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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
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48 グレイスの怒り ②

不定期投稿です。

宜しくお願いします。


公爵らしい、凛とした表情。

しかし、頬は涙で濡れていた。

それは止めどなく流れ、雫となって落ちた。


あれから5年程の月日が流れたというのに、グレイスの悲しみは癒えてはいなかった。


「グレイス·····。」


思わず手を伸ばす。

今すぐ抱き締めなければいけない衝動に駆られる。


グレイスもまた俺の方へ近づいてきた。


「グレイス。」


そう言って抱き寄せようとした俺の手を、グレイスは軽く払った。

一瞬息をのむ俺を余所に、グレイスは俺の胸に片手をついた。


「!!」


グレイスは俺の胸で小さな魔法陣を展開する。


まさか攻撃?!


俺は受けとめようと構える。


そんな俺の思いに反して、やがてその魔法陣に吸い上げられる様に、最近感じていた胸の痛みが消えた。


「これは?」

「最近胸を患っていたのでしょう?身体の中の病巣を消失させました。」

「なっ?!」


そう言うと、グレイスは俺の元を離れていった。

グレイスは俺の体調不良をいつから気付いていたのか。

俺が最近感じていた胸の不調は、嘘のように消えていた。


「グレイス····感謝する。グレイス、俺があなたに出来ることは何かあるだろうか?」


今までの会話からして、俺はグレイスに攻撃されてもおかしくない状況だった。

受け止める覚悟もした。

だが、グレイスの人柄を知っているなら、彼女はそんな事を決してするはずもなく、それが分かっていない自分を恥ずかしく思った。


「私は見返りなんて求めないわ。」


そう言って、グレイスはどこか呆れたような笑みを見せた。


見返りなんて求めないか·····。

そうだな、グレイスの好意に裏なんてない。

フィーネとの違いを見せつけられた気分だった。


「もう話すことはないわ。何かあるようなら、アーレン国王陛下に話して下さい。私は久しぶりに庭を見てから帰りますので、これで失礼します。」


そう言ってグレイスは背を向けその場を離れた。

その背中は拒絶を意味していた。

グレイスはハルやタッカに対する俺の想いを聞く事はしなかった。

言い訳をするのを許しはしなかった。


ただ、グレイスを見送るしか出来ない俺の所へ、グレイスの夫を名乗る男が近づいてきた。


「これ以上グレイスに関わろうとする事は止めて欲しい。」

「·····亡くなった者達の墓を見舞う事は出来るだろうか?」

「どんな顔して参るんです?言い訳をする為ですか?あの場所は結界が張られていて、グレイスの許しがないとたどり着けないようになっています。今の公爵がたどり着けるとは思いませんが?」

「·····そうか。」

「あなたは何も分かっていない。グレイスの怒りを受け止める事ばかり考えている。グレイスに必要なのはそんな事じゃない。いつだってその心に寄り添う事だ。僕は詳しくは知らないが、聖女のせいで悪女呼ばわりされていた時や、あなたが離婚を突きつけた時。フェアノーレから出ていく事になった時、あなたは1度としてグレイスの気持ちを考えた事はあるんですか?グレイスの孤独な心を支えたのは、長年仕えていた従者達だ。その者達が殺されたのを、誰がやったか分かっていて、あなたは黙認したんだ。最低だ。心底軽蔑する。これからグレイスの悲しみを思い知るがいい。」


そう言い残して、この男もグレイスを追って去って行った。


グレイスの悲しみ·····。


先ほど見せたグレイスの涙。

嬉し泣きの顔は見たことがある。

悲しみの涙を見たのは、初めてだった。

俺はフィーネの事ばかりで、グレイスを守りたいと言いながら放置していた。

最低な人間だ。

今俺がやらなければならない事は分かっている。

誰に任せるでもない。

グレイスが望んだように、俺の手でフィーネ達を処刑する事。

残酷なその様を、この身体に刻み込まねばならない。

グレイスにここまで言わせてしまったのは自分の責任だ。


「グレイス、すまない·····。」


ダリウスの呟きは、暗闇の中に溶けていった。



「グレイスは?」


ダリウスに一言いった後、グレイス達の後を追いかけたロシェルは、ドイナーを含めた護衛騎士が庭園の中で立ち止まっているのに気付いた。


「ドイナー、グレイスは?」

「あちらだ。」


ドイナーの指した方向にはガゼボがあり、そこにグレイスはいた。


「側妃を務めてよく知っている場所だから、先に戻っても構わないと言われたんだが、それは出来ないと答えた。そうしたら少し1人にさせてくれと言われた。」

「そう。」


ロシェルはグレイスの元へ行く。


グレイスは目を閉じ、その目からは未だ涙が溢れていた。

ロシェルはグレイスの隣に座り、包み込むように優しくその肩を抱いた。


「ロシェル。」

「うん。」


「ごめんなさい。淑女たる者が恥ずかしいわ。こんな顔では王宮を歩けない。少し落ち着くまで居させて。」

「うん。」


そのまま静かな時間が過ぎてく。

月光が、優しくグレイスの横顔を照らし出す。


「こんなみっともない姿見せてごめんなさい。」

「何言ってるの?グレイスは僕の最悪な姿見たでしょ?見つけられた時は痩せこけて、汚物にもまみれていたし、病気にも侵されていた。おまけに身体は1部腐っていたし。愛する人にそんな記憶を植え付けているんだ。僕の方がよっぽどごめんなさいだよ。」


「ロシェル······。」


「でも僕は離れない。これからどんな酷い姿になろうとグレイスから離れない。·····こんな僕をグレイスは受け入れてくれる?」

「勿論よ。」


グレイスはそう言ってロシェルの頬を撫でた。

ロシェルはその手を取り、口付ける。

それから涙が溢れていた目元にも口づけを落とす。


「グレイス、愛してる·····愛してるよ、グレイス。」


ロシェルは込み上げてくる気持ちが抑えられなくなって、グレイスを強く抱き締める。


「亡くなった人達を想って悲しむのは悪い事じゃない。それはその人達を忘れず心に刻んでる証だから。だから泣きたい時は思いっきり泣けばいい。その時は僕が必ず傍にいて抱き締めるから。」

「ええ······有難うロシェル······。」


2人は暫くそうやって暫く抱き締め合っていた。


◇◇◇


「アーレン国王陛下、体調はいかがですか?」


翌日、グレイスはアーレンの寝室を訪れていた。


「やぁグレイス、もう大丈夫なんだが、マリアが執務室に行くのを許してくれなくてね。」

「当たり前です。治癒は出来ても吐血したんですから。それも大量に。私の渡した魔石は身に付けているかしら?暫く外さないで下さいね。」

「ああ、もう一生着けておくよ。」

「改めて礼を言うわ、有難うグレイス。フェアノーレにグレイスが来なかったらと思うと、ゾッとするわ。」


王妃のマリアがあの時を思い出してか、涙ぐむ。


「フェアノーレに来れて良かったと思っていますわ。」

「しかし、フィーネの力が治癒ではなく、『増幅』だったか?手足の再生も、再生の力と言うより、その『増幅』の力によるものなのか?」

「おそらく。組織を増幅させることで欠損部分を再生させていたのだと。」

「なるほどね。魔法の発動が『祈り』というのは、未だ謎だが。しかし本当に命拾いしたよ。グレイスには感謝しかない。」

「体力が落ちている状態や軽い病なら、『増幅』の魔法で元気になっていたかもしれないわ。でも病気が進行した状態なら、『増幅』の魔法でその病巣を更に大きくしてしまう。」

「怪我に特化したなら問題なかったのだろうな。」

「体調が悪くなった人達はどの位いるのかしら?」

「元々魔力が落ちてきていたらしいから、そう多くはないと聞いているが、貴族で10名程。平民はまだ分かっていない。既に亡くなった者もいると聞いている。」

「明日会える者達には、私が治療してみましょう。」

「ああ、すまない。神殿が聖女の力を検証し、魔導師に任せ、きちんと魔法を学ばせていれば、こうはならなかっただろう。」

「それからもう一つ。アーレンにフィーネが魔法を放った時、鑑定の魔法を使って、魔法がどう展開されるか見ていたの。その結果、あの能力は他にも作用するようだったわ。」

「他とは?」

「魔力をも増幅させる。」

「何だって?」

「彼女自身の魔力量は高くないから、どのくらい増幅させられるかは分からないけれど。」

「そうか····。魔族などと接触したなら、利用されそうだな。まあ、いづれにしても処刑は3日後を予定している。これ以上懸念する事はなくなるだろう。」

「そうね·····。」


フィーネ達の処刑は3日後に決定した。

怪我や身体の欠損を治療した者達からは減刑を求める声が上がったが、その罪状が明らかになると、それ以上訴える者はほとんど居なくなった。

また、昨日の謁見の間での話を聞いて、貴族の中でフィーネに病気の治療を受けて体調を壊した者達が神殿に押し寄せ、その対応に追われていた。

フィーネの治療後すぐに亡くなった者達も多くいた為、神殿に対して訴えを起こすと言っている者達も出てきていた。


「それからマリア様も体調を壊しがちだと伺ったのですが?」

「ええ、子供が出来ないのはそのせいだと思われているわ。」


マリアはそう言って、悲しげに微笑んだ。

アーレンとマリアは結婚して以来、子供が出来ていなかった。

マリアは大貴族の後ろ楯もない平民に近い男爵家な上に、魔力が少なかった。

アーレンは、グレイスが去った後、古参の貴族から再三側妃を迎えるよう言われていたが、聞くことはなかった。

元の身分が低くとも、愛し合い、子供さえ多く成せば、例え王妃として不足する部分があったもしても皆に受け入れられたかもしれない。

そういう面で、マリアは1部の貴族とは距離が出来ており、肩身の狭い思いをしていた。


「後継をロドファン公爵家のクリストフにしようと思っている。」

「 リーヴァが正式にルダリスタン帝国の皇太子になったものね。王位継承権2位のクリストフがなるのは順当だと言えるわ。」

「ああ、魔族の件が落ち着いたら王位を譲って、王家の領地で静かに過ごそうと思っている。」


そう話すアーレンには迷いがないようだった。


「 マリア様、少し診させて頂いても?」

「有難う。何かあったら遠慮なく教えてね。諦めもつくから。」


マリアが、生まれながら子が出来にくい身体の場合はグレイスでも治療は難しい。


ただ、グレイスには心当たりがあった。

それを予想しながら、鑑定の魔法でマリアの身体を診てみる。

結果は思った通りだった。


暫く何も話さないグレイスに、マリアが少し不安な表情を浮かべる。


グレイスはアーレンに視線を向ける。

アーレンはグレイスの視線を受けて、少し苦笑いをした。


「何?グレイス、何か悪い事があったのでしょう?ちゃんと受けとめるから教えてちょうだい。」


マリアが涙ぐみながらグレイスに訴える。

グレイスはどう言おうかと考えながら口を開く。


「マリア様、マリア様の身体の不調は病気ではありません。」

「では何?」

「マリア様は薬をもられています。不妊になる薬です。おそらく長い間薬をもられています。」

「何ですって?」


たちまちマリアの顔が青ざめる。

それもそうだろう、身の回りの世話をする者達の中に、裏切り者がいるからだ。


「だから子供が·····。酷いわ。私には子を成す位しか価値がないのに。一体誰が?」


マリアは顔色を悪くしながら、怒りに震えていた。


「私を廃妃にしようとしているのね。何て事·····それも長い期間だなんて。一体誰が?」

「敵は沢山いることでしょう。マリア様を廃し、自分の娘を王妃にしようとする者。マリア様だけでなく、アーレンも退位させ、王権を願う者。これはマリア様だからという訳でもなく、どこの国でもある事です。」

「そんな·····。」

「明らかな症状が出始めたのは最近なのでしょう?それだけ長い期間、少量ですが、薬を接種し続けていたとなると、身体の中に蓄積されています。今宜しければ、治療しましょう。」

「お願いするわ。」


グレイスはマリアの腹部に手を置き魔法を展開する。

グレイスは解毒に有効な闇属性の魔法と治癒に効果のある水属性の魔法を合わせながら治療をしていった。

それからマリアの手を取りグレイスの魔力を身体に巡らせる。

マリアはその心地良さに目を閉じる。


「気持ちいいわ·····。」

「そうだろう?マリア顔色が良くなったよ。」


そう言われ、マリアは嬉しそうに微笑んだ。

グレイスはマリアの表情を見て安堵しながらも、アーレンに視線を向ける。

アーレンは意味ありげな視線をグレイスに向けながら、この件についてグレイスに踏み込まないよう、牽制しているようにも見えた。


アーレンも気付いているのね。


まだ魔族の問題が残っている上、グレイスはルダリスタンに帰国する。

マリアの事に関してアーレンは悪いようにはしないだろうと思い、口を(つぐ)んだ。


こうしてグレイスはフィーネの被害者の治療と、フェアノーレ側と魔族の討伐に関しての話し合いを行うなどして3日間を過ごした。




そしてフィーネ処刑の日。


グレイスの元に届いたのは、フィーネが脱走したという知らせだった。

数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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