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21_数日後③

【side:黒の真言】


山羊は黒の真言の最重要拠点に向かっていた。

その拠点の最深部の地、彼らにとってもっとも重要なモノが封じられている場所だ。


山羊一人ではない、もう一人巨躯を持つ男が山羊に並んで歩くような形で、そこに向かっている。


おそらく2メートル以上はあろうかというその上背に、ミスリルの原鉱石のような筋肉が無造作に搭載されているようなその肉体は、とてつもない迫力があった。世界最強の7人、七天星にして、騎士団長のエックハルトについても、似たような体格を持っているが、筋肉の量でいうとエックハルトを上回っている。


並んで歩く山羊が瘦せ型であることもあり、何ともアンバランスさを感じさせる。


大男の特異な点は、肉体のみではない。

腕や脚等、服を着ていない部分が緑色の鱗に覆われているのだ。そう、まるで爬虫類のように。


「つ、つ、ついたぜ」

山羊が、その大男に対して声をかけた。


そこは、何とも気味の悪い場所であった。

誰もいないのに、何かジメっとした生き物の空気があると同時に、邪教特有の呪術的な暗さを感じさせる。


「――こいつが、お前らの御本尊かい?」

大男は山羊に声をかけた。

『こいつ』とは大男と山羊の視線の先にあるものである。


それは、とてつもなく大きい何かの生き物の死骸であった。その周りを諸々の強固な結界で封じ込めている。だが、死骸のようでもあるが、どことなく動いているようにも感じさせる、独特の迫力があった。この場の空気感をどこか濃くしたような、瘴気のようなものをそれは放っていた。


「あ、ああ、こいつがそうだ。こいつのおかげで、『黒の真言』は『黒の真言』でいられるんだ」


山羊は山羊の仮面をとりながらそう言った。


「で、何なんだコレは?」

大男が野太い声で、山羊に尋ねる。


「災厄の黒龍って知ってるか?」

山羊は、明け透けな感じでそう言った。


「さすがに知っているさ、その点は、有名というか伝説じゃねえか。賢者アルデハイムに83年前に討伐された大陸を滅ぼせるとかいうアレのことだろ?」


「ああ、それがコイツだ」


「……あ?んな訳ねえだろ?災厄の黒龍は討伐された後、念には念を入れてその躯が幾千にも砕かれて、各地で封印されているって話じゃねえか?」


「そりゃあ嘘だ。現にここにあるんだからな」

山羊は笑って言った。


「ふーん、ま、いいけど。で、オレはここで何をすりゃいいわけ?」


「簡単だ。アレの肉を食って真言を唱えればオレ達はもう仲間だ。ここにもう準備してある」


「……え?喰うの?それ必要か?何か意味あるのか?」

大男はあからさまに嫌そうな顔をした。


「儀式だからな。まあ、食ったら色々なことが『解る』ようになるんだ。便利だろ?ゲギャギャ!!」

山羊の男は独特の下品な笑い声をあげた。


「わかったよ。やってやるよ」


「よろしくな、『サラマンダー』よ」


そう言うとまた、美しい端正な顔を歪め、山羊は笑った。


その異質な空間に山羊の笑い声がこだましていた。



【エイス視点】


「つまりだ、最終魔導兵装シリーズとは、武器自体に人の魂を宿し、通常成しえない奇跡を起こす悪魔兵器であると、そういうこと?」


「ええ、悪魔兵器とか呼ばれるのは心外ですがそういうことです」


「じゃあ、今俺の目の前にいる君は……」


「この武器に魂を宿す前の姿を、質量をもった絵画魔法で再現したものです。いまのこの私の絵の中心部にはあの銃剣が浮いていることになります」


とんだトンデモテクノロジーである。

というより、第一次人魔大戦の後期っていうのは色々と凶悪すぎないか?武器に人の魂を宿すとか、それを使うために人に捕虜でとして捕らえた魔族の心臓を移植するとか。人間としての心を失ってるだろ、それ。


「……エイス様が考えていることは、おおよそ想像がつきます。やっぱりエイス様はお優しいのですね。でも、戦争だったから仕方がないのです」


そう悲しげに、儚げに笑いながら言ったディアこと美少女の微笑みは、本当に魅力があった。リタとも白狐ともまた違う、優し気なニュアンス。

余談だが、俺の中の三大美女は、一度だけ会ったことのあるセシリー王女。そしてリタ(白狐)、あと一人は孤児院の幼馴染であったベアトリーチェ。そのあたりだ。まあ、リタと白狐を一人としてカウントしてよいかは微妙だが。


明らかに、このディアはその中に食い込んでくるだけの器量があった。

透明感のある、濃紺の髪に澄んだ眼差し。そして、絵画魔法なんだろうけど女らしい肢体。


おし、これからは三大美女改め、五本指としよう。


「エイス様、絶対今、しょうもないこと考えてますよね?」


「いや、しょうもなくないよ。とてつもなく重要なことだ。俺にとってはな」


いや、本当に。


「エイス様は実は女性がお好きですからね。その部分に関しては心が捻じ曲がって、こじらせておいでですが」


「……その敬語と端正なルックスで、そういう心抉る系のことを言わないでくれ」


「そうですか。事実を申し上げたのですが、失礼いたしました。以後気を付けます」


さりげなく事実とか言って、また抉りやがった。


「……まあそれはいいとして、何でまた人の姿になって出てきてくれたんだ?」


「これからエイス様は忙しくなると思います。戦闘面以外でも、何でも、使い手をサポートできる点はサポートするのが最終魔導兵装たる、我々の使命なのです」


「……へえ?いま何でも、って言ったよなあ嬢ちゃんよ」

俺はあえてゲスな笑みを浮かべてそう言った。


「……エイス様がそれを望むのなら、それも私の役割です。実際、戦場というのは修羅場です。私の仲間は、戦場で友を失った使い手を慰めるために、そういう行動をとっていましたから」


……まじ?


「いや、まあそれは冗談だよ。さすがに抵抗あるだろうし。俺は紳士だからな」


そういうとディアは、口を押さえてクスっと笑った。


「ふふ、エイス様はそう仰ると思っていました。でも、本当にどうしようもなくなったら仰ってくださいね。白狐に会ってから、エイス様はどこか以前にも増して、孤独で辛そうですから」


……そうなのだろうか?自分ではよくわからないが。まぁ実際のところそうなのかもしれない。俺は自分が何者なのか分からなくなってきた。きっと俺が失っている、という記憶に鍵があるのだろうけど。


「ありがとう。でも大人ってそういうもんなんじゃないか?」

俺はどこかで聞き齧ったようなセリフを吐いた。


すると、ディアは優しい眼差しで、俺の手に、その手を重ねた。


「エイス様は、他人を救うだけでなく、どこかでその苦しみから救われて、報われるべきなんです」


その言葉と仕草に俺は心の中の凍てついた何かが照らされたような気持ちになった。いや、それどころか年甲斐もなく、少し胸が熱くなった。


そうなのか?


確かに俺は自覚していなかったが、自分の心の中に何かぽっかり空いた、冷たい黒い孔のようなモノが最近垣間見えるようになった気がする。いや、それはずっと俺の傍にあったものだが、白狐に会ってから以前より目につくようになったようだ。


俺も、救いのようなものを、求めてもいいのだろうか?


でも……俺より苦しんでいる人々なんて腐るほどいるだろう。兵器にされたディアだってそうだし、エックハルト団長にしても色々あるだろう。リタだって若くして隊長で大変そうだし白狐だって色々苦しんでいた。


みんな苦しんだり悲しんだりしてる。別に俺なんぞは後回しでいいだろう。


と、ドアをノックする音がした。ん?何かイヤな予感がする。


「エイスせんぱーい!!お手伝いに参りました!上がらせていただきます!」


あ、やばい。リタだ。


ガチャ。


「あ」


「あら」


その後、当然だが気まずい空気が流れた。



色々とちゃんと説明して、ふくれたリタの機嫌を直してもらうのにそれから圧倒的な労力を要した。最終魔導兵装がどうのとか、第一次人魔大戦がどうのとか。誰かが聞いたら、女の子と部屋にいる言い訳をしているとは思わなかっただろう。最終的に理解してもらえたからいいものの、正直とんでもなく疲れた。


まぁ……そりゃそうだろな。自分の家になる場所によく分からん女がいたんだから。自分が逆の立場だったらちょっとはイヤな気持ちになると思う。


しかしまぁややこしくなってきたな。二重人格少女に最終兵器と同棲か。数ヶ月前の俺は、この展開を全く予想していなかっただろう。


人生とはちょっとしたことで大幅に変化するものである。そう思い、俺は今度こそ平和な朝を迎えるために、眠りについた。

ここまでで第一部完結でございます。お付き合い頂いた皆さん本当にありがとうございます。


いま第二部のストックはちょっとはあるのですが更新はもうちょい貯めてからの方がいいのかな、と。なので、更新ペースはゆっくりになったり急に早くなったりという感じになるかと思います。


状況としてはそんな具合でございます。(背中を押して頂ける方がいらっしゃいましたら更に頑張れると思います笑)

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