22_魔族の魔法
「へー、で、その武器が人化したと!へー!!絵画魔法で!?やっべ!」
リヒテルはノリノリであった。
で、ディアに人化してくれ、とか言っていたが全然出てこない。聞こえてるはずだが。シャイなんだろうか?
「で、他にも色々あったよ。騎士団の後輩の別人格が魔族みたいな黒の真言の幹部だったり、そいつからお前は仲間だ、覚えてないのか?的なこと言われたりとか」
俺は超ざっくりと説明した。そう言ってる間もリヒテルは何かの本を読んでいる。同時に召喚獣で俺にお茶を入れてくれた。
「へー。やっぱお前の魔力病って元々持ってたモンだったの?」
リヒテルが普通のテンションに戻り相変わらず、本を読み紅茶を飲みながらそう言った。
「やっぱ?お前予想してたわけ?」
「……ああそうだな。ショックだろうと思って言ってないけど、ありえないんだよ。儀式も心臓の移植もなしに魔族の魔力になるってことがな。僕は魔力病は素質のある者が魔族に目覚めた、ってことだと思ってるから」
「素質のある者、とは?」
「うーん、例えば子孫とか?」
ま、そういうことかい。俺は孤児だ。もしかして魔族の子孫なのか?
「言っとくけど、僕は先生から何も聞いてないからな」
リヒテルにそのように先手を打たれた。
まぁそうだろうな。俺はふうっとため息をついた。話題を変えよう。
「ああ、そういや前聞きそびれたんだ。黒の真言の連中が魔人を作るために、かくかくしかじかの儀式をしてた、ってのは何となく言ったと思うけど」
俺は気になっていることがあったのだ。
「ん?ああ。確か前来た時にアイツらが襲ってきた後、そんな話になったな。それが何か?」
「そのときの儀式の内容はかくかくしかじかだというのは何となく言ったけど、そのときアイツらが何ともヤバそうな腐った肉のようなものを出してきたんだよ」
そうだ。あのとき色々あったが、もっともヤバそうな気配を感じたのがあの肉だ。
「腐った肉……だと?」
急にリヒテルは神妙な面持ちになる。
「――心当たりがあるのか?」
「ある」
「呪化した、災厄の黒龍の心臓だよ」
俺はごくり、と唾を飲み込んだ。
◇
龍
この世で最も甚大な被害をもたらす災厄。
かつては人がその怒りに触れ、大陸一つが焦土と化したこともある。いつから存在するのかも分からない。魔獣の一種とも言われているし、別の何かだと言う者もいる。
その中でも災厄の黒龍は最上位の存在であり、大陸一つを一日で余裕で滅ぼす力を持つと言われている。
第二次人魔大戦は人対魔獣の戦争だったが、その戦争の「魔」側の主役は龍である。
だが、賢者アルデハイム・・・先生がそれを死闘の末に討伐したのだ。引き換えに力の大半を失ったらしいが。
「その後、どうなったか知ってる?」
リヒテルはさも面白そうにそれを口にした。全然俺は面白くなかったが。
「魔獣が強い怒りや恨みを持って苦しんで死ぬと、呪化して手が付けられなくなるってことは知ってるか?さすがに」
俺は馬鹿にされているような気になりながらも黙って頷いた。
呪化した魔獣は厄介だ。この間なんて、たかが猪型魔獣一体のために騎士団の小隊が三隊も出撃する羽目になり、そこそこ痛手を負った上に、町が一つ壊滅し、呪いの穢れで住めない土地と化した。なので、騎士団のマニュアルでは、魔獣は一息で殺す。無理なら何もしない、ということが徹底されている。
呪化の厄介な点は不死身になる点と、呪いの毒をまき散らす点だ。
対処法はある。希少な聖属性の魔法を使えば、呪化した魔獣は浄化されて死ぬ。
だが、光属性の亜種である聖属性の魔法を十分に使える者は非常に少ない。
対応が遅れると、人が住めるまでに十数年を要する呪われた土地の出来上がり、という訳だ。
「で、災厄の黒龍が呪化して、今でも存在しているっていうのか?恐ろしすぎるだろ、それ」
「ああ。本当に恐ろしい話だ。だが、おそらく事実だ。先生は、三日三晩の死闘で黒龍を追い詰めたが、殺しきれなかったんだ。だから、弱らせてから神級の結界魔法で封印したというのが、国家が隠している事実なんだよ。で、封印されてた黒龍は、ゆっくりと苦しみながら死に向かってゆく過程で、呪化した。辻褄は合うだろ?」
「で、それを利用している連中がいる、と」
「ああ。考えたくはないがな。でも、呪化した災厄の黒龍の心臓だったら、魔族の心臓で造るよりも、強い魔人を造れるかもな」
俺は恐ろしさを感じた反面、焦りも感じた。奴等は強い。
「なぁリヒテル、俺ってまだ強くなれるのかな?」
俺はリヒテルに単刀直入に尋ねた。
「……うーんどうだろうな?お前は努力の極限まで努力してたからな。あ、でも待てよ?アプローチを変えればいけるんじゃね?」
アプローチ?
◇
そう言うと俺はまたリヒテルに、謎の機械で全身を調べられた。
「あー結果を言うぞ。お前は人間の魔力のときは地属性が得意だったけど、魔族の魔力に目覚めてからの結果は光属性と闇属性の二属性持ちだったわ」
え?まじ?得意属性変わってんの?
地・水・火・風・光・闇・汎用・特殊
この世界の魔法は一応この中のどれかに分類される。汎用魔法は誰でも使えるが、それ以外の強力な魔法は得意属性の魔法以外使えない。俺は人間の魔力を使っている頃は、地属性魔法と身体強化の汎用魔法を組み合わせて闘うのが常であったが、魔力病になってからは、身体強化の汎用魔法しか使っていない。まぁあと魔弾とかは汎用魔法の範疇だがアレは武器の機能に近い。
「よくわからんけど、今ってその武器のサポートで魔族の魔力を使ってる状態だろ?その辺を自覚的に使ったら、まだ強くなれるんじゃねぇの?」
「なるほど」
「この本貸してやるよ。ま、古い本だし入門書じゃないから使えるかわからんけど」
その本のタイトルは「魔族の生態と魔法の体系」とかいう何とも分厚い古めかしい本であった。
「で、あとは当時のことに詳しい知り合いがいるだろ?聞きながらやってみたら?」
あ、そうか。
◇
俺は自室に戻って魔族の魔法の本を読んだ。うーん、奴等と相対したときも思ったけど詠唱が独特過ぎるんだよなぁ。
「大地よ。我が力となりて敵を穿て。ストーンバレット!!」
とか言うのが普通なんだけど奴等の詠唱は三文字くらいで上記の全文を読み上げちゃってたイメージだ。最早違う言語のように思う。
「ディアよ。どう思う?」
俺は人化したディアに尋ねた。
「そうですね。あの言語を一から覚えるのは、ちょっとこの世界では情報不足かもしれません」
ああそう。まぁそりゃそうかもなぁ。
「なので無詠唱の光魔法と闇魔法を練習されてはいかがですか?」
「無詠唱?そんなんできんの?」
無詠唱の魔法なんて天才にしかできない筈だが。それこそリヒテルとかリタとか。
「魔族の魔力を持っていればできますよ。威力は落ちますけど十分戦闘の役に立つと思います」
◇
「閃光!!」
俺のその言葉とともに、一瞬光が起きた。
「うーん。ちょっと光ったけどあんまり感じんなぁ」
「じゃあ次は闇属性いってみます?」
ディアが意外とノリノリでそう言った。
俺は魔力を練って、丹田から手に移行。それを増幅して解き放つイメージを頭の中に作った。
「重力増加!!」
ズンッ!!という音と共に練習用に置いた岩石が少し地面にめり込む。
「おお、こっちはまぁまぁだな!」
「どうやらエイス様は闇属性の方が得意だったみたいですね。心に闇を抱えているだけに」
……?まさか冗談か?
もしかして最近元気ないって言われたから気を使われているんだろうか?
「あーありがとう」
「……?何故ありがとうなのですか?」
違ったか。噛み合うようで噛み合わない。
「あの山羊を吹っ飛ばしたのって光魔法とか言ってたよな?」
俺はダンジョンに穴を開けたあの一撃を思い出してそう言った。
「ええ。極光銃ですよね?あれは持ち手の得意属性と状況を分析して、無理矢理私がエイス様の魔力を引き出してやったものです。もし、エイス様が炎属性が得意だったら火炎魔法みたいになってたでしょうね」
なるほど。面白いな。同じ武器でも得意属性に応じて発現される力が変わる訳だ。
「ん?てことは闇属性の力をああいう風に解き放てたりもするわけ?」
「できますよ」
よし、試してみよう!!
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