34 魔族との血の契約
不定期投稿です。
宜しくお願いします。
「明かに今までとは違いますね。このまま突っ込めば、死ぬ気がします。」
第3騎士団長のスルーガは、上級魔族が潜伏していると言われている王城を前にして、険しい表情をした。
「ナタールの王族は脱出しているのですか?」
「いえ、王女が1人捕らわれています。王と王妃は喰われたそうです。王太子は王太子妃と子供と逃げています。」
ナタール王国の騎士団長を勤めているスフガという男がグレイスに報告する。
「王女の命は保証出来ません。魔獣を召喚するのでしたら、建物の中で戦うのは悪手です。まず誘い出しましょう。」
「どのようにして?」
「今回は私が始めから参ります。私が倒されたら、フォルト様は直ぐ撤退の指示を出して下さい。」
フォルトはルダリスタン帝国第2騎士団の副団長を務めている男だ。
今回選ばれたものの、遺書まで書き、嫌々ながら討伐部隊に参加した者だ。
第3騎士団団長のスルーガが参加すれば十分だと、出発直前までごねていたらしい。
出来る男ながら、とにかく気が弱いと有名だった。
「そう言えばヴァーバル様は4日前から数人の魔導師を連れて、先にこの地に来られていたようですが、何をなさっていたのですか?」
「魔導師達には何重にも認識阻害の魔法をかけてもらいながら、私はこの地に既に4日かけて魔法陣を張り巡らせています。」
「え?ここにですか?」
「ええ、今あなたが立っている真下にも。」
そうナタール王国のスフガに説明する。
「これで召喚魔法は発動しにくくなっていると思います。それと今回は特に気を付けて頂きたいのが空からの襲撃です。弓矢部隊は予定通り来ていますか?」
「はい、仰せの通り、弓矢部隊を守る騎士も配置しています。」
「では参りましょう。スルーガ様、ドイナー、モランは、はじめは私が詠唱し、魔法を発動するまでの時間稼ぎをするだけで構いません。魔族に直接攻撃を仕掛けるのは相手が弱ってきてから、慎重に願います。」
グレイスはゆっくり王城に近づいていく。
周りは瓦礫と化した状態で荒れていた。
グレイスは立ち止まり魔力を練る。
やがてそれに反応するかのように、王城内から何かがこちらに向かって飛んできた。
やはり飛行出来るのか·····。
飛行魔法は失われた古代の魔法の1つ。
中級の魔族との戦闘で初めて見た。
魔族が圧倒的な強さを誇っていたのは、空からの攻撃を展開出来たから。
古文書でその事実を知ってから、リーヴァとグレイスは弓矢部隊に、その矢に魔力を乗せる訓練をさせていた。
グレイスの向こう、魔族は空中に止まったままこちらを見ている。
まるで舞踏家の様な装いの若い男性に見える。
金色の短髪で瞳は赤く、頭部には2本の角が生えている。
物珍しそうに、やんちゃな笑みを浮かべながらグレイスを見下ろしていた。
『はじめまして。あなたも誰かに呼ばれたのですか?』
グレイスは古語で話し掛ける。
魔族の男は口角を上げ、地に降り、グレイスの元に歩いて近寄って来た。
『漸く話せる相手に出会えた。仮面の女よ、俺を見に来たのか?お前達は魔族が珍しいんだろう?お前から上質な魔力を感じる。喰いたいなぁ。』
『質問に答えて下さい。あなたが目覚めたのは誰かに呼ばれたからですか?』
『そうだな。』
『同じ魔族ですか?』
『さぁ、どうだろう?喰いたいから取りあえず戦おうか。』
魔族はそう言うと、片手を上げ魔法を発動しようとする。
グレイスは同時に足元の魔法陣を展開する。
『あれ?魔法が発動しないな。何だ、この魔法陣?』
グレイスの張り巡らした魔法陣が銀色に輝き、その光が魔族の足に蜘蛛の巣の様に絡み付く。
『はは、すげぇ。』
魔族の顔は、面白がって高揚している。
すかさず両手を上に振り上げ、空中に数個の魔法陣を展開した。
「空から来るぞ!」
スルーガが叫ぶ。
魔法陣の中心から3体の異形の大型魔獣が現れる。
大狼型、大蛇型、大鳥型だ。
上空から落下してくる2体に騎士達は構える。
グレイスは自らの手に傷をつけそのまま地面に展開する魔法陣に手をつく。
魔法陣はグレイスの血を吸い、銀色の魔力に赤黒い魔力が混ざり合う。
そして魔獣が地を踏む瞬間、地面から尖ったトゲの様に変化した硬い土が飛び出し、2体を串刺しにした。
そこを騎士達が斬りかかる。
一方上空を旋回する大鳥に魔力を乗せた矢が次々と放たれ、魔獣を傷つけた。
『うわっ、すげぇ!ギャハハハハ!これはヤバイな!』
召喚した魔獣がやられるのを見て、魔族は興奮する。
そこをスルーガとドイナーが斬りに行く。
魔族は両手を硬い何かに変化させ、それぞれの剣を受けとめる。
『うはっ、召喚出来ねぇ!』
足をグレイスの魔力で固定された魔族は動きを封じられている。
グレイスは更に詠唱を重ねる。
銀黒色に変色したグレイスの魔力が繭を作る様に魔族の身体を覆っていく。
『ぐふふハハハ、この魔力、お前竜を喰ったのか?人間も大概だな!』
次々と繰り出されるスルーガとドイナーの斬擊に躱せなくなった魔族の腕が飛ぶ。
落ちた両腕が転がると同時に2体の黒豹に変わる。
そしてスルーガとドイナーに襲いかかる。
向こうでは大鳥が口から奇声をあげ、騎士達の聴覚を奪っていた。
聴覚を奪われた騎士と弓矢部隊の1部は、平衡感覚を奪われ攻撃を封じられていた。
『フハハハハ、頑張れ頑張れ人間!』
魔族から飛び散った血が、魔法陣に落ちるとそこから魔法陣が崩れ始めた。
崩された魔法陣の隙間から真っ黒い蛇が何体も涌き出て、串刺しにした大狼と大蛇と戦っている騎士達に襲いかかる。
『一気に形勢逆転かな?』
嬉しそうな魔族の声が聞こえる。
『フハハハハ···ガハッ。』
高笑いをする魔族に、モランが魔力を乗せ打ち付けたムチが当たり、魔族の身体は後ろに倒された。
グレイスは魔族に近づきその額に手のひらを押し当てた。
『撫でてくれるのか?』
にやつく魔族を無視し、グレイスは詠唱を始める。
その詠唱を聞き、魔族の顔色が変わる。
『何をする?!』
魔族は危機を感じ暴れだし、魔法陣の隙間から召喚した蛇がグレイスを標的に変え襲いかかる。
襲い来る蛇をモランのムチが倒していく。
『陽気な頭を冷やしてあげようと思って。』
グレイスはそう言い、魔法を発動させた。
突然魔族は苦しみだし、激しく暴れるが、グレイスの魔力で繭の様に包み込まれた魔族は成す術がない。
魔族の身体は締め付けられていき、その身体はやがて少しずつ灰となって崩壊し始めた。
『私の血の契約を受け入れなさい。』
『グガアアア!』
魔族は一層苦しみ出す。
魔族の額にグレイスの魔法陣が広がっていく。
『分かった、隷属するから止めてくれ!』
暫く抵抗していた魔族も、身体の崩壊が加速していった為、たまらずグレイスに懇願する。
『あなたの真名を言いなさい。』
『あぐあ····●●●●●●···。』
『●●●●●●、血の契約を行う!』
グレイスがそう言うと、額の魔法陣が一気に魔族の全身に広がり、身体に焼けつくように沈み消えていった。
召喚された魔獣も力を失ったのか、動きが鈍くなり次々と倒されていく。
血の契約を行った魔族は白目を向き、気絶していた。
「グレイス様、倒されたのですか?」
「はぁ····何とか魔族と血の契約を結ぶのに成功したわ。」
「何ですって?!」
「まだ、目覚めて本来の力を取り戻していないから助かったわ。可能なら魔族を捕獲するように皇帝陛下から言われていたの。任務を果たせたわ。」
「この魔族はどうしますか?」
「魔力を封じたわ。私の許しがない限り魔法は行使出来ない。取り敢えず拘束したままで牢に入れておきましょう。」
「グレイス様、お怪我は?」
スルーガとドイナーもグレイスの元に駆け寄る。
転がっている魔族を見て、顔をしかめながらも、取り敢えず戦闘が終了したことに安堵していた。
「魔族をルダリスタン帝国へ連れていきます。そこでこの魔族から、今魔族に何が起こっているかを解明していきます。」
◇◇◇
ダーナーお兄様が皇太子を下ろされて、皇后であるお母様はすっかり気落ちしてしまい、毎日不機嫌で小言ばかり。
今の関心事は私の嫁ぎ先。
今の所どこかの国の王族で相手を探している中、お母様が興味深い話を持ってきた。
「聖属性?あの古代エルフに多く見られた魔力。失われたのではなかったの?」
「それがね、エルフと人間の隔世遺伝だそうよ。ヒトラス伯爵家で男娼として囲われていたらしいわ。」
「男娼?それはいくら聖属性の魔力を持っていても穢れているわ。」
「エルフの隔世遺伝な上、男娼という位だから、美しいのでしょうね。」
「お母様、もしかして私にその男娼をあてがおうとしてるの?私の愛人にでもするつもりですか?」
「あのグレイスが既に囲っているという噂だけれど、聖属性の魔力を持つなら、子供を作って残すべきよ。グレイスは実家のタンドゥーラ公爵家同様、リーヴァを支える1人。彼女がリーヴァの元を離れるはずはないわ。このまま向こうが聖属性の魔力を持つ者を保護し続けると、リーヴァの勢力が更に力を増し、私達は太刀打ちできなくなるわ。だから何としてもその存在が公になる前に、その者を確保したいの。イリナ、分かるわね?」
「私にどうしろと?」
「取り敢えずこれをヴァーバルの屋敷に届けなさい。そして届けに行ったついでに、その者に会ってきなさい。皇后の権限で連れ帰っても構わないわ。」
そう言われて、馬車でわざわざヴァーバル領まで来たものの、本当にここ森ばかりね。
そうして屋敷にたどり着く。
突然の皇女の訪問にヴァーバルの屋敷はざわめいていた。
「公爵様にどなたが来られてもお断りするよう仰せつかっておりますので。」
私が皇女と知りながらその態度。
事前に公爵に、私が訪れる事を悟られていてのだろうか?
だからお母様である皇后から預かった夜会の招待状を渡した後、聖属性の魔力を持つ者に会いたいと唐突に話を切り出した。
「私は皇女よ。それなりにヴァーバル領の事情も知っているわ。それに皇后陛下からその者を確認してくるように言われています。何か危害を与えるわけではないのだから、心配しないで。」
そうやって皇后の名を出し無理強いをすれば、このまま突っぱねられないと判断したのだろう、とうとうその者を連れてきた。
そして·····その者を見た瞬間、身体に雷が走ったかの様な衝撃を受ける。
その日、私は彼に会って、生まれて初めて恋を知ったのだった·····。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、本編完結済の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。