第三報 野生オーク群および腐敗巣比較報告
件名 野生オーク群および腐敗巣比較報告
提出予定先 王立学術院 辺境度量衡監査部門
宛先 辺境度量衡監査部門 上席監査官殿
整理者 王立学術院所属 辺境度量衡監査官補 アリア
記録種別 帰還後提出予定報告書控
作成時点 城壁外遭難後、保護地にて手元記録を再整理
対象事案 未分類オーク群、野生オーク群、およびゴブリン腐敗巣に関する比較整理
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一 要旨
本控は、第一報および第二報に続き、整理者が保護地周辺で確認した未分類オーク群と、森内に残る野生オーク群およびゴブリン腐敗巣との相違を整理するものである。
第一報では、整理者を保護した大個体およびその周辺群について、水、火、布、灰、腐敗物、傷者、荷、若い雄の制止に関する初期観測を記した。
第二報では、荷帳余白に残した短音反応を整理し、「みず」「ひ」「まて」「だめ」「痛い」「よい」等の音が、物、場所、務め、制止、痛み、肯定に結びつき始めている可能性を記した。
本報では、当該未分類オーク群を、従来記録上の野生オーク群およびゴブリン腐敗巣と比較する。
結論を先に記す。
整理者を保護している当該群れは、外見および一部本能的行動においてオークである。
しかし、野生オーク群と同一ではない。
また、ゴブリン腐敗巣とも明確に異なる。
主な相違は以下である。
一、腐敗物を寝床、水場、傷者から遠ざけること。
二、排泄、汚れ、腐敗を完全ではないが分けようとすること。
三、若い雄の接近を大個体が制すること。
四、傷者を捨てず、水、布、火で保つこと。
五、火場、水場、寝床、荷置き場に粗い区分があること。
六、短音反応により、衝動を一時停止させる仕組みが生じつつあること。
七、ゴブリン腐敗巣に見られる汚染の拡散、腐肉集積、無差別な噛みつきとは性質を異にすること。
したがって、本報では当該群れを、王国一般分類上の野生オーク群とは別に、暫定的に「第十六個体周辺群」として扱う。
この呼称は公式分類ではない。
ただし、以後の観測整理において、野生オーク群、ゴブリン腐敗巣、当該群れを同一に扱えば、危険判断および報告判断を誤る恐れがある。
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二 比較対象の整理
本報で比較する対象は三つである。
一、第十六個体周辺群。
二、野生オーク群。
三、ゴブリン腐敗巣。
第一の第十六個体周辺群とは、整理者を保護している大個体を中心とする未分類オーク群である。
ここでは、大個体を中心に水、火、布、灰、荷、傷者、若い雄の制止が観測される。
第二の野生オーク群とは、王国軍務教育、獣害記録、辺境商人の証言、および整理者が遠目または痕跡から確認した、従来型のオーク群を指す。
これらは、人間圏では一般に、泥、糞尿、腐肉、力の支配、雄による無秩序な接近、汚れた寝床、奪取、捕食、暴力と結びつけて記録されている。
第三のゴブリン腐敗巣とは、ゴブリン群の通過または滞留によって形成される腐敗と汚染の集積を指す。
これは巣というより、腐敗物、泥、膿、血、噛み跡、壊れた荷、裂かれた布、死体片が混じる汚染場である。
王国記録では単に「ゴブリン巣」または「腐れ場」と呼ばれることが多いが、整理者の観測上は、通常の野営地や獣の巣とは区別すべきである。
以下、各項目ごとに比較する。
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三 臭気および腐敗物の扱い
最初に比較すべきは臭気である。
王国の獣害記録では、オークおよびゴブリンはしばしば同じく「悪臭を放つもの」とまとめられる。
しかし、整理者の観測では、少なくとも三種の臭気は区別される。
一、獣の臭気。
二、腐肉および膿の臭気。
三、糞尿、泥水、長く湿った布の臭気。
第十六個体周辺群には獣の臭気がある。
大個体にも強い獣臭はある。
ただし、それは腐肉臭や糞尿臭とは異なる。
水に近い場所、寝床、傷者の近くでは、腐敗物を遠ざけようとする行動がある。
完全な清潔とは言えない。
しかし、汚れの種類を分ける意思または手順がある。
野生オーク群の痕跡では、獣臭と糞尿臭、古い血、腐肉、湿った毛皮、泥が混じる。
腐敗した食物、排泄物、寝床の分離が弱く、臭気は一体化している。
ゴブリン腐敗巣では、さらに異なる。
臭気は獣臭ではなく、腐りきった水、膿、開いた腹、濁った泥、裂けた布、古い血、虫の動きによるものである。
そこでは臭気が場所全体を支配しており、食うもの、捨てるもの、寝るもの、死ぬものの区別が崩れている。
したがって、臭気だけでも、三者は同一に扱うべきではない。
記録上の整理は以下である。
――第十六個体周辺群、獣臭あり。
――ただし腐肉臭および糞尿臭とは分けられている。
――野生オーク群、獣臭、糞尿、古血、腐肉が混じる。
――ゴブリン腐敗巣、腐敗臭が支配的。
――腐敗物を遠ざける行動は、第十六個体周辺群で最も明瞭。
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四 水場の扱い
水場の扱いは、当該群れの相違を最も強く示す。
第十六個体周辺群では、水場は特別に扱われる。
飲む水、洗う水、傷者に用いる水、汚れを落とす水は、完全ではないが混同されにくいよう分けられている。
若い雄や小柄な個体が誤ることはある。
しかし、そのたびに大個体が制し、置き場を戻す。
また、水場周辺では若い雄の接近が制される。
これは、単に整理者を隠すためだけではない可能性がある。
水場は、腐敗物、排泄物、汚れた布、若い雄の衝動から守られている。
野生オーク群では、王国記録上、水場の分離はほとんど期待できない。
飲む、洗う、汚す、浸かる、排泄物が流れ込むことが同じ場で行われるとされる。
実見した痕跡においても、濁った踏み跡、泥水、獣毛、古い食物片、排泄物らしきものが同一線上にあった。
ゴブリン腐敗巣では、水はさらに危険である。
流れの弱い水溜まりには、血、泥、膿、腐肉片、黒ずんだ泡が残る。
そこに足を入れることは、傷口から腐敗を招く可能性がある。
整理者は当該水を飲用または洗浄用と見なすべきではないと判断する。
比較上の結論は以下である。
一、第十六個体周辺群では、水場は守られる場所である。
二、野生オーク群では、水場は利用されるが、守られる場所とは言い難い。
三、ゴブリン腐敗巣では、水は腐敗を運ぶものになっている。
四、水場管理の有無は、三者を分ける重要指標である。
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五 火および灰の扱い
火の扱いも相違が明瞭である。
第十六個体周辺群では、火は乾かすため、温めるため、腐敗物を遠ざけるため、湿った布を処理するために用いられる。
火場には火を見る雌がいる。
乾いた枝と湿った枝を分けようとする行動も見られる。
湿った枝を火へ入れようとした若い雄を大個体が止めた記録もある。
灰は汚れを落とすものとして扱われることがある。
これらは王国施療院の正式作法ではない。
しかし、水と火と灰を組み合わせて汚れを処理する反復行動として記録すべきである。
野生オーク群でも火を用いる可能性はある。
しかし、それは主に暖を取る、獲物を焦がす、夜間の獣を避ける等にとどまると思われる。
火場と寝床、汚れた布、傷者を結びつけた手順は確認できない。
ゴブリン腐敗巣では、火の使用はさらに不安定である。
焼け跡や煤が残る場合もあるが、それは管理された火場というより、襲撃時の延焼、燃え残り、腐敗物に混じる炭化物として見える。
火によって腐敗を隔てる意図は確認できない。
比較上、火と灰については以下の所見を置く。
――第十六個体周辺群、火を管理対象として扱う。
――火場の担当らしき雌あり。
――灰を汚れ落としに用いる。
――野生オーク群では火の使用はあり得るが、衛生手順としては未確認。
――ゴブリン腐敗巣では火場管理なし。燃え跡は腐敗と混じる。
――火と灰の運用は、第十六個体周辺群の異質性を示す。
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六 寝床および布の扱い
寝床と布の扱いは、王国側が最も誤読しやすい事項である。
王国一般認識では、オークの寝床は泥、毛、腐肉、糞尿、古い血が混じるものとされる。
確かに野生オーク群の痕跡は、それに近い。
ただし、第十六個体周辺群の保護地では、少なくとも整理者が置かれた場所において、乾いた布と汚れた布の分離があった。
湿った布を火へ近づける。
汚れた布を傷者から遠ざける。
寝床を腐敗物から離す。
これらの行動が認められる。
完全な寝具管理ではない。
王国貴族の寝台、軍幕の規律、施療院の清拭手順とは異なる。
しかし、布が単なる奪取物または敷物ではなく、汚れを受けるもの、清めるもの、乾かすもの、傷者へ近づけるもの、近づけてはならないものに分けられつつある点は重要である。
野生オーク群では、布は奪ったもの、裂いたもの、腰に巻くもの、寝床に敷くものとして雑に扱われるとされる。
清い布と汚れた布の差は弱い。
ゴブリン腐敗巣では、布はさらに無残である。
裂かれ、泥に沈み、血や膿を吸い、腐敗の一部となる。
そこでは布は保護具ではなく、汚染の保持物である。
したがって、布の扱いは三者を分ける重要な観測項目である。
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七 傷者および弱った個体の扱い
傷者の扱いについて、三者は大きく異なる。
第十六個体周辺群では、肩に傷を持つ雌が捨てられていない。
乾いた場所に置かれ、水を与えられ、汚れた布を遠ざけられている。
大個体は、若い雄が近づきすぎると制する。
また、小柄な個体の火傷に対して、大個体が水を用い、「痛い」に近い音を発し、攻撃行動を痛みの表現へ分けようとした可能性がある。
野生オーク群では、傷者の扱いは不明である。
王国記録では、弱った個体は置き去り、奪われ、蹴られ、食料を奪われるものとして記されることが多い。
ただし、すべての野生オーク群が同様かは断定できない。
しかし、少なくとも水、布、火、制止を組み合わせて傷者を保つ手順は、従来記録に見当たらない。
ゴブリン腐敗巣では、傷者は保護対象ではない。
傷口は腐敗を呼ぶ入口であり、噛み跡、膿、泥、死体片と混じる。
弱った者は腐敗の場に取り込まれる。
比較上の整理は以下である。
一、第十六個体周辺群では、傷者を残す。
二、第十六個体周辺群では、傷者の周囲に隔てを置く。
三、野生オーク群では、傷者保護の手順は確認できない。
四、ゴブリン腐敗巣では、傷者は腐敗の一部にされる。
五、傷者管理は、当該群れを「単なる野生群」としない根拠の一つである。
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八 若い雄の扱い
若い雄の扱いは、本報のうち最も慎重に記すべき箇所である。
王国へそのまま提出すれば、当該群れの危険性のみが強調される恐れがある。
また、整理者自身の身に関わる誤読を招く恐れもある。
しかし、若い雄の制止は、当該群れの構造を理解する上で避けられない。
第十六個体周辺群には、衝動的な若い雄がいる。
彼らは水場、荷、食物、傷者、整理者の周辺へ不用意に近づくことがある。
したがって、当該群れを安全と評価してはならない。
ただし、大個体はそれを放置していない。
「まて」
「だめ」
「近い」
これらの短音または身振りにより、若い雄の接近や奪取を制する。
若い雄は完全には従わない。
しかし、一時的に止まる。
距離を取る。
物を戻す。
食う前に止まる。
これは、野生オーク群の一般記録とは異なる。
野生オーク群では、力の強い個体が欲したものを取り、弱い個体が退く構図が強いとされる。
大個体による制止がある場合も、それが傷者や水場の保護、整理者の隔離、荷の保存へ結びつくとは限らない。
ゴブリン腐敗巣では、そもそも若い雄の衝動を制するような反復行動は確認できない。
群れの噛みつき、汚染、散乱、腐敗拡散が優先している。
したがって、若い雄の存在は危険事項であると同時に、大個体の制止行動を確認するための重要観測点でもある。
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九 食物および残すものの扱い
食物の扱いについても差がある。
第十六個体周辺群では、木の実、肉、乾いたもの、腐ったもの、傷者へ回すもの、後に残すものが粗く分けられている。
第二報でも記したとおり、「残す」「食うな」「すこし」に近い短音が用いられる場面がある。
これは、食物を見ればすぐ食うという反応から、一部を後に残す反応への移行を示す可能性がある。
野生オーク群では、食物の奪い合い、即時摂取、腐敗物との混同が多いとされる。
ただし、群れの規模、食料状況、個体差により変動する可能性があるため、断定は避ける。
ゴブリン腐敗巣では、食物、死体、汚染物、荷、布、革袋等の区別が崩れている。
噛まれたもの、裂かれたもの、汚されたものが混在し、食えるものと食えないものの境界がほとんど見えない。
この比較により、食物を「残す」行動は、第十六個体周辺群の秩序化に関わると見られる。
食物を残せる群れは、時間を持つ。
時間を持てば、火で乾かす、水で洗う、傷者へ回す、翌日へ残すという行動が生じる。
これは小さな差であるが、群れが単なる消費の場から、保つ場へ変化する兆しである。
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十 荷および回収物の扱い
荷の扱いは、整理者の専門である度量衡監査と深く関わる。
第十六個体周辺群では、隊商襲撃後の回収物または他経路由来物と思われる荷が、完全には破壊されず残されている。
袋は袋として使われる。
紐は紐として使われる。
金属片は留め具または道具として扱われる。
破れた布は、拭うもの、包むもの、敷くもの、吊るすものとして分けられる。
この行動は、王国の商人帳簿や工房台帳のような分類ではない。
しかし、物に用途を見いだし、用途ごとに残す行動である。
野生オーク群でも、奪った物を使うことはあり得る。
革袋を腰に巻く、金属片を飾る、布を敷く、骨を道具にする等である。
ただし、そこに水場、傷者、火場、荷置き場の分離が伴うとは限らない。
ゴブリン腐敗巣では、荷の破壊と散乱が目立つ。
封紐、荷札、通行符、商会印は読まれず、噛まれ、裂かれ、泥に沈む。
ゴブリンは荷の意味を読むのではなく、荷を汚染場へ引き込む。
したがって、荷を残すか、裂くか、用途別に再利用するかは、三者の差を示す。
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十一 短音反応の比較
短音反応については第二報で詳述したため、本報では比較に限る。
第十六個体周辺群では、短い音が以下の機能を持ち始めている。
一、物を指す。
二、場所を指す。
三、行動を止める。
四、正しい状態を保つ。
五、痛みを示す。
六、食物を残す。
七、火と水の危険を分ける。
八、若い雄を制する。
野生オーク群にも、唸り、威嚇、呼び合い、鳴き声はあると推測される。
しかし、王国記録上、それらは行動制御の短音として詳細には扱われていない。
少なくとも、水、火、布、傷者、荷、痛み、残すものと結びついた反復音は確認できない。
ゴブリン腐敗巣においては、短音は叫び、噛み声、喚き、群れの興奮として現れる。
行動を止め、戻し、分ける音としては確認できない。
このため、短音反応は、第十六個体周辺群を区別する大きな根拠である。
ただし、言語と断定してはならない。
現時点では、言葉ではなく、音と行動の結びつきである。
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十二 ゴブリン腐敗巣の危険性
ゴブリン腐敗巣は、野生オーク群の巣とも異なる。
王国側では、しばしば「怪物の巣」として同じように扱われるが、救援、捜索、清掃、焼却の判断においては分けるべきである。
ゴブリン腐敗巣で危険なのは、個体そのものだけではない。
個体が去った後の場も危険である。
危険要素は以下である。
一、泥水。
二、噛み跡のある死体片。
三、膿んだ布。
四、裂かれた皮袋。
五、腐敗した食物。
六、虫。
七、黒ずんだ泡。
八、足跡に溜まる濁った水。
九、放棄された荷の汚染。
十、腐敗臭を追う獣。
捜索隊が隊商の遺品や調査帳を回収しようとする場合、これらに触れる恐れがある。
また、整理者の帳片、荷札、通行符控えが腐敗巣付近で見つかった場合、整理者死亡の証拠として早計に扱われる可能性がある。
しかし、当該帳片が散逸したことと、整理者が死亡したことは同義ではない。
この点は、帰還後必ず説明する必要がある。
また、ゴブリン腐敗巣は、焼けばすべて終わるとは限らない。
水場へ流れ込めば、汚染は下へ動く。
泥に残れば、踏んだ者が傷から腐敗を受ける。
布や皮に染みれば、持ち帰った者が害を受ける。
よって、捜索隊には単なる武装だけでなく、火、灰、乾いた布、隔離、捨てる場所の指定が必要である。
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十三 野生オーク群の危険性
野生オーク群についても、危険性を過小評価してはならない。
第十六個体周辺群に水、火、布、短音反応の芽があるからといって、オーク一般を安全視することは重大な誤りである。
野生オーク群の危険は以下である。
一、体格差による圧倒的な物理的危険。
二、若い雄または力ある個体の衝動を制する手順の乏しさ。
三、泥、糞尿、腐肉、古血による汚染。
四、傷者や弱者の保護手順の欠如。
五、水場、寝床、排泄場所の混同。
六、奪取物を清めず扱うこと。
七、他種族を同じ秩序内の相手と見なさないこと。
八、接近すれば生還不能と見なされる社会的危険。
王国側に必要なのは、オークを一括して許容することではない。
むしろ逆である。
野生オーク群の危険を認めた上で、第十六個体周辺群だけを別枠で観測する必要がある。
この区別をしなければ、二つの誤りが生じる。
一つは、第十六個体周辺群を野生オークとして焼き払う誤り。
もう一つは、第十六個体周辺群を見て、野生オーク一般を軽視する誤りである。
どちらも避けなければならない。
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十四 第十六個体周辺群の危険性
本報では、第十六個体周辺群の異質性を記している。
しかし、異質であることは、安全であることを意味しない。
当該群れには、なお危険がある。
一、体格差は依然として大きい。
二、若い雄の衝動は残る。
三、小柄な個体や若い個体は、火、水、布の分離を誤る。
四、整理者の身は大個体の制止に大きく依存している。
五、大個体不在時の秩序維持は未確認である。
六、群れが王国法、婚姻、所有、身分、証言の概念を理解している証拠はない。
七、整理者の保護が、王国側からは捕獲または汚染と読まれる恐れがある。
したがって、第十六個体周辺群を「文明」と呼ぶには早い。
ただし、「野生」とだけ呼ぶには不足がある。
現時点では、次の表現が最も正確である。
――野生オーク群に属する外見と本能を持ちながら、水、火、布、灰、傷者、荷、短音による分離を始めた未分類群。
これを短く記すため、本控では「第十六個体周辺群」とする。
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十五 王国側への報告上の注意
本報告は、王国側で強い誤読を招く恐れがある。
予想される誤読は以下である。
一、オークにも清潔な群れがあるという楽観。
二、第十六個体周辺群を軍務に利用できるという発想。
三、整理者がオークに同情しているという疑い。
四、整理者が野生オークの危険を軽視しているという疑い。
五、ゴブリン腐敗巣とオーク群を同一視する古い分類への固執。
六、第十六個体という仮分類を、正式分類または政治的主張と読む誤り。
これを避けるため、公的提出時には以下の順序で説明するのがよい。
一、野生オーク群の危険をまず明記する。
二、ゴブリン腐敗巣の危険を別に明記する。
三、そのうえで、第十六個体周辺群の差異を記す。
四、「安全」ではなく「同一分類では処理できない」と表現する。
五、「文化」ではなく「秩序の芽」と表現する。
六、「第十六個体」は公式名ではなく、観測上の仮称とする。
特に、「第十六」という語は慎重に扱うべきである。
王国には十五文化圏という理解がある。
その外側に「第十六」を置くことは、学術上も政治上も危険を伴う。
しかし、現場記録上、この語を用いなければ、野生オーク群およびゴブリン腐敗巣との混同を避けられない。
したがって、仮称としてのみ用いる。
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十六 提出保留事項
本報に関し、以下の事項は提出保留とする。
一、野生オーク群による他種族への具体的な加害の細目。
二、整理者自身が水場、寝床、若い雄の接近に関して受けた恐怖の細目。
三、第十六個体周辺群における大個体と整理者の私的距離に関する事項。
四、若い雄の制止に関する身体的細目。
五、ゴブリン腐敗巣に残された死体片等の詳細描写。
六、捜索隊が整理者の帳片を回収した場合の社会的処理に関する推測。
七、第十六個体という語を正式分類へ進めるか否かの最終判断。
八、大個体の知性、意図、感情に関する断定。
以上は、必要に応じて封緘羊皮紙、別紙、または口頭補足へ分ける。
公的本文へ直載する場合は、危険事項、観測事項、未確認事項を厳密に分ける必要がある。
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十七 総合所見
第十六個体周辺群、野生オーク群、ゴブリン腐敗巣は、王国側では一括して怪物危険地帯として扱われがちである。
しかし、現地観測上は、三者を分けなければ判断を誤る。
ゴブリン腐敗巣は、腐敗と汚染の場である。
野生オーク群は、力と衝動と不衛生の群れである。
第十六個体周辺群は、オークの体格と危険を残しながら、水、火、布、灰、荷、傷者、若い雄の制止、短音反応による分離を始めた未分類群である。
これを安全と呼ぶことはできない。
しかし、同一の危険として処理することもできない。
今後確認すべき事項は以下である。
一、第十六個体周辺群の水場管理が継続するか。
二、火場の担当が固定化するか。
三、傷者管理が他個体にも及ぶか。
四、若い雄への制止が大個体不在時にも残るか。
五、短音反応が野生オーク的衝動をどこまで止めるか。
六、腐敗物の隔離が一時的行動か、手順化するか。
七、ゴブリン腐敗巣からの汚染をどの程度避けられるか。
八、野生オーク群との接触時、第十六個体周辺群がどのように振る舞うか。
九、王国側が三者の差を理解できる形で報告できるか。
現時点での結論は以下である。
――第十六個体周辺群は、野生オーク群ではあるが、野生オーク群だけではない。
――ゴブリン腐敗巣とは明確に異なる。
――同群を観測するには、怪物分類ではなく、水、火、布、灰、荷、傷者、音、制止の各項目を継続して記録する必要がある。
――第十六個体という仮称は、引き続き保留つきで用いる。
以上、帰還後の報告に備え、第三報として整理する。




