□番外編 聞いてみたかったことといえば
魔騎士五人が選抜される魔物の討伐任務にシリルが抜擢されたため、今日のアリアは別の先輩魔騎士と仕事をする……はずだった。
だが、実際はここぞとばかりにお茶とお菓子を用意してもらい、接待を受けていると誤解しそうな状況だった。
「よ、よろしいのでしょうか……?」
「いいんだよ。団長まで行ってるのは珍しいし、この時くらい息抜きしないと」
「でも、団長が行く必要があるというのは大変な状況では……?」
「違う違う。実戦から離れると身体が鈍るからだよ」
そう言った先輩騎士はにこやかにクッキーを口に入れた。
「シリルから聞いてないの?」
「討伐に行くとは聞きましたが」
詳細を聞こうとはしたが、大したことのない魔物だと面倒くさそうかつ行きたくなさそうに言われたので深掘りはしなかった。
しかし出発後団長も今回参加していると知り、アリアは驚いたのだ。
「あー。あいつらしいね」
「もう少し深く聞いておくべきでした」
「まぁ、知らないと聞けないこともあるしね。そうだ、せっかくの機会だし普段疑問に思っていることを何でも聞いてくれていいよ。シリルより説明はうまいと思う」
砕けた調子の先輩の言葉はありがたいが、一応自分が捌くべき仕事はきっちり教わるので今のところ困っていることはない。
「あ、くだらなさすぎて聞けないことでもいいよ? 本当に何でも」
「なんでも……ですか?」
「うん」
「でしたら一つ。実は入団を認めていただいた日に団長がスティルフォード様は女性に人気があるとお聞きしたのですが、本当なのですか?」
これはシリルに直接聞けない話だ。
もし聞いても、正解が返ってくるとは限らない。せいぜい「あ?」と言われて終わりだろう。
アリアの問いに先輩騎士は一瞬目を開いたが、すぐに笑った。
「あー。確かにあるね」
「どのような女性に人気があるのですか?」
「特に明るく若い娘さんたちに人気だよ。羨ましい限りだ」
「どういうところが人気なのでしょう? 魔騎士の皆さんはみんな素敵なのに、どうしてシリル様なのでしょうか?」
確かにシリルの顔の作りは綺麗だが、整った顔立ちの魔騎士は他にも多い。
その中でなぜシリルなのかは疑問がある。
首を傾げたアリアに先輩騎士は頷いた。
「嬉しいことを言ってくれるね。まぁ、シリルは……まぁ、無口だろ。笑わないだろ。ミステリアスってところでな」
「そういうものなのでしょうか」
「あと、強さだ。救出任務のときの対象者が広く話すからな。シリルがモデルらしい小説も出てるくらいだ」
「なるほど……?」
わかりやすいと言えばわかりやすいのかもしれない。
ただ、小説のモデルとなっているのはさすがに想定外過ぎた。
「ところで、アリアはシリルをどう思っているんだ?」
「少なくともミステリアスだとは思っていないですね」
「ほほう」
「無口でもないと思います。口下手ですけど」
「はは、確かにな。気も強いよな」
「でも、根っこは優しいですよ」
少なくとも後輩の腹の空き具合を心配し、多少の規則破りを率先する優しさを持ち合わせているのがシリルである。
「ただ、もう少し笑った方が人付き合いはしやすくなるのではと思いますが」
とはいえ、これは長年培った性格だ。
本人が変えたいと強く願わない限り難しいだろうし、シリルがそのように思う可能性はそう高くないように感じる。
「ハッキリ言うねぇ。シリルが女性の指導を任されるって聞いた時は、てっきり新人が骨抜きにされるのかと思ってたが」
「え!? みなさんそう思ってたんですか!?」
「いや、逆にびびって指導担当が交代になると思っていた奴も多い」
「そ、そうなんですね」
「そして、次の指導担当は自分だとこぞって言っていた」
極端な二択が想像されていたことにアリアは苦笑をこぼした。
「まぁ、そもそも若いとは聞いていたけど想像以上に若かったから、この年齢だと思ってたら賭けをしてなかっただろうね」
「賭けていたんですか」
「お菓子程度を」
それはどこまでが本当だろうか。
ある程度話は盛ってあるのだろうと思うが、どこまでが事実であるかは少し想像ができなかった。
「でもジェイミー団長はやっぱり見る目があるな。良い組み合わせみたいだ」
「団長とお会いする前から決まっていましたけどね。でも、私もスティルフォード様に担当していただいて嬉しく思います」
ほかの人と比較のしようがないことでもあるが、少なくともシリルでよかったとアリアは思っている。
「あーあ。俺も妹みたいな部下が欲しい」
「妹ではなく同僚で後輩ですので、よろしくお願い致しますね」
「わかってるって」
そう言いながら、先輩騎士は今度は紅茶を一気飲みした。
「まぁ、シリルに聞けないことは遠慮なく聞いてくれ。今日みたいな話でも大歓迎だ」
「ありがとうございます」
頼もしい先輩の言葉にアリアも勧められたクッキーを一枚口にした。
そして同時刻、離れた場所でシリルが若干の悪寒を感じていることなど知らないままその甘さを堪能した。
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