第十四回 艦長室
「では艦長、そろそろ詳しいお話しを聞かせてくれませんか?」
艦長室には次美が訪れていた。入渠に伴う仕事が一段落付いて落ち着いて話せる状況になっていた。
「うーん、何から話そうか……? まぁまずは座って」
悌二郎が苦笑いしながら席を勧める。次美が座るとその隣に悌二郎は座った。向かいに座る物とばかり思っていた次美は驚いて顔を赤らめつつも切り出す。
「で、ではまず艦長の正体を教えてください」
「教えるも何も僕は海軍大佐、杉坂悌二郎だよ」
「そうじゃありません、艦長の経歴は拝見しました、失礼ながらどこをどう見ても本艦の艦長になるような経歴には見えません、何故本艦の艦長になったのですか?」
「それは上の決めたことだから判らないよ。少なくとも僕は水上勤務を望んではいなかった」「艦長が鬼狩り士であることと関連があるのでは?」
「鬼狩り士なんてよく知ってるね。けど僕は鬼狩り士では無いよ」
「はいぃ?」
次美は思わず奇声を上げた。
「あはは、鬼狩り士は九鬼家、鬼塚家、鬼瓦家、鬼首家それぞれの家の者の中でさらに選ばれた人にしか与えられない称号だ。僕の実家の剣術道場は鬼塚家の流れをくんでるけど、だからといってよほどのことが無いと鬼狩り士にはなれないんだ」
「でも艦長は魔獣を退治出来ましたね」
「うん、天照に乗艦するに当たって実家から一応そのための刀を渡されていたからね。でも実際に魔獣を退治出来るかどうか確信は持っていなかったんだ。魔獣も含め妖怪退治なんてしたこと無かったからね」
「なんて無茶をしたんですかぁあッ!!」
次美があきれ、立ち上がって怒った。悌二郎が驚いてソファーから転げ落ちる。
「いや、その……ごめん」
悌二郎が正座して謝罪する。次美もソファーから降りて慌てて正座する。
「あ、いえ私こそ怒鳴ったりして申し訳ありません」
しばし二人の間に沈黙が流れた。
次美が上目遣いで尋ねる。
「あの、それで艦長は水上勤務を望んでいなかったと言っていましたが、それは今でも変わりませんか?」
悌二郎は少し考えて
「正直言って着任当初はイヤだったよ」
悌二郎は正直に打ち明けた。次美に対して嘘をついてもしょうが無いと思っていた。
「でも今はまんざらでも無い気分だよ」
「まんざらでも無いですか?」
「うん、なんと言えば良いのかな…… こんな僕でも役に立ったのが嬉しい。次美さんは僕みたいなのが艦長になって不満だったんじゃ無いかな?」
「正直言って当初はそうでした」
次美も正直に打ち明けた。
「でも今は悌二郎さんは魔戒戦艦天照艦長になるべくしてなったと確信しています。神仏の思し召しかもしれませんね」
両者ともつい名前で呼んでしまって少し照れくさくなっていた。しばしの沈黙の後悌二郎が先に口を開く。
「次美さんは休暇は実家へ?」
「あ、私に実家はありません」
「?」
苦笑いにも似た少し悲しげな顔で次美が続ける。
「私の両親は大陸での動乱に巻き込まれてしまい父は亡くなったと聞いています。母は海軍に救出されましたがその艦で私を産んで間もなくなく亡くなったと。以来私は軍の施設で育ちました。言うなれば軍艦が私の故郷です」
悌二郎が次美を見つめて言う。
「次美さん」
「は、ハイ!」
次美は悌二郎に真顔で見つめられて慌てた。
「良ければ僕の実家に一緒に来ないか?」
「え、あ、はい! え!?」
二人が神奈川県相模原市翠ヶ丘にある悌二郎の実家におもむき、ちょっとした騒ぎになるのだが、それはまた別のお話。
魔戒戦艦天照 完
「魔戒戦艦天照」はこれにて一巻の終わりです。ここまでお付き合いくださり誠にありがとうございます。
本作は、私の初の長編小説になります。元々は、投稿用漫画作品として14年前の平成14年(2002年)に執筆を開始し、完成間際まですすんだモノのオチがどーしても気に入らなくて没にした代物でした。
その後、同人誌漫画作品として平成25年(2013年)に発表したモノの小説版が本作になります。漫画版は「第四回 攻撃」まで描いており、小説に起こす際にあんまりにも短かったので、考えてはいたものの私の技量では漫画で到底描ききれない部分を足していきました。
この「魔戒戦艦天照」を製作するきっかけは、「戦艦を描きたいなぁ」という漠然とした創作意欲からでした。
「せっかくだからオリジナルの戦艦で、あからさまな戦争はイヤだしめんどくさいから、幽霊船を相手にしたら良いんじゃ無いか? 怪獣退治も良いな!」こんな感じで妄想を膨らませていきました。今回は戦争になってしまいましたけど、これは14年の私の変化でしょう。
戦艦の名前を「天照」にしたのはそれが秩序の神様だからです。海の平穏を守る戦艦だからピッタリじゃ無いか! という安直な理由でした。ほかに適当な名前も思いつかなかったし見つけられませんでした。仏教の十二神将から頂く事も考えましたが、格好良すぎるうえにわざとらしいと感じたので採りませんでした。神道の最高神とっ捕まえてアレですが「天照」なら強すぎず、美しい名前ですしね。
ずっと漫画を描いてばかりで、小説を書いた事は皆無、しかも先天性の乱視と後天性の遠視が重なって小説を読む習慣が無いので、文章で物語をどう描き演出したら良いものか、僅かに読んだ小説などを参考にして四苦八苦、試行錯誤しながら執筆し、約一年を経て完成いたしました。ちなみに第一話を投稿した時点で本編はほぼ完成状態で、細かい直しを残すのみでした。
また漫画で得たスキルを用いてなるべく挿絵も入れていきました。漫画版の天照の発表が構想当初から大幅に時を経てしまったのは、とにかく戦艦の作画作業が大変だった事に尽きます。デジタル化によってやっと可能になったと言って良いと思います。構想初期に作画参考用に1/700戦艦金剛を改造して天照を製作しています。先に出た投稿作品はその写真を撮り、任意の大きさにプリントアウトして、それをトレスした物を作画に用いていました。それでも基本的に一コマ一コマ手描きでした。デジタル化で最大サイズでトレスした物を作成し、それを自由に縮小したりして用いたりする事が出来るようになり、大幅に作業の短縮が出来るようになりました。この小説でも沢山用いています。
出来れば3Dデータを作ってあらゆる角度、構図を自由に作れるようになれば良いのですが、生憎私にはそのスキルはありません、でももっと出来るようになりたいとは思っています。いい年ぶっこいて貪欲なのは褒めるべきかあきれるべきかはてさて。
次回作はまた天照を描こうかと考えていましたが、その過程でさらに色々と妄想が浮かんできてどうした物かと考え中です。また、小説の演出の勉強もたくさんしたいので、新作の発表はだいぶ先になりそうな気配です。最短で一年といったところでしょうか。気長に待って頂ければ幸いです。
ではまた。
平成二十八年八月二十一日