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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
24/93

24 病気の治療

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

「グレイスは公爵令嬢なのに、平気で雑用をするんだね。」


サルマの屋敷で暮らすようになって1ヶ月、床を掃き、モップで水拭きして掃除するグレイスを見て、サルマは問いかける。


「フェアノーレで元王太子との婚約が解消され、このルダリスタンに来た時、丁度タンドゥーラ家がリーヴァを預かる事になって。あの頃のリーヴァは母親を亡くし、暗殺者に追われ、孤独な生活をおくっていましたから、私達としても、王位を継ぐ事はなくとも、いい領主になるよう、リーヴァを育てようとしていました。私は彼を支えるべく、行動は常に一緒でした。そしてその教育の一貫として、ある村に1年間滞在することにしたのです。その時の私達は民家を借り、平民を装い、使用人は護衛を兼ねた1人だけを雇い生活していました。その時に、家事や農作業を積極的に行いました。平民の生活を体験する、なんてちょっとどこか上からの目線で始めたのですが、結局始めの方は、毎日毎日疲れて、身体も痛くて、その日1日をやり遂げるのに必死で、何も考えられませんでした。」

「おやおや、グレイスは13歳の頃には王妃教育を終えるほどだったんだろう?よく使用人の生活をしようと思ったねぇ。」

「何事も書物で読むだけでしたから、私もリーヴァも本当の民の生活を理解したかったのです。村の状況をどうにかしようと考えることが出来る様になったのは、半年後でしたわ。」

「何をしようとしたんだい?」

「水ですわ。魔法を使って用水路を整備したのです。それから新しい農機具を揃えました。それだけで、生活が激変しました。貴族の家には、魔法を使える使用人が多くいましたが、村には、簡単な生活魔法さえも使える者がいないのです。教える人間がいないと言いますか····。それから少ない魔力でも使える魔法を教えました。」

「リーヴァの事は話には聞いていた。母親がフェアノーレの王女だったが、ルダリスタンの中では差程の地位もなく。タンドゥーラ公爵家が後ろ楯になり、リーヴァを守ったと。皇后が激しい女だからね。今でも自身の産んだ皇太子の為に、脅威になると判断した者達は、容赦なく暗殺しているだろうよ。」

「リーヴァは強くなりましたわ。」

「グレイス、そなたがリーヴァの妃になったのなら·····。」

「皇后派と戦争になりますわ。ルダリスタンの安定を図るなら、タンドゥーラ公爵家は表舞台に出ない方がいいでしょう。ただし、これ以上リーヴァの命が狙われる様なら、ただでは済ませませんわ。」

「グレイス·····そうか、強くなるのはリーヴァの為でもあるか。」

「私にとっては大事な弟のような存在です。家族ですわ。フェアノーレに戻ることがない今、私の残りの人生をリーヴァの為に役立てたいと、今は思っています。」

「そうか·····。」


グレイスはフェアノーレに戻るつもりはなかった。

特に魔力が安定してない今、フェアノーレにグレイス襲撃の件で戻り、聖女に関わる者達を断罪しようものなら、全てを灰と化す自信があった。


断罪するならもっと残酷な形で····ねぇ、ダリウス····。


グレイスは闇の力が増すのを感じた。


◇◇◇


「サルマ様、こちらの方は?」


グレイスがサルマの屋敷に来て半年が過ぎた頃、屋敷に珍しく来客があった。


「外務卿をしているトレンダー伯爵の奥方のスティナ夫人だ。昔皇宮で私の侍女をしていた事がある。今日は皇帝陛下の遣いかい?」

「はい、サルマ様。皇帝陛下からお預かりしている手紙がありますが、私自身がサルマ様にお会いしたく思い、陛下に願い出たのです。」

「そう、ではスティナの要件から聞こうか?」

「はい·····。」


スティナはグレイスの方に視線を向ける。


「失礼しました、トレンダー伯爵夫人、私はグレイス·タンドゥーラと申します。」

「まあ、あなたがグレイス様でしたか。失礼しました。初めてお会いします。噂に違わずお美しい。」

「有り難うございます。」

「スティナ、訳あってグレイスは今こちらで生活しているわ。私の弟子といった所かしら。話はこの子の前でも大丈夫だから。」

「····はい。大変心苦しいお願いなのですが、私は今病を患っております。治癒魔法は最早効きません。しかし主人や子供は、私の病を治す為に莫大なお金を費やしております。このまま回復の見込みもないのに、借金を重ねてまで生きたくはないのです。サルマ様はこういった、治る見込みのない患者に安らかな死を下さると伺いました。どうか私もその様にして頂きたく。」


スティナは最後の方は、涙ながらに話していた。

怪我は治せる治癒魔法も、多くの病は治せない。

治癒魔法をかけても、痛みを緩和させる程度だ。

闇魔法は、基本的に物質から何かを奪う力を持っている。

それを利用し、病に苦しむ患者の生命を奪い、苦しみから解放する依頼を受ける事があった。

サルマはスティナの身体の状態を透視する。

視終わると、ため息をついた。


「確かに病が身体を蝕んでいるね。血が淀んでいる。伯爵はこの事を理解しているのかい?」

「子供には話していませんが、主人には理解してもらいました。」

「そうかい。よくその身体でここまで来たね。その願い叶えてあげよう。」

「っっ····サルマ様、有り難うございます。」


スティナは涙を流した。


「あのサルマ様、スティナ様、もし宜しければ試してみたい事があるのですが。」

「試したい事?スティナの身体でかい?」

「はい。実は動物や植物で試したのですが、その時は効果があったのです。もう、覚悟をお決めになられていらっしゃるなら、是非一度試させて頂きたいのです。」

「何をするんだい?」

「病の原因となるものを魔力を体内に流し、体外へ押し出します。」

「魔力を流した所で、病は押し流せない。」

「はい、通常なら。サルマ様、私が竜の血の呪いを受けた者から、その呪いを解呪したことをご存知でしょうか?」

「ああ、勿論だよ。ルダリスタンにも古竜を倒した勇者を、魔法を使ってその呪いから救った話は聞こえてきた。それを?」

「はい、同じではありませんが、闇魔法の『奪う』力を利用して、身体にはびこる病を奪う、吸い上げるのです。魔力で押し流しながら、身体から病を奪い、体外へ引きずり出すのです。」

「それは····吸いだした病はどうする?」

「魔石に移し、闇の滅びの魔法をかけて滅します。」

「そんな事が····。」

「私は、古竜の血の魔力を受けたので、難なく行えましたが、おそらく闇の属性の魔力を持った者なら、時間をかけ、上手く魔力を制御出来れば同じように出来るでしょう。」

「それで、病は治るのですか?」

「絶対にとは言えませんが、力を尽くします。」

「スティナどうする?」

「·····治る可能性があるのなら。」

「ふぅ、分かったわ。私も話を聞いただけでは、治るのかは分からない。グレイスが魔法を発動させ、苦しくなり、耐えられなくなったら直ぐに言いなさい。」

「はい、サルマ様。ではグレイス様、宜しくお願いします。」





スティナは冷たい床に横たわる。


「スティナ様、申し訳ございません。魔法陣の中で行いたいので。」

「私の事はお気になさらず。」


そう言って、スティナは優しく微笑む。

スティナの顔色は悪く、口唇にも血色が見られない。

グレイスは一旦心を落ち着け魔法を発動する。

グレイスの目の色が、水色から赤に変わっていく。


それは不思議な色だった。

砂鉄のような黒い粒子が、流れる銀色の魔力の中で踊る。

それらが魔法陣として展開し、やがてスティナの身体を包み込んでいく。

グレイスは同時に透視の魔法も展開する。

スティナの中で巣食う病の影を見る。

スティナに流れる血は黒ずんで見えた。

心臓の1部、脊椎の辺りにも黒い靄が見える。

グレイスはスティナの片方の指先から魔力を体内に侵入させる。

グレイスの魔力がスティナの身体をゆっくり巡っていく。


魔法に大事なのは、イメージだと言われている。

魔法陣が道具なら、それを動かす動力源が魔力。

そしてそれを操作するのが、術者のイメージだ。

この3つが揃って魔法の効果を発揮する。

更に、その道具である魔法陣が展開するには、適した魔力がある。

闇の属性の魔法は、解毒を行う場合には効果的だ。

その解毒のイメージをもって病を身体から引き剥がしていく。

心臓の黒い靄は詰まりの一種。

そして脊椎にあるものが、病気を引き起こす病原体。

グレイスは集中する。

吸い出すイメージで取り除く。

スティナの逆の手の指先から煙が出る様に、黒い靄が出ていく。

グレイスはそれを、魔石に吸収させる。

それと同時に、白い魔石は黒ずんでいく。


どのくらい時間が経っただろう。

展開していた魔法陣が光を失い、消失した。

グレイスはすっかり真っ黒に変色した魔石に、滅びの呪文をかける。

魔石は灰となり、消失した。


「終わりました。」


グレイスはそう告げる。

スティナはゆっくり目を開け、身体を起こす。


それは誰の目でも分かった。

スティナの顔色は良く、どこか若返った様にも見える。


「·····身体が軽い····。」


スティナは始めにそう呟いた。


「これは驚いたね。どうやらグレイスの魔法は成功したようだ。」


「ああ、身体が嘘の様に楽だわ。本当に····グレイス様、有難うございます、有難うございます。」


スティナは涙を流し、グレイスに感謝する。


「成功したみたいで良かったです。」


グレイスも微笑み返す。


「これは闇の魔法の聖女の誕生だね。」


サルマも満足そうに微笑んだ。


数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、本編完結済の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

番外編も投稿始めました。

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