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私の勇者様 ~勇者育成計画~  作者: 荒木 リザ
第四章 魔界進攻編
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第七十四話 

 テントの周りでも、激しい戦闘が繰り広げられていた。見渡す限りでは魔人の姿は見当たらない。それ以外の敵なら学生兵でも、なんとか対応は出来ていた。


 ロベリアの護衛を任されていたセント・ギルガラン騎士学校の生徒達が、ロベリアの姿を確認すると血相を変えて駆け寄ってきた。ロベリアは、その者達を振り切って竜也救出に向かった様だった。


 スティーブンは、素早くロベリア王女捜索に散っている者達を、呼び戻すように指示を出す。


 竜也は、テントに入ると、3Dマップと指揮机に無数に置かれた水晶球に視線を向けた。


 半ドーナツ型に形成されている陣営の内側に、無数の黒い点が点在している。その黒い点を内側から学生兵が、外側から騎士団の兵が押し潰すように消滅させていた。


 竜也は体力、精神力順に表示されている画面と3Dマップの画面を、何度となく素早く切り替えをおこなって、味方の配置や敵の様子をうかがっていた。


「学生第六小隊と、騎士団の第三十三小隊、第三十四小隊に救援を! 第三中隊はG-9ポイントへ移動。それに伴い第四十八中隊がF-9へ移動。第八十六中隊はE-9へ移動。あとは半ドーナツ型に布陣している外殻の兵に、外側の様子を警戒させて!」


 直ちに使い魔による伝令が向かわされた。3Dマップに映し出された黄色い点は、すぐさま移動を始める。


 そして次々に、使い魔による報告が舞い込んできた。三十三小隊と三十四小隊を苦しめていた敵は魔人である事が判明。全滅の窮地に陥ったが、第三中隊百名から成る部隊で取り囲んでの飽和攻撃で撃破との報告が入る。


 同じような指示を何回か出している内に、半ドーナツ型の中心部に居る敵の黒い点は徐々に減って行き、やがて消滅した。


 被害報告、戦況は、リアルタイムでどんどん入って来ていたので、戦闘終了と同時に被害状況等が判明する。


 死者一二四名、重傷者八六七名、軽傷者八三七四名と恐ろしい被害が出てしまった。被害が拡大した原因には、奇襲にやられた以外にも敵の編成にあった。前回がゴブリン、グレムリンが主体だったのに対し、今回はオーク、リザードマンが主体になっていたのだ。


 リザードマンとは、通称『トカゲ人間』と呼ばれる亜人で、剣や盾を人間並みに扱かってくるのだ。三日月刀シミターを愛用する者が多く、しかも大半の者が左利きで、その独特の剣裁きと相まってかなりの強敵だというのだ。


 魔人の数は、撃破数で三十七名。例の三日月刀シミター使いは逃げられてしまった。潜伏ハイディングによってロベリア暗殺をもくろんでいた様だったが、近くに居たレプリーの使い魔のシンノスケの感知能力によって看破され、事なきを得たのだ。


 シンノスケの敵索は潜伏ハイディングにも有効という事が判明したので、現在はテントの中でロベリア護衛の任に就いている。


 竜也はヘビが苦手だった。触る事はおろか、見るだけでも背筋に寒気が走るのだ。


 レプリーは、そのヘビを首にかけている。ニシキヘビ位の大きさがあるシンノスケは竜也にとって畏怖いふの対象だった。


 どうでも良いが、レプリーのシンノスケをあやす手付きが非常にやらしい。頭ので方が普通に撫でるのでは無く、つかむようにして上下に摩っているのだ。


 レプリーが、シンノスケにキスをする。竜也は思わず腰を引いてしまった。


 そんな竜也の頬を、例の如くエレーナがつねり上げる。


 —— 貴方の頭の中には、エッチな事柄しかないのですか?


 竜也がも当然とばかりに頷くのを見て、内心ため息を吐く。


 —— 部隊編成の見直しとか有るでしょう。

 —— そうだね……。


 竜也は、負傷者リストを眺める。軽傷者のほとんどが、もう既に治療を受けて部隊に復帰している。


 戦闘が収束に向かい始めた時には、救護班を出動させていたのだ。その素早い対応で救われた命も少なくない。


 しかし重傷者が八六七名も出たのは痛手だった。【全快リカヴァリ】の魔法を受けた者は丸一日使い物にならない。部隊の再編が余儀なくされてしまったからだ。


「部隊の再編は、エミリオさんに任せるよ」


 エミリオは、恭しく片膝を付いて礼をする。そして素早く副官に目配せを送る。


 最初は、常識も分かっていない異世界人に何が出来るとさげすんでいたのだが、部隊の動かし方は、眼を見張る物があった。さすがはロベリア王女が推挙しただけの事はあると思うようになっていた。


「後は敵探知方法なんだけど、視覚、聴覚、嗅覚では発見できない事が判明したよね。シンノスケちゃんの赤外線感知以外に有効と思われるのが、反響定位エコーロケーションを持つタクミちゃんなんだけど、敵探知はどうだったの?」


 すぐさまシェリルが呼ばれた。肩にはコウモリのタクミが乗っている。高位の名士特有の威厳に満ちた堂々たる態度と、ジェレミーに勝るとも劣らない胸の大きさに竜也は身を乗り出す。


 あまり接点が無く、こうして間近で対面するのは初めての事だったが、ここまで見事なおっぱいを見逃していたとは不覚である。


 エレーナが、側面より誰にも気付かれないように肘鉄を食らわす。

 我に返った竜也は、敵探知の成果について問い掛けた。


「私のタクミの能力は、十メートル程しか届きません。相手に視認されたら回避される可能性が高いようです。

 たまたまレクシアさんの使い魔のユタカちゃんと挟み撃ちにして敵を発見しましたが、アクティブに偵察をしても敵の機動力が高ければ、発見は難しいものと思われます」


 竜也はしばし考え込む。シンノスケちゃんの敵感知も十メートル前後までだと言っていた筈だ。憶測だが、シンノスケちゃんよりタクミちゃんの方が移動速度は速いと思われる。


 タクミちゃんの哨戒しょうかいい潜られるとなると、かなり厳しい事になる。ここは重要ポイントの押さえに使った方が賢明だと判断する。


「じゃあ、魔界の入口の警備をお願いするよ。今回はロベリアさんと掘削作業員が狙われたみたいだから、ロベリアさんはシンノスケちゃんに、掘削作業員はタクミちゃんに守ってもらうってのでどうかな?」


 シェリルは、ロベリアに一礼してテントを出て行く。


「ところで、さっき話に出ていたレクシアさんの使い魔って、どんな能力を持っていたっけ?」


 竜也は、エレーナに教えてもらった学院の使い魔情報を思い出そうとする。しかしあまり目を引く能力で無かったのか思い出せなかった。


「レクシアさんの使い魔とは、ネズミのユタカちゃんです。『不可視看破』という特殊能力を持っています」


 エレーナの説明で、なんとか思いだす。配置に悩むが、ここはフリーに哨戒しょうかいしてもらう事にする。


「後は魔人の対処法だけど、魔人は小隊では手に負えないみたいだから、もう少し小隊同士の間隔を狭めようと思うんだ。どうせ敵索も視覚、聴覚、嗅覚では無理なんだから陣形を魔界の入口に集中させようと思うんだけど、どう?」


 竜也は、皆に意見を求める。


「確かに密集陣形の方が隙間を縫って潜入される事も無く安全です。ですが一点突破の強襲に弱いという反面を持ちます。特に、ここの地形のように足場の悪い場所では、逃げ場が無いので強襲を食らった時の立て直しが厳しいですよ」


 クリスティナの意見に、竜也はまたしても考え込む。確かに密集陣形で敵の強襲を受けた場合、その余波は後続の兵へ伝わりやすい。大袈裟な表現をするなら、最後尾の兵が崖から転落という事も考えられる。しかし、それは騎馬等で突っ込まれた場合に起きる現象であって、こんな山岳地帯に騎馬は乗り込めない。


「騎馬隊でもいない限り、そのような現象は起きないと思うんだけど……」

「いいえ、今朝方の強襲部隊に居たミノタウロス、サイクロプス、オーガ、ガーゴイルが大軍で攻めてきた場合、その限りではありません」

「主力部隊となれる程の数が居ると?」

「それは分かりませんが、想定しておかない訳にはいきません」


 竜也は頭を抱える。


「じゃあ、その中間の隊形という事で、どう?」


 確かに半ドーナツ型に広範囲に広がった隊形では、敵の侵入を防ぎきれない事が分かっているので、そうするしか無かった。


 最終決定を促すように皆の視線がロベリアに集まる。


「それで構わん。地形的に見て、敵が強襲を掛けてきそうな箇所は分かっている。そこを強襲された場合を想定して陣形を組む事にする。ガーゴイル等の飛行強襲部隊が居ないとも限らない。密集陣形を基本に、臨機応変に対応できるように編成し直してくれ」


 ただちに陣形が整えられた。竜也は3Dマップを眺めながら、今後想定される展開を可能な限り考え出していた。今この場所だけでなく、ウリシュラ帝国の進攻にも思いをせる。心配事は尽きなかった。


 翌朝までに必ず、もう一回は敵の奇襲があると確信していた。しかも、それは全部隊を率いての総攻撃であると予想していた。


 我知らず握り締めていた拳を、そっとエレーナが手に取って両手で包み込んだ。


 —— 後は任せて……。


 エレーナの思念に、張り詰めすぎて切れそうになっていた緊張の糸が緩和されていくのが感じ取れた。


 —— ありがとう。あと一日、がんばろう。


 竜也は、エレーナの手にもう片一方の手も添えて感謝の念を送った。

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