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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
51/93

51 ある悲しい物語

不定期投稿です。

宜しくお願いします。


所用により、投稿遅くなりました。

お待ち下さっている皆様申し訳ありませんでした。

「キレイな魂をしている女の子ですね。」


ある日の王宮の庭園で催されているお茶の席で、フェアノーレの第1王子のエリオットは招待客として訪れていたタンドゥーラ公爵夫人に、そう声をかけた。

幼い王子の突然の言葉に、その場に共にいた王妃カリファと王姉のアリエスタは目を丸くする。


「まぁ、エリオット王子殿下は、私のお腹の子の事をおっしゃっておられますの?」


言われたタンドゥーラ公爵夫人も驚いて王子に尋ねる。


「そう言えば、夫人は最近体調を壊されていたと聞いていましたけれど、夫人は妊娠していらっしゃるの?」


アリエスタは、頷く王子を見て夫人に尋ねる。


「ええ、今日はそのご報告もありましたのよ。でも性別はまだ分からないのですが、殿下はお分かりになりますの?」


夫人は驚きながらも、にこやかにエリオットに問い掛ける。


「はい。女の子です。ですから、生まれたら私の妃にして下さい。」

「エリオット、気が早いですよ。妃はそう簡単には決められないわ。ごめんなさいねメーリーン。まだ幼いから、理解が及ばない事を話してしまって。」

「まだ幼い王子が、タンドゥーラ家と王家の事情を知っているはずがありませんわ。ですが殿下は凄いですね。大人でも他人の魔力が見えない者が多いというのに。将来が楽しみですわ。」



タンドゥーラ公爵家は元々ルダリスタン帝国で公爵位を持つ大貴族である。

その昔フェアノーレはまだ独立した王国ではなく、幾つかある領地の連合国だった。

そんな中始まった領地合戦で、フェアノーレの後ろ楯となったのがルダリスタン帝国のタンドゥーラ公爵家だった。

タンドゥーラ公爵家の多大な援助により、フェアノーレは勝利を収め、独立国となった。

そしてタンドゥーラ公爵家は、不安定な国内事情を抱えるフェアノーレを継続的に支援する為、フェアノーレでの王家に継ぐ立場を持つことになった。

ルダリスタン帝国の皇帝は、タンドゥーラ公爵家を通じ、フェアノーレ王国を帝国の属国とし、万が一、フェアノーレの王家が立ち行かなくなった場合は、タンドゥーラ公爵家が国王代理となる事を認めさせた。

その代わり、通常政治に関しては一切口を出さない事を決めた。

それは政治的言動を有する『妃』という立場も同様で、今までタンドゥーラ公爵家が王家に嫁ぐ事はなかった。



お茶会から約5ヶ月後、タンドゥーラ公爵夫人はエリオットのいう通り、女の子を出産した。

それでも確率は半々。

それ故、その時は本当に王子が言い当てたとは誰も思わなかった。


それから更に時は過ぎ、10歳になったエリオットの婚約者の選定が行われる事になった。

年頃の娘を持つ多くの貴族が手を挙げる中、エリオットはまだ5歳になったばかりのグレイスを妃にと強く望んだ。

そこで、国王と王妃は王家とタンドゥーラ公爵家の関係をエリオットに説明する。

しかしエリオットは、今まで避けてきただけで出来ない筈はないと食い下がった。

エリオットのあまりの熱量に、仕方なくグレイスを何人かの婚約者候補の一人として名前だけ連ねることにした。


それから数年後、エリオットの5歳年下で、グレイスと同じ歳のアーレン第2王子の遊び相手として、グレイスも他の同じ歳の貴族令息令嬢と共に王宮に上がることになった。

その頃にはエリオットに隣国との王女との縁談話が持ち上がっていた。

その事に不満があったのか、エリオットは度々アーレンと貴族子女の集まりに顔を出す様になり、そこで執拗にグレイスの相手をするようになった。

グレイスも始めは何かと気遣ってくれるエリオットに好意を寄せ遊んでいたが、エリオットから危険な遊びを強要されるようになり、徐々にエリオットに恐怖を覚えるようになってしまった。

1歩間違えれば大怪我に繋がりそうなエリオットの遊びについて、侍従や騎士から報告を受けた王妃は、エリオットを呼び出しその事を問いただした。

するとエリオットは、王妃に、グレイスにわざと怪我を負わせ、その責任を取る形で妃に迎えるつもりだったと打ち明けた。

エリオットのグレイスに対する執拗な愛情に恐怖を覚えつつも、グレイスがエリオットの精神的な安定へ繋がると判断した王妃は、国王にグレイスをエリオットの正式な婚約者に内定する事を進言し、タンドゥーラ家にもその旨が伝えられた。


こうしてエリオット13歳、グレイス8歳で婚約が結ばれた。

するとエリオットの狂気的な性格は成りを潜め、周囲からは理想の王太子と呼ばれる様になっていった。


こうしてタンドゥーラ公爵家がエリオットの後ろ楯になった事は、王妃カリファにとって、この上ない喜びとなり、次期国王の時代は安泰かに思われた。


しかし、カリファには1つ気掛かりな事があった。

それは側妃ユリエナの存在である。


王妃カリファは厳しい人で有名だった。

自身だけでなく、周り全てに完璧を求めていた。

その為、侍従や護衛騎士の交代も珍しくなかった。

その為王妃宮は常に緊張感に包まれていた。

一方、アーレン第2王子を産んだ側妃ユリエナは、カリファの元で辞めさせられた侍女達を、自身の宮で雇い入れ、自身の寛容さを周りに誇張していた。

カリファに辞めさせられた者達はユリエナに感謝し、ユリエナこそ王妃に相応しいのではと噂を広め出す。

ユリエナは本気で王妃になりたい訳ではなかったが、その噂が立つ事を喜んでいた。

更にユリエナが産んだ第2王子のアーレンは、国王によく似た金髪碧眼で、顔立ちも王子然とした美しさを持ち、尚且つ母親似の人なつっこい性格だった為、人気があり、皆から好かれる存在だった。

一方、王太子のエリオットは碧眼であったが、母親似の黒髪。顔立ちは整っていたが、目つきがきつかった。

性格はカリファの元で育ったせいか、母親と同じように自分にも他人にも厳しい人だった。


『アーレン王子こそ王太子に相応しいのではないか。』


ユリエナの催す茶会で、何気に誰かがそう言った。

その言葉をユリエナは特に訂正することなく、親心からかとても喜び、その話で茶会は盛り上がった。

しかし、それが王妃カリファの耳に入ってしまい、プライドの高い王妃カリファの怒りを買うことになる。

その茶会に参加し、アーレンの王太子擁立に肯定的だった貴族があぶり出され、カリファから何かしら制裁を受けることになった。

この事が決定的となり、次第に貴族は王妃カリファ派と側妃ユリエナ派で分かれることになった。


暫く互いを牽制し合う状態が続いていたが、更に関係を悪化させる事態が起きてしまう。


それは側妃ユリエナが、グレイスに目を付けた事である。


タンドゥーラ公爵家がエリオットの後ろ楯になっていた為、目をつけられる事を嫌がる高位貴族は、ほとんどユリエナの催す会に参加する事はなかった。

今までさほど気にしていないユリエナだったが、自身の周りが、中、下位貴族で構成されている事に不満を持ち始めた。

そこでユリエナは、元々エリオットの宮にいた侍従から、婚約を結ぶ前のエリオットのグレイスに対する奇行を聞き、その情報を社交界に流した。

するとグレイスに対する同情の声が上がり始め、婚約を解消した方がいい、その様な性格のエリオットが王太子として本当に相応しいのかと言う意見が、水面下で広がり始めた。

ユリエナは噂が広まることで、高位貴族が自分に目を向けてくれればそれでいいと思っていた。

そして、国王もタンドゥーラ家もその噂が広まっているのを知っていたが、表で騒ぎ立てている訳ではなかったので、放置していた。

しかし、王妃カリファにとってそれは許しがたい事だった。


グレイスをユリエナにとられたくなかったカリファは、国王にアーレンの婚約者を早々に決めるよう進言する。

そして宰相であるスタンダール侯爵家のソフィアが選ばれた。

第2王子に相応しい婚約者として、周りからは好意的に受け止められていた。

しかし、ソフィアがアーレンの婚約者に決まったにも関わらず、ユリエナのグレイスへのアプローチは変わらず続いていた。


そんなある日、ユリエナがグレイスをお茶会に誘ったという報告がカリファの元に届く。

はじめはアーレンの遊び相手として呼ばれていた時期もあった為、グレイスにとってユリエナは知らない間柄ではない。

何より賢いグレイスは、カリファとユリエナの関係を知っている分、エリオットの婚約者だと、自身の立場を(わきま)えた行動をする。

その点に関しては安心していた。

しかしユリエナは、いつしか頻繁にお茶に誘う様になり、ユリエナの侍女達は、ユリエナこそグレイスの理解者だと周りに吹聴する様になった。


度重なる神経を逆撫でするユリエナの行為に、カリファも我慢の限界を越えたのだろう。

とうとうユリエナに手を下した。


ユリエナが毒に倒れたのは、王都郊外で執り行われる、狩猟大会に出席している最中だった。

目眩がするとテントに横になりに行ったまま、意識を失い亡くなった。

病死とも取れる状態だったが、国王は調査をするように命じた。


そしてそれから1ヶ月後、ユリエナの死は王妃カリファの手によるものだと判明した。


その事実を突き止めたのはグレイスだった。


グレイスは、先ずそれをエリオットに報告した。

しかも使われた毒はかつてエリオットが入手したものであり、エリオットも罪を免れない状態だった。


グレイスはエリオット自身に、母親であるカリファの犯行だという事実を国王に報告させる事により、エリオットの処刑を回避しようとした。

結局グレイスの説得に応じ、エリオットはそれを国王に報告した。

罪が明るみに出たカリファは処刑を言い渡される前に自殺。

そして使われた毒を入手していたエリオットも本来処刑される所だが、カリファの犯行だと国王に報告した事を考慮され減刑。

幽閉を言い渡された。


それと同時にグレイスとの婚約も解消された。


エリオットにとって王太子の地位を失う事よりも、グレイスとの婚約を解消される事の方が辛い事だったのだろう。


正式に刑が言い渡される前。

グレイスとの最期の面会で、エリオットはグレイスを拐い姿を消した。



王都郊外にある、今は使われていない崩れかけの見張り台の塔。

その最上部にエリオットとグレイスはいた。

月明かりに照らされ、白く浮かび上がる互いの姿を見つめ合いながら、2人は向かい合って立っていた。


「グレイス、君の言う通りにして私は生き残った。生き残ったが、君との婚約は解消され、私は塔へ幽閉される事になった。私はそこで一生過ごすことになる。果たしてそれは生きている価値があるのだろうか?」


「恩赦があるかもしれません。どうか希望をお捨てにならずに。」


「仮に恩赦があったとして、塔から出てきても、君は居ないんだろう?分かっているよ、貴族令嬢は家の駒の1つ。結婚は君の意志とは関係なく決められるだろう。塔から出て来れたとして、君が誰かの妻になっている姿なんて見ていられない。だからお願いだグレイス、私と一緒に逝ってくれ。」


いつも無表情で、相手の能力を伺う様な厳しい目つきのエリオットは、今グレイスの目の前で苦しげに微笑んでいた。

そしてグレイスの背に、何か固いものが当てられているのを感じる。


これは·····刃物。


エリオットはグレイスの背に刃物を突き立てていた。

恐らく本当にグレイスを刺し、共に逝くつもりなのだろう。


「·····はい。」


グレイスは微笑みながら小さく頷く。

そして背の高いエリオットの胸に収まるように強く抱きついた。


淑女教育とは正反対の大胆な行動に、エリオットは一瞬目を見開くも、とても嬉しそうに微笑んだ。


「ああグレイス·····。」


グレイスの温もりを感じるように、エリオットもグレイスを抱き締める。



「エリオット様!グレイス様!」


エリオットを追って来たのだろう。

階下から騎士や魔導師達を引き連れ、ダリウスが現れる。


「エリオット様お止め下さい!」


抱き締め合っているものの、グレイスの背に刃物を突き立てているエリオットに向かってダリウスは叫ぶ。


その声を聞き、エリオットは表情を変える。


「またあいつか·····。」


忌々しいといった表情でダリウスを睨むエリオットが、魔法を展開し攻撃しようと片手を上げる。

それに気づいたグレイスは優しくその手を引き留め、ダリウスに向かって小さく首を横に振り微笑む。


エリオットと共に逝こうとするグレイスに、ダリウス他皆が絶望の表情を見せる。


「グレイス·····。」


素直に死を受け入れるグレイスをエリオットは見下ろし、片手をグレイスの顎に添え、エリオットの方に顔を向けさせる。


「エリオット様·····。」


まだ13歳になったばかりのグレイス。

幼さの残るその顔を見つめる。

そして身を屈め、グレイスに軽く口付けをした。


目を見開くグレイス。


その後暫く自身をグレイスの記憶に刻むように強く抱き締めたエリオットは、ゆっくりグレイスを離す。

そして力の抜けたグレイスを抱きとめる。


「まだ、何も始まっていないのに死ねないね。グレイス·····君の始めての口付けは私がもらった。私を忘れないで欲しい。」


エリオットはグレイスにそう囁くと静かに床に座らせた。

そして1歩下がり両手を上げ、無抵抗を示す。


その瞬間、魔導師が拘束の魔法を展開し、エリオットを捕縛した。


「エリオット様·····。」


茫然とするグレイス。

グレイスに駆け寄るダリウス達。


「さようなら、グレイス。」


エリオットはそう言って微笑んだ。



一時グレイスを拐ったエリオットだったが、無抵抗だった事もあり、そのまま王城内にある幽閉塔へ収監された。






数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします

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