プロローグ
ミナミの勤務は、夜十一時半までだった。
本来なら、交代さえ済ませればすぐに帰れるはずだった。
レジの締め作業はほとんど終わっていたし、棚の商品もそれなりに整えてある。ゴミ箱の袋も交換したし、冷蔵ケースの前に落ちていたレシートまで拾った。
これなら十分だ。
少なくとも、ミナミはそう思っていた。
時計を見ると、十一時二十四分。
深夜担当が時間どおりに来てくれれば、余裕を持って着替えられる。
駅まで走らなくてもいいし、店の前で少しくらい息をつく時間もある。
もしかしたら、帰りに温かいミルクティーを買う余裕だってあったかもしれない。
ミナミはレジ横に置いた鞄へ、ちらりと目を向けた。
そのとき、自動ドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
考えるより先に、いつもの挨拶が口から出た。
入ってきたのは、ついさっき会計を終えて店を出た中年の男だった。
手には、ミナミが袋に入れた弁当が下がっている。
男は申し訳なさそうな顔でレジへ近づいてきた。
「あの、すみません」
その言葉から始まる客の頼みは、たいてい面倒なものだった。
ミナミは営業用の笑顔を崩さなかった。
「はい、どうされましたか?」
「これ、別のものに替えてもらえますか?」
男が袋から弁当を取り出した。
「さっきはこれでいいと思ったんですけど、よく考えたら辛いものはちょっと……」
ミナミは弁当とレシートを確認した。
包装は開けられていない。
交換そのものは可能だった。
可能ではある。
「はい、大丈夫です。交換される商品をお持ちください」
「ああ、ありがとうございます」
男は再び弁当売り場へ向かった。
ミナミは小さく息を吐いた。
仕方のないことなのは分かっている。
包装も開けていないし、レシートもある。店の決まりとしても問題はない。
それでも、どうして今なのだろう。
買ってから十分も経っていない。
その間に気が変わったのかもしれないけれど、どうしてよりによって、ミナミが上がる直前に変わるのか。
男は弁当の棚の前に立ち、いつまでも悩んでいた。
一つ手に取っては戻し、別の商品を裏返して表示を読み、また最初に手に取った弁当へ戻る。
ミナミは時計を確認した。
十一時二十七分。
――お願いだから、もう何でもいいから選んで。
辛いものが嫌で交換に来たはずなのに、どうして辛口チキン弁当をいつまでも眺めているのかも分からない。
いっそ最初から食べたいものを決めてから、レジに来ればいいのに。
もちろん、口に出せるはずはなかった。
客は客で、ミナミはアルバイトだ。
お金をもらっている以上、親切にしなければならない。
それくらい分かっている。
分かってはいるけれど、腹が立つものは腹が立つ。
男がようやく別の弁当を持って戻ってきた。
交換処理を終えたころには、十一時半を過ぎていた。
「ありがとうございました」
「いえ。お気をつけて」
男が店を出ていく。
ミナミは笑顔を消し、レジの下に隠していたスマートフォンを取り出した。
十一時三十二分。
深夜担当はまだ来ていない。
「何なの……」
遅刻は今日が初めてではなかった。
深夜勤務を担当している大学生は、普段から三分、五分くらい平気で遅れてくる。
本人は、その程度を遅刻だと思っていないのかもしれない。
けれど、ミナミにとって五分は長かった。
終電が迫っている日は、特に。
店長に相談したこともある。
交代の時間を、少しだけ早めてもらえないかと。
店長は困った顔をして言った。
『夜勤の子も学校があるから、少しだけ分かってあげて』
そんなふうに言われると、それ以上は何も言えなかった。
大学生にも学校がある。
ミナミにだって学校はある。
それなのに、どうしていつも理解する側になるのは自分なのだろう。
自動ドアの向こうを睨んでいた、そのとき。
飲料棚の前から鈍い音がした。
ゴトン。
続いて、プラスチックの蓋が床を転がる音。
ミナミは振り向いた。
若い女が、床を見下ろしたまま固まっている。
手から落としたカップ飲料が、床いっぱいにこぼれていた。
茶色い液体と氷が、タイルの隙間へ広がっていく。
「すみません!」
女が慌てた顔で言った。
「大丈夫ですよ」
大丈夫ではなかった。
それでもミナミはレジの外へ出た。
「お怪我はありませんか?」
「はい、私は大丈夫です。本当にすみません」
「足元、滑りやすくなっていますので気をつけてください」
ミナミは清掃道具を取りに行った。
女は何度も謝った末、結局何も買わずに店を出ていった。
床に残った氷が、靴の裏で滑る。
ミナミは氷を一つずつ拾い、モップで飲み物を拭き取った。
甘く、べたつく匂いが立ちのぼる。
時計は見ないようにしていた。
確認したら、余計に腹が立ちそうだった。
それでも結局、見てしまった。
十一時三十七分。
そのとき、自動ドアが開いた。
深夜担当が息を切らしながら入ってきた。
「すみません!」
ミナミはモップを握ったまま、彼を見た。
「電車がちょっと遅れてて」
ちょっと。
ミナミは壁の時計をもう一度見た。
七分。
たった七分だった。
けれど、その七分の間に交換の客が来て、飲み物がこぼれて、掃除までしなければならなかった。
深夜担当は鞄を下ろし、申し訳なさそうに笑った。
「すぐ着替えてきます」
その笑顔が、なぜか無性に腹立たしかった。
わざと遅れたわけではないのだろう。
電車が遅れたのなら、本人のせいでもない。
それが分かっていても、腹は立った。
ミナミは残った氷をちり取りへ掃き込んだ。
「次からは、もう少し早めに来てください」
口にしてから、少しきつすぎただろうかと思った。
相手は自分より年上だ。
面倒くさい高校生だと思われたらどうしよう、という考えも浮かんだ。
けれど、もう言葉は出てしまった。
深夜担当はさほど気にした様子もなく、うなずいた。
「はい。本当にごめんなさい」
ミナミは返事をせず、モップを洗った。
交代と引き継ぎを終えたころには、十一時四十三分になっていた。
鞄を肩に掛け、従業員用の出入口から外へ出る。
冷たい空気が頬に触れた。
少し前まで降っていた雨は、もう止んでいる。
濡れたアスファルトに、看板の光が滲んでいた。
普段なら、写真を一枚くらい撮っていたかもしれない。
今日はそんな時間はなかった。
ミナミはスマートフォンを確認した。
十一時四十四分。
「ほんと最悪」
終電まで、もうほとんど時間がない。
ミナミは鞄を胸元に抱え込み、ミカゲ駅へ向かって走り出した。
スニーカーが濡れた歩道を叩くたび、水滴が靴下の中へ入り込んだ。
冷たくて、気持ち悪い。
会計が終わったあとで商品を交換したいと言い出した客がいて、床には飲み物までこぼれた。
深夜担当は遅れてきた。
あれさえなければ、もう少し余裕を持って駅に着けたはずなのに。
いや、少しどころではない。
かなり余裕があったはずだ。
こんなふうに息が切れるまで走る必要もなかったし、靴下が濡れることもなかった。
――今月までだから。
ミナミは心の中で、もう一度そう誓った。
来月からは、何があっても閉店前のシフトを外してもらう。
店長に人手が足りないと言われても、代わりに入れる人がいないと言われても関係ない。
今度こそ、本当に断るのだ。
……たぶん。
いざ店長に困った顔で頼まれたら、また「分かりました」と言ってしまうかもしれないことは、考えないことにした。
横断歩道の信号が点滅を始めた。
ミナミはさらに速度を上げる。
滑りかけたが、どうにかバランスを取り戻した。
「ああ、もう!」
息が苦しい。
今日の体育で持久走までやったのが悪かった。
どうしてよりによって今日だったのだろう。
体育教師は「体力も実力のうちだ」と言って、全員にグラウンドを五周も走らせた。
自分は笛を吹いているだけだから楽だろうけれど、走る側は本当に死にそうだった。
これだけ走れば、少しくらい痩せたのではないだろうか。
コンビニで廃棄予定だったクリームパンを食べたことは、とりあえず忘れることにした。
ミナミは改札を通り抜けた。
ホームの方から、電車が入ってくる音が聞こえる。
階段の下にヘッドライトが見えた。
「待って!」
電車がミナミの声を聞いて待ってくれるはずもない。
彼女は階段を二段ずつ駆け下りた。
扉が閉まり始める。
ミナミは最後の力を振り絞り、身体を車内へ滑り込ませた。
ピーッ。
背後で扉が閉まった。
「はあ……間に合った」
ミナミは扉の横にもたれ、息を整えた。
喉の奥に鉄のような味がした。
全力で走ったせいで、吐きそうだった。
ここで本当に乗客の前で吐きでもしたら、一生忘れられない。
それだけは絶対に嫌だった。
電車が動き始める。
ミナミは車内を見回した。
乗客は多くない。
酔ってうつむいている会社員。
イヤホンをつけてスマートフォンを見ている大学生。
買い物袋を抱えた中年の女。
誰もが疲れているように見えた。
きっと自分も、同じような顔をしている。
ミナミは手で髪を押さえた。
走ってきたせいで、前髪がひどいことになっていそうだった。
窓を鏡代わりにして確認したかったけれど、露骨にやるのは少し恥ずかしい。
それより先に、座れる場所を探した。
脚がずきずきしていた。
空席はいくつかあった。
けれど、鞄が置かれている席もあれば、大柄な男がほとんど二人分を使っている席もある。
わざわざ狭いところへ割り込む気にはなれなかった。
やがて、車両の端に一つだけ空席を見つけた。
長椅子のいちばん奥。
窓のすぐ隣だった。
周囲の席には人が座っているのに、そこだけが空いている。
すぐ隣には灰色のスーツを着た男が座っていた。
さらにその隣にも乗客がいる。
少し妙ではあった。
皆がわざわざ避けている席には、たいてい理由がある。
冷房が強すぎるとか、座席が濡れているとか、何か臭うとか。
ミナミは近づき、座席を確認した。
濡れてはいない。
目立った汚れもない。
嫌な臭いもしなかった。
それなら、問題はない。
――運がよかった。
ミナミは鞄を膝の上に載せ、腰を下ろした。
背もたれに身体を預けると、脚の緊張が少しだけほどけた。
店から駅まで走り続けたせいで、ふくらはぎが熱い。
明日筋肉痛になったら、体育教師と深夜担当のせいにするつもりだった。
ミナミはスマートフォンを取り出した。
いちばん最近やり取りした相手は、同じクラスのユカだった。
> 今日も終電w
> マジで死ぬ。
返事はすぐに来た。
> また?
> 店長に言うって言ってたじゃん。
ミナミは口を尖らせた。
> 言おうとはしたよ。
> でも今日、人いないって言うから。
> それでまた言えなかったの?
> うるさいw
> 今月までだから。マジで。
ユカから、まったく信じていない顔のスタンプが送られてきた。
ミナミは思わず笑った。
電車が次の駅へ到着した。
扉が開き、何人かが乗ってくる。
空席を探していた若い男が車内を見回し、ミナミの方へ歩いてきた。
空いている席を見つけたらしい。
ところが数歩手前で、突然立ち止まった。
ミナミと目が合ったわけではない。
男の視線は、もう少し下へ向いていた。
正確には、ミナミが座っている場所へ。
――何?
まさか、椅子に何か付いているのだろうか。
ミナミは少し身体を浮かせ、座席を確認した。
何もない。
制服のスカートにも、変なものは付いていなかった。
なら、残る可能性は一つだけ。
自分の隣に座りたくないということ。
――感じ悪い。
ミナミが睨むより先に、男は慌てたように視線を逸らし、隣の車両へ移っていった。
そこまで嫌がることだろうか。
今日は少し汗をかいたけれど、臭うほどではないはずだ。
たぶん。
退勤前に、トイレで確認までしたのだから。
そう考えながらも、ミナミはこっそり袖へ鼻を近づけた。
特に変な臭いはしなかった。
やがて、小さな子どもを連れた女も空席に気づいた。
子どもが席を指さす。
「ママ、あそこ空いてるよ」
女はミナミの方を見た。
正確には、ミナミが座っている席を見た。
表情が固まった。
「こっちに行こう」
「なんで? あそこに座ればいいじゃん」
「いいから、来なさい」
女は子どもの手首を引き、隣の車両へ移っていった。
扉が閉まる。
電車が再び走り出した。
ミナミは周囲を見回した。
――何なの、本当に。
自分の知らない、この辺りだけのルールでもあるのだろうか。
優先席ではない。
女性専用車両でもない。
もしかして、何か事故があった席だとか。
そんな考えが浮かび、ミナミはすぐに首を振った。
――馬鹿みたい。
電車の座席一つ一つについて事故歴を気にしていたら、どこにも座れない。
何より疲れていた。
気味が悪いというだけで、わざわざ立って帰るつもりはなかった。
照明が一度、短く瞬いた。
暗くなったのは、本当に一瞬だけだった。
それなのに。
明かりが戻ったとき、ミナミは息を止めた。
向かい側の乗客たちが、全員こちらを見ていた。
会社員も。
イヤホンをつけた女も。
眠っていた老人も。
顔だけをこちらへ向け、ミナミを見ている。
表情はない。
ただ目だけが、彼女を捉えていた。
ミナミが瞬きをした。
乗客たちはまたスマートフォンへ視線を落とし、あるいは目を閉じていた。
最初から何もなかったかのように。
「何……今の」
小さな声が漏れた。
疲れて、見間違えたのだろうか。
最近はあまり眠れていなかった。
試験勉強とアルバイトが重なり、一日に五時間も寝ていない日が続いている。
そうだ。
疲れているだけだ。
そう思うのが、いちばん楽だった。
ミナミはユカへメッセージを送った。
> なんかここ、ちょっと変。
> 何が?
> 席空いてるのに誰も座らない。
> みんな見たあと隣の車両に行く。
返事はすぐには来なかった。
電車がトンネルへ入った。
窓の外が真っ黒になる。
代わりに、車内が窓へ映り込んだ。
ミナミ自身。
灰色のスーツの男。
向かい側の乗客たち。
揺れるつり革。
そして、隣の席。
窓の中では、誰かが座っていた。
長い髪を垂らした女だった。
ミナミはすぐに隣を振り向いた。
誰もいない。
もう一度、窓を見る。
人影は消えていた。
心臓が速く鳴り始める。
「本当に疲れてるんだ、私」
わざと声に出して言った。
口にすれば、大したことではないように思える気がした。
何の効果もなかった。
スマートフォンが震えた。
ユカからだった。
> 今、何両目?
ミナミは返事を送った。
> 前から二両目。
少しして、またメッセージが届く。
> どこに座ってる?
「急に何なの」
ミナミはカメラを起動した。
自分が座っている席と窓際が映るように、写真を撮る。
カシャ。
送信ボタンを押した。
ユカからの返事は、ほとんど同時に届いた。
> ミナミ。
> 何でそこに座ったの?
> 今すぐ立って。
> 早く。
ミナミは眉を寄せた。
> どういうこと?
電話がかかってきた。
ミナミは通話ボタンを押した。
「ユカ?」
スマートフォンの向こうから、激しい雑音が聞こえた。
ザザッ。
『ミナミ』
ユカの声が震えている。
「どうしたの?」
『よく聞いて。今すぐ、その席から立って』
「何それ。ふざけないでよ」
『ふざけてない。絶対に後ろを振り向かないで。誰かに話しかけられても、返事しちゃ駄目』
ミナミの指先が冷たくなった。
「急に何言ってるの?」
『その席、終電にしか現れない席なの。そこに座ったら――』
通話が切れた。
「ユカ?」
画面には「圏外」と表示されている。
電車が次の駅を通過した。
本来なら停車するはずの駅だった。
ホームと駅名標が、ものすごい速さで窓の外を流れていく。
「え?」
ミナミは扉の上にある車内表示を見上げた。
次の駅名が壊れていた。
□□□□駅。
四角い記号だけが、何度も点滅している。
ミナミは席から立とうとした。
身体が動かなかった。
「何、これ」
脚に力を入れる。
尻と太ももが座席へ貼りついたように、離れない。
両手で座席を押し、身体を持ち上げようとした。
びくともしなかった。
「どうして……?」
車内放送が流れた。
『次は、ミカゲ東、ミカゲ東です』
いつもと同じ声だった。
ミナミは短く息を吐いた。
次の駅で扉が開いたら、人を呼べばいい。
駅員に助けを求めればいい。
そのとき、放送へ雑音が混じった。
ザザッ。
声が引き延ばされる。
『次は……』
短い沈黙。
先ほどとは違う声が聞こえた。
子どものようでもあり、年老いた女のようでもある声。
『次の、お客様が降りる駅です』
ミナミは隣のスーツ姿の男を見た。
「あの」
男は動かなかった。
「今の放送、聞きました?」
返事はない。
ミナミは男の肩に触れた。
「あの、すみません」
男の首が、ゆっくりとこちらへ回った。
目がなかった。
鼻もなかった。
口もなかった。
本来、人の顔があるはずの場所を、なめらかな皮膚だけが覆っていた。
ミナミは悲鳴を上げた。
膝の上から鞄が落ちる。
中の物が床へ転がった。
向かい側の乗客たちが、一斉に顔を上げる。
彼らの顔も、同じだった。
何もなかった。
「嫌……」
電車が急激に速度を落とした。
キイイイイッ。
車両が停止する。
ピンポーン。
扉が開いた。
外には、ホームがなかった。
果てのない闇だけが広がっていた。
床も。
壁も。
線路も。
何一つ見えない。
暗闇の中から、濡れた何かが地面を這う音が聞こえた。
べちゃ。
べちゃ。
ミナミは必死に身体を動かした。
「誰かいませんか!」
べちゃ。
音が近づいてくる。
「助けて!」
べちゃ。
扉が閉まった。
照明が消える。
完全な闇。
ミナミは息を殺した。
目を閉じても、開けていても何も変わらなかった。
やがて、照明が再び点いた。
車内には誰もいなかった。
スーツの男も。
向かい側の乗客たちも。
全員、消えていた。
残っているのは、ミナミだけだった。
スマートフォンが震えた。
床へ落ちた画面に、ユカからのメッセージが表示される。
> 絶対に、隣を見ないで。
ミナミは息を止めた。
すぐ隣から、濡れた息遣いが聞こえた。
ふう。
ふう。
冷たい吐息が、耳元に触れる。
長い髪が数本、ミナミの肩へ垂れた。
見てはいけない。
ユカが、確かにそう言った。
見なければ、大丈夫かもしれない。
何も気づいていないふりをすれば。
このまま目を閉じていれば。
家に帰れるかもしれない。
青白い手が、ミナミの膝へ置かれた。
折れた爪。
黒ずんだ赤い染み。
冷たい指が、ミナミの手を包み込む。
耳元で、声がした。
「座ってくれて……ありがとう」
ミナミの顔が、少しずつ横へ向いていく。
嫌だ。
見たくない。
それなのに、止められない。
長い髪の隙間から、白い肌が見えた。
ミナミが目を開いた。
車内の照明が消えた。
悲鳴も、それと同時に消えた。
本作は特撮作品へのリスペクトを込めて制作したオリジナル作品です。実在する作品・団体とは一切関係ありません。




