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魔王放浪記

セイルさん視点です。

 



「それでね?聞いてよセイルさん!父さんったら駄目だの一点張りよ?もうやんなっちゃう!」

「あはは、それで親父さんいつもより機嫌が悪いんですか。」

 料理の盛った皿を俺のテーブルの前に置きながら此処の看板娘である少女エミリーは不機嫌そうに愚痴をこぼしている。




 此処は大きな大陸の南西に位置する王国セルビナ。

 国は小さいが緑豊かで食べ物が美味いと有名だ。

 王都では年に一回国を挙げての料理大会も開かれるほどで、城下町には腕自慢の料理人が集まっているのだとか。美食家は必ずこの国を立ち寄るようで、かく言う俺もその一人だったりする。

 この定食屋は城下町でも冒険者しか知らない穴場らしい。

 と言うのも、冒険者ギルドが近くにある為客の多くが冒険者。冒険者には粗暴の悪い者もいる為、他の一般客があまり寄り付かない。そうなると、冒険者内でしか広まらない。

 一般では広まって無い為、味は美味いのに勿体無い限りである。

 此処を見つけたのも奇跡に等しい。腕自慢の料理人の店を軒並み回ってもう食べつくしたかと王都を発とうとしたところだった。冒険者達が話す内容を偶然耳にして興味が惹かれて行ってみたんだ。

 今では常連にまで通い詰めるとは、うん、まあ仕方ないな。味、美味いし。

 あの厳ついおっさんの手から作られてるのには吃驚するがな。

 ホント、此処を見つけた俺は運が良いらしい。

 それに気になることもあるし。



「まあ、親父さんの気持ちも分かってあげて下さい。宮廷魔術騎士団は王宮の花形とも言える組織なんでしょう?貴族や王宮のごたごたにも巻き込まれるでしょうし。それに最近は地上界の魔王が暴れだしたって話も聞きますし。」

「そうだけど・・・・ん?チジョウカイ?」

 おっと、ヤバいヤバい。

 ここでは使わない言葉だったな。

「あ・・・・いや、まあそんな危ないところに一人娘を入れるのは心配でたまらないんですよ。親父さんは。」

「うぐぐ・・・・。」

 俺の言葉に反論できなかったのか、眉根を寄せて唸る少女に笑いがこぼれる。


「何だ。エミリーちゃんまだ宮廷魔術騎士団に入るの諦めてなかったのか?」


 少女が唸っていると、隣から豪快な笑い声が響いてきた。

 振り向くと隣のテーブルには真昼間からお酒を煽る髭もじゃの大男とひょろっとしてまさに魔法使いと言ったいでたちのおっさんがガッツリ定食を食べていた。


「あ、マリクさんにガフさん。」

 エミリーが二人のおっさんの名前を言う。

 髭もじゃの大男はガフでひょろっこい魔法使いはマリクと言っていた。

 この二人は結構名の知れたコンビらしく、周りには秘密にしているが固有スキルのステータス閲覧で見たところレベルもスキルもそれなりに高いことが窺えた。

 俺が二人の事を観察していることも知らず(いや気にしていないのかもしれない)に大男のガフは酒を片手に盛大に笑っている。


「ガハハハ、止めとけ止めとけ。あそこは入るのも難しいが入った後も三年から五年ほどの見習いを経て試験に合格して初めて宮廷魔術騎士団に入れるって言うじゃねえか。しかも、試験には武術や魔法以外にも教養も必要だって話だろ?平民には無理だろ。」

 ガフが豪快に笑いながらお酒を一気に飲み干す。

「むぅ・・・それでも、私は入りたいです。」

 むすっと膨れた面をガフに向けながらエミリーは文句を垂れる。

 頑固な少女にどうしてそこまで入りたいのかと疑問に思った。



「どうしてそんなに宮廷魔術騎士団に入りたいんですか?」

「どうして?」

 俺の声にピクリと反応した少女は俯いていたかと思うとばっと顔をあげて捲し立てた。



「そりゃあもちろん!!憧れのリンダ第一副隊長に憧れてですよ!!女性初若くして副隊長まで上り詰めた女傑ですよ!!!女性の憧れ!!」

 余りの勢いにポカンと呆けてしまった。

 ガフやマリクも一瞬ポカンとしたがまた笑い出す。


「そう言えば彼女が副隊長に就任した時は随分と騒がれたね。騎士団内の女性の割合が少ない上に女性初の幹部入りだったしな。城下の警備の徹底や女性による小隊の結成や騎士団の一部の規則の改革なんかもやっているとかって噂だし。さらに、貴族出身ではないから国民の支持率も高いとか。」

「へえ、そんな方が居るんですね。」

「そうなの。リンダ副隊長は凄くかっこいいんだよ!!先月も城下町に入り込んだバーサークベアを得意の槍術で一突きだったんだから!!はぁ、憧れるなぁ。」

 エミリーが目を輝かせながらその副隊長の事を褒めている。

 その勢いに俺もガフもマリクも呆れた笑しか返せなかった。


「でもありゃあ貴族じゃねえつう言ったって、どこぞの伯爵様の庶子って話じゃねえか。やっぱ平民にゃあ無理だろ。」

「ムッ、そんなことやってみなきゃ分からないじゃない!!」

「まあまあ、エミリーちゃんのやりたい様にやれば良いんじゃないかな?結局決めるのは本人なんだから。まあでも、魔法使いなら冒険者の方がお勧めなんだけどな。大抵は貴族出身の魔法使いが宮廷魔術騎士団に入るし。平民出身だと色々と堅苦しいみたいだよ。魔法使いなら冒険者の方でもいいと思うんだけどなぁ。」

 マリクが何気に冒険者の方を推しているが、エミリーは眉間にしわを寄せて膨れている。

 どうやら彼女は頑固のようだ。


 若いなぁ。

 まあ、十歳だし若いのは当たり前だけどな。



「私、第三師団じゃなくて、リンダ副隊長の居る第一師団に入るつもりだよ。」


「「はぁあああ!!??」」


 エミリーの言葉にガフとマリクは声を合わせて叫ぶ。

 彼女の言う内容が良く分からず一人首を傾げていたが、二人があまりにも驚くので俺はそのことに少々驚いた。



「エミリーちゃん、言ってる意味わかってる?第一師団って言ったらエリートの部隊じゃないか。武術特化の第二師団や魔法特化の第三師団と違って、あそこは武術・魔法共に優れていないと入れないんだよ?しかも、王族を警護する近衛隊も入っているから一層厳しいって話だ。」

「むぅ、わかってますよ、それくらい。でも、目指すなら目標は高く持たなくちゃ!!」

 意気込むエミリーだが、マリクの説明だと第一師団に入るにはそれなりの腕が無いと言うことだ。

 流石にその目標は高過ぎだと思うんだが。

 

「いや、目標を高く持つのはいいんだけど、人には向き不向きってのがあるんだよ。エミリーちゃん。」

「おうおう、そうだぞ。第一師団は魔法だけじゃなれねぇ。武術も身につけなきゃならねえんだぞ。剣や槍を振ったことの無いエミリーちゃんにゃあ無理だと思うがね。」

「むぅ、そんなのやってみなきゃ分かんないじゃない!!もしかしたら隠れた才能があるかもしれないし!!」



 あ、それは無いな。

 彼女のステータスを見たところ武術系の才能は皆無だったからな。

 魔力量はさほど多くも無いが、魔法の才能には秀でているんだがな。意外と少ない魔力制御と言うスキルも持っているみたいだし。

 魔法特化の第三師団にならは居れると思うんだがな。


「否、無いだろ。」

「それは無理があるよ。」

 二人も即座に否定したみたいでエミリーは不貞腐れていた。

 その事に少々可哀想になったのでエミリーにフォローを入れてあげる。


「まあまあ、目標を高く持つのは良いことですよ。私は夢見るくらい良いと思いますよ?」

「・・・・褒めてるようでさりげなく貶してませんか?」

 睨まれてしまった。

 失敗したようだ。







「捜しましたよ、閣下。」


 不貞腐れていたエミリーの頭を撫でてやっていると、入口の方からよく聞く凛とした女性の声が聞こえてきた。


 ああ、迎えかな?


 その声で一気に店内は静まり返る。

 まあ、それは仕方がない事だろう。

 此処では彼女はとても珍しい種族なのだから。



「あれ?サラ、来てたんですね。」


 入口の方へ振り返れば、予想通り背中に翼を生やした軍人風の美女が佇んでいた。

 俺の部下であるサラは何時もの様に仕事から抜け出してきた俺を迎えに来たのだろう。

 何時もはサラが来る前に帰っていたので此処で鉢合わせることが無かったのだが今日は長居しすぎたようだ。


 面倒事は避けたい為、彼女が此処に来てしまった以上当分は此処へ来るのも控えないといけないなとため息が出る。

 そこ傍らで小さくつぶやく声が聞こえた。


「え・・・・てん、し?」


 エミリーの微かに呟く声に、ああ、やっぱりなと納得してしまった。



 やっぱり、彼女()転生者なんだな。


 この世界では何故か悪魔と言う言葉はあるのに天使と言う言葉は無かった。

 まあ、天使のイメージが鳥の獣人そのままだからじゃないかとは思うのだが。そこはもう世界の違いと言うことで納得しておく。

 そんな訳でこの世界の住人の口から天使なんて言葉が出ること自体がおかしいのだ。

 だから、やっぱりと思った。

 エミリーを疑ったのは丁度この店を知るきっかけを作った冒険者達の噂でもあった。

 冒険者内でも一二を争うほどの定食屋の看板娘は最近魔法の才能を開花さているのだとか。幼いながらに有名どころのフェイダルの理論を理解したり、マイナーだが再現の難しいエンジュの作品を作れるらしい。などなど。

 まあ、普段なら天才児かと受け流せるのだが、今回はそうも言ってられない。

 参考になっている人物が転生者ばかりなのだ。

 単なる偶然か、それとも意図的に転生者のものを?

 その子供に興味を持ち、それとなく少女と仲良くなってみた。

 結果、少女も転生者だった。


 また転生者に会えるとは。

 数年、否、数十年ぶりか?



 俺が笑ったことに気付いた少女は不思議そうに此方を向いた。

「彼女は鳥の獣人ですよ。」

 俺の答えに成程と頷いたエミリーはそのままサラの背中の羽へと視線が釘付けになっていた。


 ああ、うん、獣人ってあっちでは架空の生き物だし、珍しいもんな。

 俺もこっちに転生した時興奮したなぁ。


「いつもの時間になっても帰ってこないので心配しましたよ。」

「ああ、うん、すまないね。」

 一応謝罪してみるが俺に向ける鋭利な視線が、別に心配してないが時間には這いずってでも守れと訴えているのは決して気のせいではないのだろうな。

 サラは仕事中毒だしな。

「午後から会議が入っていることを忘れてはいませんよね?」

「あ~・・・・っと、え、ええ、忘れてません、よ?」

「・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・はぁ。」

 ため息を吐かれた。

 流石にちょっと傷つきますよサラさん。

 ま、自業自得なんだけどな。


「閣下、そろそろ時間です。」

「それでは、迎えも来ましたし失礼しますね。エミリーちゃん、御馳走様。」

「あっ!!ありがとうございました!!」

 俺達の会話中ずっとそわそわとサラの羽を見ていたエミリーは、俺の言葉にハッとして慌てて見送ってくれた。

 そんな少女の行動が面白くクスリと笑いながら俺達は店を後にした。



 暫くは面倒だから寄れないが、偶に彼女を見に行くのもいいかも知れないな。









***





 彼らは知らない。

 この世界には三つの大陸があると言うことを。



 此処は、人間や翼の無い獣人、エルフなど様々な種族の住む大陸。

 俺達は此処を地上界と呼ぶ。

 しかし、地上界では他の大陸は幻とされている。

 それと言うのも、残り二つの大陸は極めて特殊な場所にあるからだった。

 一つは人魚や魚人など水中で呼吸できるものしか住めない深海深くにあるとされる海底界。

 もう一つはドラゴンや龍、翼のある獣人など空を飛ぶものしか住むことの出来ない雲よりも上にあるとされている天上界。

 どちらも地上界の者には容易に辿り着けない場所の為、存在しないものと認識されていた。


 この三つの大陸にはそれぞれ魔王と言う者が存在する。

 各大陸に漂う魔力を取り込み調節する魔の王。

 地上界以外の者には、それぞれ天上界を統べる天魔王、海底界を統べる海魔王、そして地上の魔物を統べる獣魔王と呼ばれていた。



 地上界の者は知らない。

 否、忘れてしまった。

 数千年と遥か昔、大陸同士の戦争により不可侵条約を結んで以来表立った交流の途絶えた二大陸があるということを。

 そして密かに地上界に降りてきている者もいることも。

 






 とある国の首都にある小さな定食屋に時折訪れては定食屋の娘に愚痴を吐く(と言うよりかは吐かれる)謎の美青年セイルは、その大陸の一つを統べる天魔王だった。

 また彼は、千年前に此方へ転生した転生者でもある。





天魔王セイル:天上界を統べる魔王閣下。二・三千年は生きる竜人だが、人であった記憶がある為千年も齢を取ると老人かなと思っている。転生者。千年前なので記憶も曖昧になってきている。表裏の性格が激しい。



ちょっとしたおまけin帰り道


 それにしてもフェイダルやエンジュの名前を久々に聞いたな。

 エンジュは、百年前だったか?もう生きてはいないか。

 フェイダルは確か四・五十年前だったな。あの時はまだ少年だったはずだから今はもうおっさんかぁ。

 時が流れるのも早いもんだな。


「閣下。今日の議題は獣魔王についてです。」

「ああ、もうそろそろですか。」

「調査したところ、獣魔王の魔力狂いも悪化しているようです。」

「となると、地上界へと行き来の規制も厳しくした方がいいですね。」

「地上界へ移り住んでいる者はどうしますか。」

「夫婦や一緒に住んでいる者には仕方がありませんね。地上界の者に天上界の事を知られる訳にもいきませんし、身を潜めると言うことで。」

「分かりました。」

「それにしても、何故地上界の魔力はこんなにも狂い易いんでしょうかね。獣魔王の交代も私が生きている間でこれで三度目ですよ。」

「さあ、私は知りません。」

 バッサリ切られた。

「・・・・ああ、うん、そうですね。・・・・レヴィアタンの方はどうなんでしょう?」

「海魔王は新薬の実験に精を出しているようですよ。」

 何気なく言った言葉に至極当然のことのように答えが返ってきた。

「え?何で知ってるんですか?」

「閣下が抜けだしている間に封書と一緒に紫色の液体の入った小瓶も添えられて送られてきたので。」

「・・・・・・そうですか。」

 海魔王である彼女は偶に新薬と称した危険物を送りつけてくることがある。

 被害に遭うのは大抵彼女の部下と俺。

 勘弁してくれとため息を吐きながら俺は天上界へと還るのだった。



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