前でしょうか。辺境伯領に突如として多数の魔族が現れ、そこから王都に向かい、辺境伯領、3つの伯爵領があっという間に占領されていきました。労働力として生かされている人間以外は、ほとんどが殺され、特に魔力が強い貴族は喰われたと報告を受けております。」
「して、魔族は何体現れたのか?」
「はい、約50体ほど·····。」
「 50体だと?!」
ルノール王国の使者はそう言うと、言葉を詰まらせた。
見れば顔色も悪い。
「御前、失礼します。」
謁見の間で、立ち並び、控えていたグレイスは、使者の元へ行き、自身の魔力を使者の体内に流し、回復させる。
「あ、有難うございます。」
「こちらに来るまでに、魔力を相当使われたのでしょう?魔力枯渇に陥っていましたよ。」
「申し訳ありません。魔族に見付からない様に、認識阻害の魔法を掛けながら参った次第です。」
使者は大きく息を吐き、呼吸を整え、言葉を続けた。
「魔族の侵攻は王都に迫っております。どうか急ぎ援軍をお送り下さいますよう、お願い申し上げます。」
使者は深々と頭を下げた。
「しかし、50体か·····。魔族は単独行動を好むのではなかったのか?ヴァーバル公爵、そなたの囲っている魔族に話をさせよ。」
「承知しました、皇帝陛下。ナルージア、質問に答えなさい。50体が纏まって行動しているという事は、1つの組織と考えていいのかしら?」
謁見の間に入ることを許されたナルージアが、皆の1歩前に出て、グレイスの質問に答える。
魔族特有の角は魔法で隠しているので、赤い瞳と独特の雰囲気を持っているだけで、さして人間と変わらない姿をしているナルージアに、皆、魔族だという事が信じられないといった眼差しを向けている。
「魔族を囲っている······。」
ルノールの使者も魔族と聞いて、驚きの表情を見せる。
「基本的ニ、戦ウナリシテ、自分ヨリ強イ者ニシカ付キ従ワナイ。強イ奴ガ統率シテルンダロ。ソレデモ途中デ逃ゲ出サズ、共ニ行動シテイルナラ、俺トグレイスミタイナ関係ナンジャナイ?」
「グレイスとナルージアと同じ関係とは?」
話を聞いていた、皇太子であるリーヴァが少し不機嫌になりながらナルージアに問い掛ける。
「ククク····ホラ、俺トグレイスハ一心同体。血の契約デ深ク結ビツイテイル。」
「血の契約·····。」
「ソウソウ。死ヌ時ハ一緒ッテヤツ。契約者ガ死ネバ、自分モ道連レデ死ヌカラ、守ルタメニ、行動ヲ共ニシテルンジャナイ?昔ノ魔王ガソウヤッテ魔族ヲ従ワセテイタカラサ。」
「魔王·····。」
魔王という言葉に、謁見の間の空気は重くなる。
「血の契約で繋がっているなら、契約主を殺せば、他の魔族も倒せると?」
「ソウソウ。血ノ契約ッテヤバイヨネ。」
そう言ってナルージアはケラケラ笑った。
「魔族は滅んだとされているのに、何故こんなに眠っているのでしょうか?」
「魔王は死んでおらず、甦ったのではないでしょうか?」
「そもそも眠っている魔族を起こしているのは、何者なのでしょうか?」
謁見の間にいる貴族から、次々と質問が上がる。
「今カラ行クンダロウ?見レバ分カルンジャナイ?ゴチャゴチャ言ッテモ倒スシカナイデショ?」
「情報が少ない分、全て憶測でしか話せない。戦い方に特徴はあるのか?」
「特徴と申しますか、領地を占領した後は、その土地に魔族を1人残し他は共に移動している模様です。」
「取りあえず、奪われた領地を一つ一つ取り戻していくか·····。」
「そうですね。背後から襲われたらたまりませんから。」
「我がルダリスタンと何処に応援要請をしている?」
「フェアノーレ王国とエルディア王国です。」
「まぁ、我が国程の戦力は期待出来ないか·····。という事だ、ヴァーバル公爵。今回もそなたに討伐隊の総指揮を任せよう。」
「承知しました。」
グレイスは皇帝に深々と頭を下げる。
「ヴァーバル公爵、生きて帰れよ。」
皇帝陛下の言葉に同調するように、リーヴァも深く頷いていた。
皇帝陛下には、リーヴァからフェアノーレ王国の第1王子であるエリオットと聖女の脱走と、その後行方不明である事は伝えられていた。
そして、魔族であるナルージアを起こした魔力がエリオットのものと酷似していたことも報告している。
今回のこの討伐が、グレイスにとって、特別なものとなる事が予想出来た。
◇◇◇
討伐隊がルダリスタン帝国を出発して2週間後、途中転移魔法陣を使って漸くルノール王国へ入った。
使者の情報通り、フェアノーレ王国に隣接する辺境伯領は荒廃していたが、先にルノール王国入りしているフェアノーレ王国討伐隊が残っていた魔族を討伐していたらしく、安全に通過する事が出来た。
こうしてルノール王国に来て20日後、王都直前の侯爵領にたどり着いた。
侯爵領には先に入国していたフェアノーレ王国討伐隊が進駐していた。
フェアノーレ王国討伐隊の指揮官はワルス·フィールド侯爵率いる第3騎士団と、指揮官補佐として第2騎士団副団長のウォーレン·ロドリス率いる第2騎士団の半数、そして勇者ダリウス·ノーラだった。
漆黒の騎士服に身を包んだルダリスタン帝国の討伐隊を見たフェアノーレ王国の者達は、その得も言われぬ気配に圧倒されていた。
「お待ちしておりました、ヴァーバル公爵。」
笑顔で迎えてくれたのは、ウォーレン·ロドリス卿だった。
「先日お帰りになられたばかりの様な気がします。」
そう言って、グレイス達を、戦略会議が行われている天幕へ案内してくれた。
中にはフェアノーレ王国討伐隊総指揮のワルス·フィールド、魔導師団団長ルドルフ·ストーンズ、そしてダリウスの姿があった。
「ああ、よくお出で下さいました、ヴァーバル公爵。」
グレイスがアーレンの側妃だった頃からよく知っている面々に、グレイスも笑みを見せる。
グレイスに続き、ロシェルやドイナーも姿を見せると、ダリウスだけは気まずい様で、目をそらした。
「こちらまで来る途中寄りました各領地の、魔族討伐お見事です。」
「いや、下級ばかりでしたから、何とか対応出来たが、問題はこの先だ。」
フィールド卿は眉間に皺を寄せながら、目の前に置かれた、ルノール王国の地図に目をやる。
「何か情報は?」
「王都の手前に草原があり、その近くの丘の上にある古城に集まっているようです。探知魔法で確認しました。この古城は、ルノール王家が開国した時の居城です。年に一度は使われているそうなので、城壁も変わらず堅牢だそうです。潜伏されるとなると、少々厄介かと。何とか草原に誘き寄せ、そこでの戦闘が望ましいと存じます。」
魔導師のルドルフが代わりに答えた。
「まだ王都を攻めていないのならば、いつからそこに?」
「一週間ほど前からです。」
「王都はどうなっているのでしょうか?」
「何とか防御魔法を張って耐えているようです。ただいつまで持ちこたえられるか·····。」
「50体一気に相手となると難しいな。分散させようにもこちらの思惑通りいくかどうか。」
「まず、相手の戦力を確認したい所です。魔導師数人で認識阻害の魔法をかけながら、古城に近づき、探知の魔法で確認してみましょう。」
ルドルフが提案する。
「では私が参りましょう。ここから古城まではどの位の距離なのですか?」
「馬で半日ほどです。」
「分かりました。ナルージア、ドイナー、馬の用意を····」
そうグレイスが答えた時だった。
「報告します!只今不審者を捕らえたという報告がありました!」
突然、騎士が天幕に駆け込み報告する。
「不審者とは?人間なら生存者だろう。保護せねばならない。」
「それが、どうやら脱走し、行方不明になっていた聖騎士のマルス·スタードのようです。」
「何だと?」
「マルス·スタードで間違いないのか?」
「はっ、現在、拘束しております。マルス·スタードを名乗る男は、魔族討伐に際して、お伝えしたいことがあると申しております。」
「ノーラ卿、あなたは脱走した聖女達の捜索を行っていたはず。どう思われますか?」
グレイスはダリウスに問い掛ける。
「馬車を走らせた痕跡が残っていたが、それも途中で消されていた。おそらく脱走時に、腕の良い魔導師を雇っていたのだろう。マルス·スタードなら、取りあえず会ってみたいのだが。」
「魔族が擬態している可能性もあるのでは?」
スルーガ卿が懸念を示す。
「ナルージア、あなたは魔族かどうか分かるのかしら?」
「分カルヨ、多分。」
「では天幕の外の広い場所で会いましょう。魔族だった場合を考えて、ロシェルは離れた位置で。ドイナーとモランは周りを警戒し、ロシェルを護衛して。ナルージアは私と共に参りましょう。直接マルス·スタードに会います。宜しいですね、ノーラ卿?」
「ああ、分かった。」
「ルドルフ様は周囲を探知願います。」
「承知しました。」
こうしてグレイス達は突然現れたマルス·スタードに会うことになった。
◇
マルス·スタードは、後ろ手に拘束され、項垂れた状態で跪いていた。
グレイス達が姿を現すと、小さく震えだしたのが分かった。
「顔を上げろ。」
フィールド卿がそう言うと、マルス·スタードはゆっくりと顔を上げた。
思ったほど窶れてはいないが、顔色は悪く、表情は憔悴していた。
「脱走するとは、騎士の風上にも置けないやつだな。貴様には聞きたいことが山のようにある。先ず、聖女は共に行動しているのか?」
「·····はい。共に連れ去られました。」
「連れ去られただと?誰に?」
「·····そのお方から手紙を預かっています。ご確認を。先程の身体検査で持っていかれたものです。」
「ヴァーバル公爵、こちらです。」
そう言って騎士が1通の手紙を差し出す。
手紙には封蝋がしてあり、その封蝋印を見たグレイスの顔色が変わる。
「ヴァーバル公爵?」
封筒を見詰めたまま、動かなくなったグレイスを心配し、フィールド卿が声をかける。
グレイスは1つ息を吐き、動揺を隠すように呼吸を整える。
「······この封蝋印の紋章は、エリオット第1王子殿下のものだわ。」
「何ですと?」
その場の空気に、緊張が走る。
「公爵様、申し訳ありません!」
マルスはそう言うと、勢い良く平伏した。
何が申し訳ないのか、と思った瞬間だった。
手紙の封蝋印が激しく発光し、そこから魔法陣が広がり、グレイスを拘束した。
「グレイス!」
皆が魔法陣からグレイスを引き剥がそうと手を伸ばすより先に、グレイスの身体は魔法陣に吸い込まれるようにして消えた。
「グレイスー!!」
ロシェルの絶叫が、虚しく辺りに響き渡った。
◇◇◇
ロシェルのグレイスを呼ぶ声を、どこか遠くで聞きながら、グレイスは身に感じる圧迫感に耐えていた。
ふと力が緩み、冷たい空気を感じた所で、グレイスは発光した瞬間閉じていた目を漸く開いた。
何が起こったかは想像出来る。
あの魔法陣によって転移させられたのだ。
強い発光の影響でぼやける目を細目ながら、状況を確認する。
どうやら、どこか建物の広間の様な所に居るようだ。
恐らくここは、魔族が集結し、潜伏しているルノールの古城。
魔法で転移させたのは手紙の送り主。
エリオット王子殿下だ。
グレイスは、はっきりしてきた視界で、正面の玉座に座る人物に目をやる。
黒髪で碧眼の持ち主。
アーレンとは異なる切れ長の目。
そして口元は妖艶な笑みを浮かべている。
ああ、懐かしい·····。
その人は、頬杖をついていた手を解き立ち上がり、こちらに歩いてきた。
静かな部屋に、コツコツとその靴音だけが響き渡る。
そしてグレイスの正面で立ち止まり、優しい微笑みを浮かべた。
「やぁ、グレイス、久しぶりだね。会いたかったよ。」
「·····エリオット様。」
エリオットはゆっくり近づきグレイスを抱き締めた。
「私のグレイス·····もう離さないよ。」
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。