41 ロシェル ②
不定期投稿です。
宜しくお願いします。
初めて参加した魔族の討伐。
旅の疲れなど感じない程緊張していた。
そしていざ到着し、知った魔族の数。
1体ではなかった。
グレイス様達も初めてであろう5体。
誰もが息をのむ。
死闘が予想される。
ナルージアだけが楽しそうにニヤついている。
ここで僕が必要とされるのは、聖属性の魔法を使い、防御壁を作り安全地帯を確保する事。
戦闘で負傷して運ばれる者達を守り、治癒魔法をかける。
魔力を安定させるため、防御範囲に自身の魔力を込めた魔石を配置する。
フェアノーレ側曰く、本来、南部の魔族を討伐に行っている隊がその任を終え、こちらと合流してから討伐を開始する為、それまで砦にいる魔族達を監視するのが我々の役割だった。
しかし、認識阻害の魔法のほころびにより、我々の存在が早々に魔族に知れ、合流を待たずして戦闘が始まった。
自分の役割に集中して魔法を展開する。
日々練習を続け、防御壁は広範囲、強固なものが作れる様になっていた。
魔族が現れると魔獣も引き寄せられる。
魔族に気を取られている間に、横から後ろから魔獣に襲われる。
負傷者が次々と運ばれてくる。
僕は覚えたての治癒魔法で負傷者を回復していく。
気が付くと、負傷者も他の魔導師も皆同じ方向を見つめている。
どうしたんだ?
僕もそちらに視線を向ける。
そこには空に4つの光る銀の魔法陣が浮かび上がっていた。
あれは·····グレイス様の魔法陣だ。
宙に浮かぶ魔法陣の下には魔族の姿があり、4体それぞれが拘束されていた。
4体同時なんて·····信じられない。
更にその下の地面に、黒い魔法陣が現れる。
その魔法陣から真っ黒い蔦の様なものが上へと上っていき、魔族の身体を絡めとっていく。
そしてそのまま次々と地面に引きずり下ろされていった。
そこへ下で待ち構えていた騎士達が一斉に襲いかかる。
魔族は下半身から拘束されていく中抵抗するが、騎士達の攻撃を躱しきれず、1体、また1体と倒されていった。
凄い······。
ナルージアは?
確か先に飛び出して来た魔族を撃退しに、1人先に戦闘を始めていたはずだ。
遠くで轟音が聞こえ、火花が散るのが見える。
あっちは上級魔族だ、大丈夫なのか?
地上では残った魔獣の討伐が続いていた。
僕は少し不安を感じながらも自分の役割に集中した。
どのくらい経っただろう。辺りは静かになっていた。
戦闘が終わったんだ。
辺りを見回す。
僕と同じ漆黒の仮面とローブを見に纏ったグレイス様が、ドイナーを伴いこちらに歩いて来ているのが見えた。
「グレイス様·····。」
戦闘の後だからか、身体が銀色の魔力で光って見える。
「グレイスー!」
その時、宙に浮き、手に何かを持って、それを振り回しながら、こちらに飛んでくるナルージアが見えた。
頭には魔法で隠していた角が顕になり、何だか牙も出てないか?
着ていた騎士服は、上半身はビリビリに破れ、肌を露出させていた。
周りの者達は魔族がまた現れたと騒然となるが、僕が仲間だから言ってと皆を宥めた。
「グレイス見テクレヨ。鮮ヤカニ殺ッテヤッタゼ。」
そう言ってグレイス様に見せるのは手に持っていた魔族の生首だった。
振り回していたのはそれか·····。
「昔カラ、イケ好カナイ奴ダッタガ、俺ト同ジデ眠ッテイタトハナ。魔王ニ付キ従ウフリシテイタクセニ。」
そう言って首を放り、詠唱を始める。
そして首を灰にしてしまった。
「情報は聞き出せたの?」
「アア。マァ、有用カハ分カラナイケドネ。アッ、下半身置イテキタ。魔獣ガ喰ウト変異スルカラナ。灰ニシテクルゼ。グレイス、後デ、ゴ褒美ネ。」
そう言ってナルージアは魔族の遺体を処理しに行く。
魔獣が魔族の身体を食べると、身体が変異し力を増す。
また魔獣もそうだが、遺体を放っておくと瘴気
を発する。
速やかに灰にしなければならない。
ルダリスタンも、フェアノーレの討伐隊も皆安堵の表情を浮かべていた。
フェアノーレのロドリス卿に促され、グレイス様は皆の前に立つ。
そして仮面を取り、帰還の号令をかけた時の皆の歓声は、僕にとって忘れられないものとなった。
◇
疲れた身体を休ませながら進むこと3日。
グレイス様の生家があるタンドゥーラ公爵領にたどり着いた。
ここにルダリスタンからの兵70名を留め置き、残りは僕達も含め、グレイス様の護衛としてフェアノーレの隊と共に王都へ向かう。
タンドゥーラ領でのグレイス様の歓迎ぶりは凄かった。
グレイス様は、勇者と離婚しルダリスタン帝国へ向かった日以来の帰郷だったそうだ。
グレイス様の父上と母上はルダリスタンの領地に、実質この領地を治めている兄のルダンは王都に行き不在。
夫人が迎えてくれたが、仲が良かったのだろう、涙を流しながらグレイス様を迎えていた
このタンドゥーラ領には3日滞在する。
この先、他の領地の屋敷で休む事もあるだろうが、夜営も多い。
人も馬も一旦体調を整える必要があった。
無事討伐を終えたら、グレイス様はフェアノーレの隊と共に王都へ向かう事は事前に決まっていた。
僕は初めての討伐をやり遂げたら、王都に着く前にやりたい事があった。
実行するならこのタンドゥーラ領に居る間しかない。
タンドゥーラ領へ来て2日目の夜、グレイス様はまだ部屋に戻らない。
グレイス様に拾ってもらって以来、ずっと寝台を共にしている。
姉と弟の様に·····グレイス様はそう思ってる。
僕は始めから違ったけれど····。
そして若干無理矢理····というか僕が聖属性の魔力の持ち主だから、僕を保護する意味で、僕とグレイス様は婚約することになった。
それとは関係なく、僕はプロポーズもした。
色々重なりすぎて、グレイス様の僕に対する気持ちは本当の所どうなのか分からない。
それでもいい。
僕がグレイス様の夫となれるなら。
グレイス様は古竜であるアグリスをその身に宿している。
今のグレイス様の寿命は、人間のそれと違うだろう。
そして耳がエルフの様に尖って生まれてきた僕もまた然り。
魔力が弱かった時は身体の成長が遅かったが、今は魔力が安定し、背はグレイス様を越える。
エルフはここから暫く老いることはない。
ナルージアは、僕が古代のエルフの王に似ていると言っていた。
転生かは記憶がないから分からない。
でも時々感じる強い魔力。
もしかしたら僕はエルフの王の末裔なのかもしれない。
身体の奥に眠っているこの力を呼び起こす為に、僕はこれからも鍛練を重ね、グレイス様に相応しい者にならなければならない。
「起きていたの?」
湯浴みをしていたのだろう。
夜着に着替えたグレイス様が部屋に入ってきた。
部屋には月の光が差し込んでいて、グレイス様の姿を照らし出す。
この方は本当に美しい。
窓辺に座っている僕の方へ歩いてくるグレイス様を見つめていると、身体の中が熱をもってくる。
「グレイス様、受け取って欲しい物があるんです。」
「なあに?ああ、それで待っていてくれたの?それならもう少し早く話を切り上げるんだったわ。ごめんなさい。」
グレイス様は少し申し訳なさそうな顔をして応える。
僕はサイドテーブルから魔石の付いたペンダントを持ってくる。
「これを身に着けて欲しいんです。」
「これは·····。」
「僕の魔力を込めた魔石です。いざという時にグレイス様を守ります。」
「とても綺麗·····ロシェル有り難う。」
そう言ってグレイス様は花がほころぶように微笑んでくれた。
ちゃんと伝えるまで我慢·····。
「グレイス様、お願いがあります。」
「なあに?」
「今夜夫婦になることは出来るでしょうか?」
「え?」
「フェアノーレの王都に着く前に、グレイス様を僕のものにしたいんです。僕はずっとあなたを1人の女性として見ている。」
「ロシェル·····。」
「グレイス様、これを。」
僕はグレイス様に婚姻届を見せる。
そこには既に僕の署名と立会人のリーヴァ殿下の名前が書いてあった。
「いつの間に·····。」
「元々婚約する仲です。結婚を早めても問題ありませんよね。リーヴァ殿下には気持ちをお伝えして、お許しを得ました。こちらに了承の署名を頂ければ、リーヴァ殿下が施してくれた魔法陣が発動して、ルダリスタンの王宮に届く事になっています。」
「そう····なのね。」
「····まだ駄目でしょうか?」
断らないで欲しい····。
「分かったわ。」
グレイス様はそう言って署名してくれた。
「有り難うグレイス様·····。」
ああ、嬉しくて泣きそうだ·····。
グレイス様の署名が終わると、婚姻届に魔法陣が浮かび上がる。
リーヴァ殿下の転移の魔法だ。
一瞬強い光を放つと、婚姻届は消えてしまった。
「これで夫婦ね。」
「はい。」
僕は返事をして、グレイス様の肩に流れる銀髪に触れる。
グレイス様の水気を帯びたような、美しい水色の瞳を見つめる。
それからしっとりとした白い肌に触れる。
グレイス様は少し恥ずかしそうに目を伏せる。
「グレイス様、愛しています。」
そう言ってグレイス様に口付けした。
始めは触れるだけの様な軽いものだったが、気持ちの高ぶりを抑えきれず、それは深くなっていく。
次第にグレイス様の身体の力が抜けてきた所で口唇を離し、グレイス様を抱き抱えた。
トロンとした目のグレイス様にもう一度軽く口付けし、そのままベッドに連れていって下ろした。
「グレイス様とフェアノーレの勇者が再会するのが、正直本当に嫌なんです。だからお願い·····抱かせて····。僕を刻ませて。」
そう言うと、グレイス様の瞳に一瞬、涙の膜が張ったように見えた。
「ロシェル····名前を呼んで····。」
「グレイス····グレイス····愛してる····。」
僕は何度も名前を呼び、グレイス様を朝まで愛した。
◇
「ドイナー、いよいよ王都だね。」
「ああ、漸く勇者の顔を拝める。」
「僕はそこら辺の男より綺麗な顔をしていると思う。」
「ああ。」
「ドイナーもそこら辺の男より強いと思うし、戦場ではグレイス様が一番信頼を置いている。」
「ああ。」
「僕は正式にグレイス様····グレイスの夫になったよ。」
「······。」
「ドイナー、君もグレイスと血の契約をしたんでしょう?あれはグレイスが解除しない限り、グレイスが命を落とせば、共に逝く契約だ。それは知ってるんだよね?」
「ああ。」
「ドイナーの血の契約は、僕やナルージアみたいに必要に迫られて交わしたものじゃない。ドイナーが願ったかもしれないけれど、こんな形でグレイスがそれを許したのはドイナーだけだ。」
「ああ。」
「僕達は勇者を越えたよね?」
「ああ。」
「勇者に会うのが楽しみだ。」
「·····ロシェル、グレイス様から離れるなよ。あの方には心から安らげる場所が必要だ。」
「うん、勿論。ドイナーもグレイスの事お願いするよ。戦闘中は、僕は傍にいられない。」
「ああ。」
「勇者が僕達を見て悔しがる姿を見るのが楽しみだ。」
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。