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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
49/93

49 聖女の脱走

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

感想を下さり、有難うございます。とても励みになります。

フィーネ達は公開処刑ではなく、関係者以外は立ち入りを禁じている処刑場で行うことになった。


その日の朝、処刑場に向かい、その控え室で処刑人が着る黒装束に袖を通す。

そして通常ならば、死神となる為の仮面を被る。

しかし今回この仮面を被るか迷っている。

被れば誰だか分からない。

フィーネも俺に処刑されているとは分からないだろう。

しかしこの俺自身から処刑されるという事実が、彼女の罰でもある。

泣き叫ぶフィーネを前にして、俺は刑を執行出来るのだろうか?

グレイスはそれを試しているのかもしれない。

アーレン様からは、仮面を被るなとは言われていない。

しかしそのフィーネの恐怖の感情を受けとめるのは、俺への罰になる。


残酷だな·····。


どうしてこうなる前に対処出来なかったのか?

フィーネを選んだ時点で間違いの始まりだったのだろうか?

今更ながらに悔やまれる。


結局俺は仮面を外し、処刑台に向かった。


アーレン様やグレイスは、この処刑台を取り囲む塀のような建物のどこからか見ているはずだ。

俺は目を閉じ、静かにフィーネ達の到着を待つ。



しかし、時間になってもフィーネ達は現れなかった。

周りにいる者達がざわつき始める。

やがて守衛の1人が、慌てた様子で駆け込んできた。


「罪人聖女フィーネ含め、本日処刑予定3名が牢から逃げ出した模様!未だ捕まっていません。よって本日の処刑は中止となります!」


何だって?逃げ出した?

逃亡したのか?


あまりの事に、一瞬言葉が出なかった。

しかし直ぐに気を取り直し、守衛と共に牢へ向かう。



牢は、3人が入れられていた場所には誰もいなかった。

ガランとした空気に、看守と揉み合った跡もなく、また牢をどちら側からも、こじ開けたような痕跡もない。

まるで魔法で3人を消し去ったかの様だった。

しかし牢獄では魔法が使えない様、建物自体に魔法陣が敷かれている。

だから魔法を使っての脱獄はあり得ない。


「鍵はどうしていた?」

「看守が持っていました。最期の祈りを捧げる為、神官と看守3名、騎士6名で来たところ、既にもぬけの殻だったそうです。最後に見たのは朝、水を与えた時だそうです。」


処刑直前は食べ物を与えない。

朝食時水だけが与えられる。

それで通常は、その日自分が処刑されることを知る。


「その後接触した者が必ずいるはずだ。それに3人逃亡させるとなるとそれなりに人手がいる。まだそれほど遠くに行っていないはずだ。馬車を使っている者を中心に捜索しろ!」

「承知しました。」


今日、フィーネが処刑されることは、王都の貴族ならばほとんどが知っている。

神殿は手を貸さないだろう。

フェアノーレ王国の神殿を統括していた神官長が罰を受け処刑されるのは、神殿側からすれば、この上ないほど不名誉な事で、国民に対しても、その信頼性を損なうものだ。

これ以上罪を重ねることはしないだろう。

いったい誰が手を貸したのか?

聖騎士のマルス·スタードの実家の伯爵家は、フィーネ擁護派ではあるものの、タンドゥーラ公爵家と事を構えたくないからか、その行動は控え目だ。

脱走の手助けなど考えにくい。


「ノーラ卿、国王陛下がお呼びです。」

「陛下が?承知した、参ろう。」


アーレン様からの呼び出し······。

一番疑わしく思われているのは俺だろうな。


◇◇◇


「フィーネが脱走した?」


グレイス達は処刑場へ向かう途中、フェアノーレの騎士からそう報告を受けた。


「その件でお話があるとの事で、国王陛下がヴァーバル公爵様をお呼びです。」

「分かったわ、伺います。」


グレイスはスルーガ卿とドイナーのみを伴いアーレンの元へ向かった。

部屋に入ると国王のアーレンと宰相のスタンダール侯爵、国王相談役である兄のルダンがいた。

そして間も無くダリウスと、フィーネ擁護派筆頭のラルス伯爵が部屋を訪れた。


「聖女フィーネ、マルス·スタード、元神官長の3名が脱走した。今行方を追っているが、状況を見るに貴族の誰かが手を貸したと思われる。ノーラ公爵とラルス伯爵、心当たりは?」


スタンダール侯爵が2人に問う。


「私は直接処刑場に向かいました。聖女とは会っていません。」


まず、ダリウスがそう答えた。


「私も見届けたいと思い、屋敷から直接処刑場へ向かいました。」


ラルス伯爵の顔色は悪い。


「孫のレオンはどうした?ここに呼んだはずだが?」

「それが、屋敷には昨日から帰って来ていないようで·····。」

「それは疑われても仕方がないぞ。レオンは魔獣にやられた足を聖女に再生してもらってから、聖女に心酔していたではないか。急ぎ居場所を探し出せ。」

「承知しました。」


ラルス伯爵は青ざめた顔のまま退出しようとしたその時、近衛騎士が慌てた様子で部屋に入ってきた。


「国王陛下にご報告申し上げます!只今、脱走した聖女の捜索隊から知らせが入り、レオン·ラルスと元神官長が遺体で発見されたとの事!」

「何だって?!」

「何処でだ?」

「王城壁外、裏門近くの草むらで発見されました。2名共遺体の損傷が激しく、唯一顔部分だけ傷がない為、人物確認が出来たとの事。」

「レオンは私が確認する。案内せよ!」


ラルス伯爵は凄い剣幕で騎士に詰め寄る。


「落ち着け、伯爵。ただ、レオン本人かどうかは伯爵に確認してもらった方がいいだろう。伯爵を遺体の元へ案内しろ。」


スタンダール侯爵の指示でラルス伯爵は騎士に案内されながら退出していった。


「どういう事でしょうか?」

「脱獄に関してはレオン·ラルスが手を貸した可能性が高いな。その本人が殺されたとなると、他国の間者の可能性もある。王都を一旦封鎖。また、全ての国内の国境警備隊に国外へ出国する者に対して、検問を行うように通達しろ。」


アーレンの指示が下る。


「急ぎ、各国の大使への確認は私がしよう。」


兄のルダンがそう言い、退出していく。


「ヴァーバル公爵、聖女フィーネの『増幅』の能力について、昨日陛下から話を聞いたのだが、魔力をも増幅させる可能性があるとか。まさか聖女を脱獄させた犯人は、その事を知っていたのではあるまいか?だとすると、かなり厄介な事になると思われるが·····。」

「その通りです。彼女が魔力増幅の能力が使えるようになったなら、その力欲しさに奪い合いが起こるかもしれません。今回処刑することになり、その懸念も無くなるはずだったのですが·····。」

「聖女の性格なら、世界平和よりも、自身の欲望を叶えてくれる相手の力になろうとするだろう。」

「魔族の仕業ではないだろうな?」

「それらしき気配はありませんでしたが、認識阻害の魔法を上手く使われたのでしたら、可能性は無いとは言い切れません。」

「兎に角全力で探すしかない。こんな事になるなら、即日処刑すべきだった。」


アーレンは悔しげに話す。


「聖女の『増幅』の力が魔力をも増幅させるとは?」


それまで黙っていたダリウスが問い掛ける。

話していた者達は、ダリウスが部屋に残っていた事を失念していた。


「今話した通りだ。謁見の間でフィーネが私に治癒と称して魔法をかけた時、その魔力が作用する様子をグレイスが確認していた事で判明した。フィーネを野放しにするのは、非常に危険な状態だ。急ぎ確保し、その場で処刑する必要がある。利用されたら厄介だ。」

「そんな事に·····。」


「ダリウス、自身の感情や行動を制御出来ないフィーネが、魔族などに力を貸したらどうなるか分かっているな?見つけたら、その場で刑を執行しろ。今から直ぐに捜索隊に参加するように。行け!」

「·····御意 。」


ダリウスはまだ聞きたい事があったが、それを我慢し、部屋を後にした。

ダリウスが退出する際、グレイスに視線を送っていたが、グレイスが目を合わせることはなかった。


「アーレン国王陛下、私達は予定通り報告の為、ルダリスタン帝国へ帰還します。聖女の捜索も気になりますが、今はまだ出没する魔族の討伐に力を注がねばなりません。 」

「そうか、承知した。聖女に関しては、情報を常に提供する事を約束しよう。」

「有難うございます。宜しくお願いします。」



「という訳で、予定通り、明日帰国するわ。」

「何ダヨー。街ニ行キタカッタァ。」


謁見の間で魔族の姿を晒したナルージアは、モラン付きで、部屋に監禁されていた。


「僕も街でグレイスとデートしたかったですが仕方ないですね。しかしいったい誰が聖女を·····。」

「2人の殺され方も気になりますね。神官長に関しては、殺す位なら、最初から脱獄に加えなければいい。それにレオン·ラルスが脱獄に手を貸したなら、何故こうも早くに殺されたんでしょうね?」


モランが疑問を呈す。


「殺り方が短絡的に見えるな。魔族の可能性が強い気がするが····。」

「ソウダネ。ドイナーノ言ウ通リ魔族ッポイヨネ。」

「ナルージア、実際魔族の気配はないの?」

「アア····魔族ッテ言ウヨリ·····俺ヲ起コシタ奴ノ気配ニ似タ魔力ヲ、コノ城デハ感ジタナ。」

「何ですって?そうなの?」

「ソウソウ。グレイスノ中ニ居ル、古竜ト意志疎通出来ルンダロ?聞イテミタラ?」


グレイスは直ぐに神経を集中して、自身の身に宿るアグリスに問い掛ける。


『アグリス聞いていた?』

【ああ。確かに·····似た魔力の残滓を感じるな。】

『魔族ではないの?』

【違うな。奴らの魔力と気配が違う。】

『どうしてフェアノーレの王城に?』

【さあな。おそらく認識阻害の魔法でもかけてこの城に入り込み、様子を伺っていたんじゃないか?】

『今は居る?』

【·····居ない。残滓だと言っただろう?これを追うのは難しい。】

『そう·····分かったわ。有難う。』

【·····グレイス、気になることがあるのだろう?付き合うぞ。】

『·····アグリス·····。』


この城に残っていた気配·····。

何故か胸がドキドキと鼓動を打つ。




「ドウダッタ?」


意識を戻すと、頬杖を付きながらグレイスを見つめているナルージアと目が合う。

 グレイスの不安を見透かしているかの様な眼差しだ。


「魔力の残滓を感じると。」

「ヤッパリネ。何トナクダケド、グレイスハココニ居ナイ方ガイイ気ガスルナ。トニカク、ルダリスタンへ帰ロウゼ。」

「そうね。」

「デモ何カ気ニナッテルンダロウ?付キ合ウヨ。」


ナルージアの申し出にグレイスは目を見開く。


「グレイス、何かあるの?僕も付き合うよ。」


2人のやり取りを聞いていたロシェルが、心配そうにグレイスに尋ねる。


ロシェル······。

ロシェルは連れて行けないわ。


「有難う、ロシェル、ナルージア。確かに気になることは確認した方がいいわね。少し出てくるわ。ロシェルはこの部屋にモランと待ってて。モラン、ロシェルを守ってね。」

「承知しました。」

「守るって何?」

「知らない人間が接触してきたら、迷わず防護の魔法を展開してね。」

「何?危険な事をするの?そうなら尚更僕も行く。」

「いえ、そうではないの。念のためよ。直ぐ戻るわ。ナルージアとドイナーは着いてきて。」

「リョウカーイ。」


何とかロシェルを宥め、グレイスは気になっている場所に2人を伴って向かう。



いつの間にか日は西に傾き、空を一面赤く染めていた。

しかし王宮では、そんな美しい景色に目も暮れず、慌ただしさを増していた。

未だフィーネ達は見つかっていない様子だった。

グレイスは途中、従者を1人捕まえ、馬を2頭用意させると、それに乗り、ある場所へと向かった。


「城壁内ナノニ馬で移動スルナンテ、広イネェ。ネェグレイス、帰リハ俺ト馬ニ乗ッテネ。マァ俺飛ベルカラ、本当ハ馬イラナインダケド。」


グレイスとドイナーが共に乗り、ナルージアを1人馬に乗せながら向かった先は、王城内の奥にある、小さな森に囲まれた塔だった。


「ここは?」

「幽閉塔です。主に王族で罪を犯した者が幽閉される場所。」


塔は塀で囲まれており、閉じられた門から見える敷石は2色使われていて、よく見ると、何か魔法陣を描いている様だった。


「ヘェ、石デ描イタ魔法陣ノ上ニ立ッテルンダ。コレ魔力封ジ?」

「ええ。この門より先は、一切の魔法が使えなくなるわ。外から攻撃しても無効化されるから、余計な事はしないでね。」

「今、どなたか幽閉されているのですか?」


「ええ。元王太子殿下でこの国の第1王子、そして·····。」


グレイスは塔を見上げる。


「私の元婚約者だった方よ。」




数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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