エピローグ
ミコ達が[災塊]を叩き、[奇災]を解決して五日ほど。
[トーソ]では、首から上が飛ばなくなった住民たちが、日常を取り戻しつつあった。
飛んでいった首は、元から離陸対策をし、無事であった街の回収業者の手によって既に回収され、残された体との再会を果たしている。
それによって五体満足の状態となった住民たちは今、全員が[奇災]の解決を認知していた。
それは、イルカネの行動をきっかけとしたものだ。
最後の戦いの二日後、十分に休んだ彼は、ミコの持っていた地図を基に、本物の市役所へと足を運んだ。
彼はそこで、本物の市長に対し、自分達が[災塊]を叩き、[奇災]を解決したことを伝え、報酬金を出すよう要求、軽く騒ぎ立てたのである。
その騒ぎによって、首から上が急に離陸しなくなった住民たちの間で、[奇災]解決の噂が流れ始める。
そして市長たちが、先日の戦いでミサイルとして飛んでいった際、戦うイルカネ達の姿を見ていたことや、それまで多発していた離陸現象が一切起こらなくなったことから、彼の言葉を信頼。報酬金を公衆の面前で渡したことで、[奇災]の解決は広く知られることとなった。
結果、[奇災]の苦しみと不安から解放された市民達には活気と平穏が戻り、都市内では歓喜の声が溢れている。
停滞していた経済活動も復活の兆しを見せ、[トーソ]は[大奇災]前の、大きな都市としての賑わいを取り戻しつつあった。
そんな場所の端に、ミコ達の姿はあった。
「すっかり、平和になったなのですね」
ミコは、賑わう街並みを見、小さく笑みを浮かべて言う。
その背には、神社から出発した時のように、旅のための荷物が背負われている。
「そのようじゃな。無事、全ては解決したわけじゃ」
ミルはミコの言葉に頷き、そう言う。
一方で、その隣にいるイルカネは、両手に金を握って呟く。
「…素晴らしいぞ。これだけの額が手に入るとは。死にそうな思いで頑張ったかいはあった。本当に、本当に素晴らしいぞ…!」
「…相変わらずじゃな?お主」
出された報酬金は、莫大なものであった。
そしてイルカネは、それらを自ら出向き、受け取ったことで、その大半を手中に収めている。
ミルの言葉で、ミコにも分配したことで多少額は減っていたが、それでも豪勢な食事が三食、三週間連続で出来るほどの、相当な量と額がある。
イルカネはそれにすっかり魅了され、ここのところずっと、こんな調子で喜び続けていた。
ミルはそんな彼を、自分の胸を押し当ててからかう。
「…ぬ、わぁぁぁ!!やめろ、エロ魔ぁぁ!!」
「やめないぞ?面白いからの?」
「ぬがぁぁぁぁぁ!!」
「相変わらずなのですね」
ミコは変わらない二人を見て、ふっと笑う。
それから、自分達の前に立つ相手に、視線を戻す。
「伯父さんと伯母さんも、相変わらずで、元気そうで」
「だな、ん…」
「そうね、危なかったけど」
ミコ達の目の前には、ジージとミータが立っている。
両者ともあちこち怪我をし、包帯などで治療した跡があったが、五体満足でそこにいる。
ジージは七体の[災獣]、資材と共に穴に落ち、ミータは一体の[災獣]と戦っていたわけだが、なんとか軽傷の範囲で[奇災]の解決まで耐え、生き残っていたのである。
そんな彼らは、自分達も傷ついているのにもかかわらず、最後の戦いで傷ついたミコ達を迎え入れ、この五日間怪我を治療し、休まさせてくれた。
おかげで、ミコ達はほとんど元通りで、元気な状態になっているのであった。
「伯父さん、伯母さん、今までありがとうなのですね。本当に、色々と」
「気にするな、ん。全ては[奇災]の解決のため…それに、姪っ子のためだ」
「そうね。その言葉だけで十分よ」
二人は軽くそう言い、頭を下げようとするミコに、必要ないと手をかざす。
ミコはそれに頷く。
「…さてだな、ん」
ジージは言う。
「吾輩たちは、拠点の引き払いでしばらくここに残るわけだが。お前たちは行くわけだな、ん」
「…はい」
ミコは、自身の荷物をちらりと見、言う。
「私たちは行きます」
その言葉に、ミルはイルカネをからかうのをやめ、ミコの様子を見守る。
ミルが離れたことで息をつくイルカネも、とりあえずそれに続く。
それを視界の端に捉えつつ、ミコは言う。
「この都市を抜け、また別の場所へ」
「…あれだけ傷つくことにながらも、まだやるという、か」
ジージは少し、案じるような様子を見せて言う。
ミコはそれに対し、力強く頷く。
「…はい、なのですね。私は、この[マガツイキ]の、全ての[奇災]を祓うために、旅を始めたのですから」
そこに、傍らの二人が続く。
「儂はそれに、これからも協力したいと思っておる」
「金が手に入る限りは、俺も行く。…そういえば。いつの間にか俺たちの行動の主導権、ミコに握られているな」
「別にいいじゃろ。お主は金が手に入れば」
「…それもそうか」
「ふふ、なのですね」
現金なイルカネに笑い、ミコはそれから、ジージ達に言う。
「だから、私は…私達は行くなのですね」
「…そうか、ん」
ジージは頷き、ミータは言う。
「分かったわ。目的は同じわけだし、もしかしたらそのうち、また会うかもね。そのときは、また手助けするわ」
「ありがとうなのですね。…それでは」
「ああ。行くがいい、ミコ…災いを祓う者よ…!」
ジージとミータは手を振る。
それを背に、ミコ達は[トーソ]の外へと一歩を踏み出す。
「さぁ、続けましょう。私たちの旅を」
「のじゃ!」
「だな」
いつか、この地に満ちる災いを全て祓うために。
そのために、彼女らは街の外へ、新たなる地へと進んでいった。
奇災列伝。
それは、奇妙なる災いを祓う、彼女らの。
旅の記録。




