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私の勇者様 ~勇者育成計画~  作者: 荒木 リザ
第四章 魔界進攻編
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第七十話 

 竜也は、何者かが自分のかたわらにいる気配で眼を覚ました。


 しかし眼は開けずに辺りの様子を注意深くうかがう。呼吸も寝ている時を真似て、ゆっくりと自然に見えるように心掛ける。


 只ならぬ気配に、いま眼を開ける事は得策ではないと判断し、現状のまま出来る限りの情報収集をしようと思ったのだ。


 まず自分の置かれている状況を再確認してみる。昨日は魔界の入口に進攻し、コルネホ山の尾根にテントを張って、そこで仮眠を取っていた筈である。


 しかし、いま竜也を取り巻いている状況は、テントの中に居る感触とは明らかに違っていた。


 何かフワフワと宙にでも浮いているかのように身体が軽いのだ。無重力空間というものを体験した事は無いのだが、もし宇宙にでも行く事が出来たら、このような感覚なのかも知れなかった。


 それにしても全くの無音という状況は、これほど恐怖心をあおられるものなのかと、痛切に感じ取っていた。


 誰かが自分の顔を間近で覗き込んでいる気配が伝わってくる。無音なのに、まったく何も眼にしていないのに、何者かがじっと此方こちらに視線を向けている様子が感じ取れた。それは、とてつもなく身の毛がよだつ感覚だった。


 毛布を頭からすっぽり被りたい衝動に駆られるが、毛布の感触は無かった。自然と呼吸が荒くなってくる。恐怖心は限界に達していた。いったい此処ここは何処なのかと恐れおののきながらも、うっすらと眼を開けて周りの様子を探ってみる。


 まず初めに、恐ろしく深い谷間が目前に飛び込んで来た。もしこの谷間に飛び込んだら間違いなく死ねると思えるほど深い。


 しかし何故か、このまま飛び込みたい衝動に駆られる。落ちれば危険と分かってはいるのだが、飛び込みたいという欲求は抑え切れなかった。


 竜也は、抑えがたい衝迫に駆られて目前の谷間にダイブした。


「あんっ!」


 可愛らしい声と共に顔面は、何とも言えない柔らかい感触に包まれる。このまま埋もれていたいという意思に強引に逆らって顔を上げると、ほんの数センチの距離に女の子の顔があった。視線を下げると巨大な胸と、その谷間が眼に飛び込んでくる。


 竜也は、その谷間を凝視する。ロベリア級の特上おっぱいだった。


「ちょっと、ちょっとキミ、いくらおっぱいが好きだからって、この状況でよく平気で人の胸を凝視できるわね」


 ちょっと幼さの残る甘ったるい声に、竜也は再び顔を上げる。その声に似つかわしい、可愛らしい顔立ちの少女が目前に立っていた。


 年の頃は十歳前後。腰まであるストレートの青灰色の髪と、クリクリとした大きな瞳が特徴的だった。いや、それ以上にひときわ目立つ箇所があった。それは胸だった。十歳前後という未成熟な身体には、不釣り合いの爆乳が眼に飛び込んでくる。


「だから、胸ばかり凝視しないでよね!」


 女の子は、流石に恥ずかしそうに胸をかき抱く。しかし、あまりにも胸が大きすぎて両腕で抱えると、より一層その大きさが強調されてしまっていた。


 竜也は、そこでようやく辺りの様子を見渡す。乳白色の霧に覆われた空間だった。見渡す限り真っ白で、その他には、何も見つけ出す事が出来なかった。


 そしてその空間に、竜也と女の子は宙にでも浮いているかの様にフワフワと漂っているのだった。


 —— これは夢なのか……?


 竜也は、目前の女の子のおっぱいを人差し指で突っついてみる。


「ちょ、ちょっと! なにするのよ!」


 女の子は、つつかれた部分を必死で隠そうとする。しかし胸が余りにも大き過ぎて他の箇所に隙が出来てしまう。


 竜也は、その隙だらけの部分をもう一度つついた。


「ちょっと! 本当にもう、いい加減にしてよね!」


 女の子は、激昂げきこうして竜也の手をはたこうとする。


 竜也は、その手をヒョイとかわすと、片手が空いた事によって出来た隙を付いて核弾頭のミサイル発射ボタンを押した。


「ああんっ!」


 女の子は大仰おおぎょうに身体を震わせながら、慌てて両腕で胸をかき抱く。


 竜也は、発射ボタンを押した右手人差し指を凝視する。どうもおかしい。世界を消滅させる程の破壊力が感じ取れないのだ。これは夢に間違いなかった。その証拠に、エレーナの思念を感じ取る事が出来ないのだ。


「貴方は前にもエレーナの胸を触って、夢かどうかを判断していたわよね? こんな事でどうやって夢かどうか判断できるのよ!」


 女の子のその言葉に、竜也は眉根を寄せる。まるで自分の心が読まれているような感覚に、いぶかしげに女の子を見やる。


「君は誰なの?」


 竜也の問い掛けに、女の子は得意げに両腕を腰に当てて胸を張る。ロベリア級の爆乳が、プルンと震えた。


「私はララエル。神様よ」


 竜也は、茫然ぼうぜんとララエルと名乗る少女を見据える。幼児体型の身体に、このおっぱいは大きすぎる。それに、おっぱいが少し下垂している。美のトライアングルゾーンが少し変形してしまっている事が見て取れた。


 ララエルは、再び胸をかき抱く。


「私は神様だと言ったのよ! なに平然と人の胸の品評してるのよ!」


 竜也は、再び眉根を寄せる。心を読まれている事は、間違いなさそうだった。


「ところで、美のトライアングルゾーンって何なの?」


 ララエルのいぶかしげな問い掛けに、竜也は両手の人差し指と人差し指、親指と親指を引っ付けて三角形を作り出す。


「これが美のトライアングルゾーン。この三角形の底角をバストトップに合わせて、頂角が鎖骨のくぼみにピッタリ合う形をした胸が理想形のおっぱいなんだ」


 そう言いながら、ララエルのバストトップに底角を合わせる。やはり頂角は鎖骨のくぼみには合わない。


「そ、そんなの胸が大きかったら、その三角形の底辺の長さは長くなるんだから、合う訳ないじゃない」

「だから理想なんだよ。同じ大きさの胸でも、胸の谷間が開いていると直角二等辺三角形のようになってしまうし、貧乳だと頂角の鋭い二等辺三角形になってしまう。均整が取れていないと、二等辺ですらなくなってしまうんだ。ようはバランスの問題で、たとえ巨乳でもロリ体型には似合わないって事だよ」


 ララエルは言葉に詰まる。数学は苦手だった。いや、数学どころの話では無く、算数が苦手だった。何を言っているのか、さっぱり理解は出来なかったが、とりあえず凄いこだわりがあるという事だけは分かった。


「……さ、さすがは、おっぱい鑑定士。貴方には『おっぱい鑑定 二級』の技能スキルを与えましょう」


 無知をさらけ出す訳にはいかない。ララエルは、しどろもどろに意味不明の言い逃れをしてしまった。


「ところで此処ここはどこなの? 神様って言ってたけど、ララエルは何しに来たの?」


 ララエルは、大きく溜め息を吐いてみせる。この質問より先に、おっぱいの定義を披露してみせた者は、世界広しといえど、この男以外には居ないだろう。


「ここは異次元空間。通称『神々の間』と呼ばれている場所よ。そして私は、貴方にチート能力を授けに来たの」


 その言葉に竜也は絶句する。あれほど渇望していた能力なのだが、今更のような気がしていた。今までの努力は無駄だったのかと虚しささえ覚える。


「えっと……。僕が召喚されてから、もう二十日以上経ってるんだけど、今までなぜ来てくれなかったの?」


 竜也は、恨みがましくララエルを睨み付ける。


 ララエルは、ヤレヤレと言うように肩をすくめてみせた。


「異世界に召喚される人って、日々いったい何人くらい居るか知ってるの?」


 竜也は首を傾げる。そんなまれな事が、草々あるとは思えなかった。


「と、思うでしょう? ところがドッコイ。なんと、毎日何十人もの人間が召喚されているのよ。最近では学校のクラス丸ごと召喚されたりとか規模が大きくなってきてるわ。

 そして召喚先なんだけど、これが星の数ほどあるのよ。いったい、どこの誰が何処いずこへ召喚されて行ったのかを調べていたら、これくらい時間が掛かっちゃうって訳なの」


 竜也は、素っ気ない返事をする。そんな事はどうでも良かった。


「それで、僕はどんなチート能力をもらえるの?」


 その御座なりな態度に、ララエルはイラッとさせられる。見習いの神だからと舐められているようだ。


「ここに五十二枚のカードがあるわ。ここには色々な特殊能力が書いてあるんだけど、この中の一枚を引いて、そこに書かれている能力をもらえる仕組みになってるわ」


 トランプのようなカードを懐からか取り出して、軽くシャッフルしながらやる気の無さそうな竜也を見やる。


 このように神を敬わない輩は、少々痛い目を見せてやらねばなるまい。


「今回は貴方の為に、もう一枚カードを追加してあげるわ」


 そう言って、胸の谷間から扇情的に一枚のカードを取り出す。


「このカードはジョーカー。要するのにハズレよ」


 そのカードも一緒に混ぜてシャッフルする。ヒンズーシャッフルだけでなく、リフルシャッフルまで華麗にやってのける。中空である事を思わせない超絶技巧だった。


「そのハズレのカードを引いたらどうなるの?」

「その時は、チート能力はもらえないという事になるわ。まぁ、五十三分の一の確率だから草々引けるものでも無いけどね」

「他のカードは、どんな能力があるの?」

「引いたカード以外は、規則で見せられない事になってるの」

「例えば、マイナスになるようなカードもあるの?」

「そういう質問にも答えられないわ」


 竜也は、しばし思案にふける。


「僕は賭け事って嫌いなんだ。何となくだけど、そのカードに書いてある能力ってマイナス要素が多そうなんだよね」


 その言葉にララエルの手がピクリと震える。手元が狂い、シャッフルしていたカードがバラバラと中空に散らばった。慌てて飛散したカードをかき集める。


 竜也は、そのカードの内容に素早く眼を走らせていた。


「今、ヒロイン交代って書いてあるカードが見えたんだけど、それはなに?」


 竜也の眼がスッと細められる。今までの、どこかやる気のない気怠けだるそうだった雰囲気が急変して、何かに覚醒でもしたかのように、すごい威圧感を放ち始める。


 ララエルは、その凄まじい気迫に気圧されたように一歩後退る。


「これはその……。文字通りヒロインを交代させるカードよ」

「意味が分からないよ。それの何処がチート能力なの?」


 静かな怒りを含んだ声色に、ララエルは更に一歩後退る。


「これは貴方のチート能力開花の為に必要なカードなのよ。エレーナはヒロインとしては失格なの。貧乳だし、貴方に近付く女の子を徹底的に排除しようとするし、あの娘さえ居なければ、きっと貴方はハーレムを築き上げる事が出来るのよ」

「ハーレムに興味は無いよ」

「本当に? 貴方はエレーナに思考が読まれる様になって、防衛の為にそのように自己暗示を掛けているだけじゃないの? おっぱいに埋もれて人生を送りたいとは思わないの?」


 竜也は、少し言葉に詰まる。


「確かに、おっぱいは大好きだよ。でもエレーナは、それ以上に大事なんだ。いっその事、ヒロインじゃなくてヒーローを変えれば良いんじゃない? 僕はモブにでもなり下がって平穏にエレーナと一緒に暮すから、そうしてよ」

「そうは行かないわ。その場合、貴方を元の世界に戻して、他の男をエレーナの元に送り付けるわよ」

「いや、それは止めて!」


 さすがに竜也は慌てだす。


「まぁ、見られちゃったこのカードは破棄するとして、五十二枚の中から一枚引いてね」


 ララエルは、先程のカードを破り捨てると、残りのカードを再びシャッフルする。


「まだまだ、僕にとってマイナスになるようなカードは、いっぱいあるよね?」


 竜也の問い掛けに、今度は動揺することなくシャッフルを続ける。謎めいた笑いが肯定している様なものだった。


「さぁ、この中から一枚引いてね」


 シャッフルが完了すると、カードを扇形に広げる。

 竜也は、そのカードを凝視する。そしておもむろにララエルに視線を向けた。静かな怒りは継続中だった。


「僕をあまり舐めないでね!」


 そう言い放つと、扇形に広がったカードを端から順に人差し指でなぞっていく。反対側の端まで指を滑らせると、今度は逆方向に指をわせていく。


 その指が一枚のカードの上で止まった。なんの躊躇ためらいもなく、そのカードを引き抜くと裏返した。


 そこに描かれていたのは、一般的なジョーカーのマークである宮廷道化師のジェスターだった。


 これにはララエルの方が、驚きを隠せないでいた。どういう手品を使ったのかと眼を白黒させる。


「どうやって五十二分の一の確率の物を引き当てたの? 何かインチキでもしたの?」


 竜也は、唖然あぜんとして呟くララエルの胸に、ビシリと人差し指を突き付ける。


「その胸が、すべてを教えてくれたんだよ」


 茫然自失ぼうぜんじしつに陥っているララエルに向かって、したり顔で言い放つ。


 ララエルは胸元をかき抱く。なぜ此処ここに胸の話が出て来るのか、意味が分からなかった。本当の理由を探ろうと竜也の思念を覗いてみる。しかし全く心を読み取る事が出来なかった。


 言い知れぬ恐怖心が湧いてきてララエルは、また更に一歩後退る。


 竜也は、プロテクトを張って心を読まれないようにしていた。エレーナ以外の者に、心を読まれる事は不快だった。精神制御マインドコントロールの修業の成果が、こんな所でも役に立っていた。


「もうこんな茶番には、付き合ってられないよ。さよなら、自称神様」

「あっ! ちょっと! 本当にチート能力は要らないの?」

「要らないよ」

「待って! ちゃんとしたチート能力をあげるから……」


 ララエルは、慌てて引き止めようとするが、竜也の姿はスッとき消えてしまった。



彼奴きゃつは、お主の正体に気付いておった様じゃな。この『神々の間』から自力で脱出した事が何よりの証拠じゃ」


 乳白色の世界に、渋い老人の声が響き渡った。

 ララエルは、茫然ぼうぜんと竜也の消えた空間を眺めていた。


「彼は、どうやってジョーカーのカードを見分けたのでしょう」

「分からぬか?」


 老人の声に、ララエルは頷いて見せる。


「そのおっぱいが、ジョーカーの在処を教えてしまったのじゃよ」


 老人の少しからかうような物言いに、ララエルは小首を傾げる。


「分からぬなら良い。その答えを見つけるまで今後、彼奴きゃつにチョッカイを掛ける事はまかり成らぬ」

「しかし! それでは今後の展開に大きな支障をきたします。現在は、チート能力で無双してハーレムを作るのが主流です。それに、真っ向から敵に当たってしまった場合、彼は殺されてしまいますよ!」

「それも試練じゃ。彼奴きゃつは、おっぱいへのこだわりと同等の信念をもって、今後の自分の行動を決めるじゃろう。その意志はしっかりと受け取った。ここは大人しく、行く末を見守ってやろうではないか」


 老人の気配が、スッとき消えた。

 ララエルは納得がいかないという顔で、竜也の消えた辺りの空間を見つめ続けていたが、やがて溜め息と共に肩をすくめてみせた。

 双肩にかかる重量は、かなりの物だ。胸が重たすぎる。肩をすくめるだけでも一苦労だった。せっかく竜也の為に大きな胸にしてみせたのに、さんざん虚仮こけにされてしまった。


 ララエルは、右手人差し指を軽く振った。シャラランという軽快な効果音と共にメニュー画面が目前に現れる。


 幾度となくタップとフリックを繰り返して身体ステータス画面を出すと、胸の大きさという項目を調節する。


 その途端、おっぱいは見る見る小さくなっていった。ふと、美のトライアングルというものを思い出して、その通りになるように調整してみる。


 思っていたよりも小ぶりになってしまった。この身体に見合う大きさは、これ位という事なのだろうか? まぁ、確かにバランスは良い。


 次に、特定失踪者リストという項目を開ける。異世界拉致、召喚に絞り込む。その数だけでも数百にも及んでいる。


 新たにNewのマークが付いている項目が増えているのを見て溜め息を吐く。また新たに拉致、召喚された者が居るようだ。日々この数は増えていく。星の数ほどもある異世界への経路をたどるだけでも一苦労なのだ。


 とりあえずそれは置いておいて、この世界に召喚された者をピックアップする。お目当ての名前を見つけるとタップした。


 ララエルは、その娘の軌跡を辿たどって行く。オセリア連邦の迷いの森にいる事を突き止めると、さっそく会いに行く事にした。

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