33 グレイスの気持ち
不定期投稿です。
宜しくお願いします。
「え?彼奴がそんな事を言ったの?」
魔族の討伐依頼の件で皇城に呼ばれたグレイスは、皇帝陛下の謁見の前に、リーヴァへの面会を依頼していた。
「ええ、嬉しくて舞い上がってしまって、自分が何を言っているのか分かっていないのよ。もしかしたら私が彼の身に施した血の契約の魔法陣のせいかと思って、それを解除しようとしたら嫌がって。困ったわ。」
「ふーん、そう。ただ慕ってるだけではなさそうだと思っていたけどプロポーズね。で、今推定何歳だって?」
「17歳みたいね。エルフの隔世遺伝だとどういう風に歳をとるか分からないけど。」
「結婚しようと思えば、十分出来る年齢か·····。」
「それで聖属性の魔力の事だけど、覚醒したと見て問題ないわ。ただ聖属性の魔法はこれから使えるように学ぶ所よ。·····これを知ったら皇帝陛下は、ロシェルをどうするかしら····。」
「聖属性か····失われた魔法が甦る可能性が出てきた訳だ。普通なら、そういった能力を持っているなら王族と婚姻を結ばせる。丁度皇后の産んだ皇女がいるからね。まず皇后派が取り込もうとしてくるだろう。息子が皇太子になれなかったから、ロシェルを皇女と結婚させ、皇女に権力を持たせようとするだろう。ロシェルの後見に兄上を据えるかもしれない。ただね、陛下は皇后派に力を持たせることを良しとしていないから。」
「あの子を権力闘争に巻き込みたくないわ。」
「皇女がロシェルに会ったら一目惚れするのも濃厚だよ。あの顔で惹かれない女性は、そういないんじゃない?グレイスはそうじゃないみたいだけど。」
「私の周りにはアーレンやあなたがいるでしょう?綺麗な顔には免疫があるのよ。」
「いやぁ、アーレンや僕の比じゃないよ。グレイスの希望は、ロシェルを今まで通り傍に置いて、聖属性の魔法を勉強させたい、でいいね。」
「ええ、あの子は男娼として働いていた記憶にまだ囚われているの。自分の身を売っても、生きるために人の望み通り行動しようとするわ。今私の傍を離れたら、また同じ様な生活に戻ってしまう気がするの。私にプロポーズしたのも、安全に生きて生活する為には、私の夫になるのが1番だと考えた結果だと思うわ。」
「·····プロポーズしたのは、安全に生きるためじゃないと思うけど····。でもグレイスの気持ちは分かったよ。皇帝陛下には、僕からもそう交渉するよ。安心して。」
「有難う、リーヴァ。」
◇
「その者の望みを叶えてやればいいじゃないか?」
ルダリスタン帝国皇帝ヴィルドは、グレイスの報告を、特に構えることなく聞いていた。
「皇帝陛下、それは偽装結婚をせよと仰せですか?」
リーヴァがすかさず確認する。
それをヴィルドは鼻で笑いながら応える。
「リーヴァ、未だにグレイスの事を引きずっているのは分かるが、グレイスもそろそろ幸せになっても良いのではないか?グレイスはその者の事をどう思っているんだ?」
「私は·····。それがロシェルの本心か分かりません。私に対しては母親に対する様な感情だと思うのです。」
「ハハハハハ。グレイス、そなた自分が母親に見えると思うか?」
「·····そうですね、私は結婚をした事があっても子を産んだ事はありません。母親は無理がありましたでしょうか。」
グレイスは少し寂しげな表情をする。
「グレイス、そなたはまだ若いながら、すでに色々経験しておる。特に前の夫の裏切りは相当だからな。直ぐに誰かの好意を受け入れられない気持ちは分かる。だが怖がっても何も分からないだろう?踏み込まなかったら幸せになれるのか?それも分からないのだから、立ち止まらなくても良いのではないか?」
「······。」
「グレイスが守ろうとしているのはこの世で貴重な聖属性の魔力を持つ者だ。今その者に必要とされていて、1番傍で守りたいと思うなら、それなりの立場を得た方が良いだろうな。イリナに目をつけられたら厄介だぞ。」
イリナは皇后が産んだ皇女だ。
「そなたの気持ちも分かるから無理強いはしないがな。」
「·····ご忠告有難うございます。」
「さて、その者の話はここまでにして、次の討伐の話をしよう。とうとう他国から討伐の依頼がきた。」
「他国からですか?」
「1つは西の国ナタール、もう1つはフェアノーレだ。」
「フェアノーレ·····。」
「勇者と聖女が揃う国も苦労している様だな。まずはナタールだが、今までで1番強敵やもしれぬ。今回は下級や中級魔族ではない。とうとう上級魔族が現れた。」
「なぜ上級だと?」
「使った魔法の大きさだな。召喚魔法の使い手だ。大型魔獣を何体も召喚する。現れて1ヶ月、ナタールは国土の5分の1を失った。今すぐにでも対処しなければならない。今回の討伐を成功させれば、ナタールはルダリスタンの属国となることを提案してきた。」
「承知しました。討伐が他国となると、皇太子殿下の参加は難しいのでは?」
「そうだ。故にリーヴァが動かしていた第3騎士団
とは別に、リーヴァの傘下にもう1つ別の隊を作ろうと思う。指揮官はグレイス、そなただ。主に国外からの依頼に対応してもらう。そなたの領地の赤目を参加させても良い。」
グレイスの治めるヴァーバル領は、グレイスを慕ってか、赤い目を持つ者達とは別に、タンドゥーラ公爵家やフェアノーレから移住を希望する者達が集まっていた。
グレイスと共にノーラ領で義手や義足を作っていた職人達や騎士達だ。
ノーラ領ではグレイスとダリウスが離婚した後、フィーネの養父であるルクスト子爵家が領地運営を行っていたが、グレイスの生家のタンドゥーラ家がそれらの事業から手を引いた事で回らなくなり、衰退していった。
ルクスト子爵が、グレイス襲撃に関与した事が明かになり、処刑されて以降は、残った者達で細々運営していると聞く。
職人達はそのままフェアノーレ王国のタンドゥーラ領に身を寄せていたが、グレイスが生きているかもしれないという情報を受けて、ルダリスタン帝国のヴァーバル領へ移住してきた。
こうして徐々に領民の人口が増えていく中、私団を編成しつつあった。
「討伐隊の編成、承知しました。それでナタールへの討伐はいつになりますでしょうか?」
「10日後だ。連れていく騎士団の騎士との調整を急げ。」
「承知しました。」
◇◇◇
「ドイナー、ヴァーバル領の屋敷に戻る前に、行きたい場所があるの。いいかしら?」
「分かりました。どちらへ?」
「森の墓所よ。少し気持ちを落ち着けたいの。」
「·····承知しました。」
帝都から屋敷へ戻る途中、グレイスはヴァーバルの森の墓所へ立ち寄った。
グレイスが魔法を発動すると、いつものようにそこは一面花畑になった。
ドイナーと他の護衛達は離れた位置で静かにグレイスを待つ。
同じ様に待つ護衛の中には、タンドゥーラ家から来た者も居て、その者達は墓の人物を知っているのだろう。
待ちながら、グレイスと同じように黙祷を捧げていた。
『アグリスはロシェルの事をどう思う?』
グレイスは身体の中のアグリスに呼び掛ける。
【グレイスを崇拝している。】
『皇帝陛下はロシェルの望みを叶えてやればいいと仰ったわ。』
【要はこのヴァーバルで囲い込めという事だろう?グレイスの気持ち抜きで。】
『あの子は私にどんな愛を望んでいるのかしら?本当の恋を見つけるまで、傍にいればいいのかしら?』
【グレイス·····あやつはグレイスに恋をしていると思うぞ。それよりもグレイスがあやつをそんな目で見れないのだろう?】
『そうね·····あの子の純粋な目を見ると、必要とされている事に喜びを感じるわ。あの子が私に愛情を向け続ければ、私もそのうち絆されると思うの。でもあの子が別の女性に本当の恋をしたら、私は当然応援してあげたいと思うけれど·····また寂しくなって泣いてしまうかもしれないわ。』
【寂しくなるだけか?】
『ふふ、寂しくなるのはとっても辛い事よ。今の関係なら、あの子が旅立って行こうとも、家族としての繋がりがあるように感じるから····分かるかしら、この複雑な気持ち。』
【ああ、恋人としての別れになると、繋がりを断つ事になるという事か?】
『凄いわアグリス、その通りよ。人間の心に理解があるわ。』
【俺は永い時を生きている。そしてグレイス、そなたも気付いているだろう?俺の血を身体に受け入れたなら、普通の人間と同じ時を刻むわけではない事を。】
『寿命が延びるのね。』
【ああ、だからこの先も別れは1つではないだろう。多くの者との別れがある分、同じように出会いもある。だから、悩むな。その時々の出会いを素直に受け入れるがいい。それにそなたは忘れているのではないか?】
『何を?』
【俺はそなたの中にいて、俺だけはそなたと同じ時を刻む事を。我々は生きる時も死ぬ時も同じだ。】
『本当ね。あなたとの出会いが私にとって最大の幸運なのね。』
【ははは、そうだ。喜べ、グレイス。】
墓所に優しい風が駆け抜ける。
花びらが舞い上がり、幻想的だ。
グレイスはその光景を静かに見つめていた。
その時ふわりと知っている香りがした。
そして優しく後ろから抱き締められた。
「ロシェル·····来たの?よくここが分かったわね。」
「グレイス様·····僕が血の契約の魔法陣を身体から消したくないのは、魔法陣があればグレイス様がどこにいるか分かるからなんだ····。それにもし拐われても、僕は必ずグレイス様の元に戻って来れる。この魔法陣が、グレイス様の元へ導いてくれる。」
「ロシェル·····。」
「グレイス様、ごめんなさい。ニケに叱られた。グレイス様に強引に結婚を迫っちゃ駄目だって。グレイス様の気持ちを1番に考えろって。グレイス様には辛い過去もあるから、自分の気持ちを押し付けるんじゃなくて、寄り添う事から始めろと。」
「ニケ·····。」
「この場所、僕は初めて来る。11人····。どんな人達だったの?」
「·····私を愛してくれた人達よ。私のせいで襲撃され、私を守る為に戦ってくれたの。····私が救えなかった人達。···あなたが地下牢に囚われている時、まだ生きてるって言ったでしょ?あの時、彼等の事が頭に浮かんだの。彼等はもう亡くなっていて、彼等が生きたいと望んでいても、生き返らせる事が出来ない。だから、まだ息があって、生きたいと望んでいるあなたをどうしても助けたかったの。」
「そっか····。僕は彼等の後押しがあったから生きていられるんだね。····彼等が居ないのは悲しいね、寂しいね。」
「ええ、とても····。私は皆が恋しいわ。」
「·····グレイス様。グレイス様が何かを思い出して、寂しい気持ちになったら、僕がこうして抱き締めるよ。僕がグレイス様に抱き締められて救われた様に、グレイス様にも抱き締めてもらう存在が必要だよ。」
「ロシェル·····。」
「グレイス様、僕がこの先どうなるかなんて考えないで。今の僕にはグレイス様以外考えられない。本当に····本当に愛してるんだ。母親だとか姉だとか、そんな存在じゃないんだ。·····抱き締めて口付けしたいと思うのは恋じゃない?」
「ロシェル·····。」
「まだ2年とちょっとだけど、僕なりに愛を育んできた。グレイス様····愛しています。」
グレイスはロシェルの方に振り向く。
透き通る様な白い肌に、少し伸びた金髪。
そこから見える尖った耳と、光る紫水晶の瞳。
息をのむほど美しい顔が、泣きそうな微笑みを浮かべながらそこに居た。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、本編完結済の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




